神との戦争
novel

 神との戦争(SF)

第一章
敗戦

 それは突如の事だった。
 衛星からも、陸上からもレーダー探知に掛からずに、ユーラシア大陸、アフリカ大陸、北アメリカ大陸、南アメリカ大陸の上空に4隻のUFOが現れた。
大きさは直径約3キロメートル、円盤型の薄い厚さの形で、それぞれの形が微妙に異なっている。色は順に、黄金色、白銀色、蒼銀色、緑銀色をしている。それが、地上から約10キロメートルの所で、ホバリング飛行しているのだ。
 動力源は解らず、ただ雲の様に静かだ。流れる雲の中、一切として微動だにせず、それぞれの艦艇が光輝いている。

 その事実は世界中のニュースで、一斉に報道された。
「UFO出現!!!」
 来るべき日が来たという感じだった。
上空侵犯を侵された国々は、直ちに戦時体制に入り、UFOに対し警告を通報し、ジェット戦闘機に周りを旋回させた。しかし、UFOに近付き過ぎた戦闘機は、微動だにせず、蜘蛛の巣に引っ掛かった蝶の様に、ピクリとも動かずに静止していまっている。時間の流れが止まってしまっているかの様に。
 世界中が騒然として、経済が麻痺して、株価が暴落し、生産工場のライン稼働がストップし、人類は皆、家に閉じこもりテレビ画面にかじり付いて報道を見ていた。
 UFOが現れて10時間後、世界中のインターネット上に、それぞれの国の言語で、
『 友情か降服を 』
とのメッセージが、浮かんだ。
 ユーラシア大陸では雲が消え、真っ青な晴天の空だ。アフリカ大陸には、めったに降らない豪雨が続き、北アメリカ大陸は雷が轟き、南アメリカ大陸では氷が大地に降り注いだ。
 丁度、北半球が真夏の時期である。

 国連総会が臨時で開かれた。
 会場は騒然としていて、各国の大使は各自の席を離れて、会場の所々に輪になって話し合っている。
「攻撃を仕掛けるべきだ」
「いや、向こうは攻撃を加えてくる気配は無い」
 それぞれ、意見が交錯する中で、「核爆弾を打ち込むべきだ」との意見も出ている。全世界の人類だけでは無く、動物達も只ならぬ気配に怯えているのか、しきりに動き回り、遠吠えを繰り返している。
子供達は面白がって、モバイルやデジタルカメラでUFOの写真を撮るのだが、それぞれの艦艇が光輝いていて、太陽を写真に撮る様に上手く写真に納められない。

 ユーラシア大陸に夜が訪れた。夜空は雲1つ無く、星がいつもより数段の輝きを放って、地上に光を届けている。
 黄金色の艦艇の真下に、近隣の住民が拳銃を各自持ち寄って待機していた。各自が不思議がっているのは、身体が燃える様に熱いのだ。UFOまで10キロメートルはあるのに。それでいて、気温を測ると真夏と言っても夜なので25℃前後の気温である。
 UFOの周りで旋回している戦闘機は、UFOから数キロメートルの距離を保って轟音を鳴らしている。静止してしまった戦闘機とは無線で連絡がつかない。
 24時間が経過した所で、黄金色の艦艇だけを残して、3隻のUFOは突如、フラッシュをたいた様な輝きを放ったと思ったら、消えてしまった。ただ、黄金色のUFO艦艇だけを残して。

 丁度、黄金色の艦艇が上空にある国の時刻が、夜中の午前2時を差した時、地上1キロメートルくらいの所に、小型の光るUFOが1隻現れた。それが静かに、時速50キロメートルくらいの速度で降下してきて、草叢に不時着した。
 住民が銃を手に恐る恐る近付いてみると、不時着したと思われた小型UFOは、地上から1メートル程の所でホバリング飛行している。やはり、小型艦艇は光輝いている。
 1人の若い男の住民が拳銃を手に近付いて行くと、その艦艇に触れてみた。すると、その瞬間、彼の姿は消えて無くなった。
 若い男の仲間連中は激怒した。手に持っていた拳銃やライフルで仕切りに小型艦艇を狙撃したが、どれも命中しているはずであるのに、銃弾が何所かに消えてしまうのだ。
 TV局のカメラクルーがその瞬間を克明に捉えていて、世界中に発信している。TVをみている人々は、それを見て、恐怖する者もいれば、激怒する者、泣き出す者、笑う者、それぞれだった。
 軍隊がその場所に到着するなり、住民をそのUFOから遠ざけていった。UFOの周りを、UFOから100メートルくらいの所に車のバリケードを作って、その国の100人くらいの陸軍特殊部隊が取り巻いている。機関銃やら、ライフル銃を手に構えて。戦車や、装甲車の到着を待っているのだ。

 辺りが静まり帰ったその瞬間。小型UFOの近くの草叢に、上空の大型UFOから光が一瞬の内に降りてきたと思うと、そこには消えた若い男が立っていた。
 2人の特殊部隊隊員が彼を救出に向かった。そして、車のバリケードの外に連れ出すと、彼はしきりに、
「アメージング。アメージング」
と、叫んでいた。隊員が、「何があったのか?」と言うと、男は黄金の大きな装飾の美しいクロス(十字架)を手に持っていた。何故か、深海で光る生物の様に、黄金のクロスが光輝いている。
 隊員がそれを取り上げると、まるで浮遊している様な質量の無い程の軽さだ。隊員数人で、どの様な造りになっているのかクロスを回転させて、上下左右から見てみても、構造が理解出来ない。
 しばらくすると、又、上空の大型UFOから、光が一瞬にして降りてきた。着陸した地点を見てみると今度は、大きな白色の羽を持ったコートローブ姿の人間の形に近いが、人間では無い何者かがいた。辺り一面が明るくなるくらいの光を放っている。
 身長は、4メートルはあろうか。羽は左右合わせて10枚ある。一同があっけにとられていると、若い血気に逸った隊員1人が機関銃の音を鳴らした。それを合図に、各方面から一斉に、光る巨人に向かって銃弾を浴びせた。
 しかし、銃弾は確実に光る巨人に着弾しているはずなのに、光る巨人は一向に血を流す気配は無く、ゆっくりと特殊部隊隊長の方に近付いてくる。彼は歩いていないのだ。地上1メートルくらいの所を浮遊している。
 隊長は怖くなって、隊員に手榴弾を投げ込む事を命令した。20発くらい投げ込んで、光る巨人の輝きが失われて、巨人は倒れた。
 その次の瞬間、上空の巨大UFOから巨人に向かって光が放たれると、巨人は輝きを取り戻し、直立し直した。そして、次の瞬間、眩いくらいの輝きを放ったと思ったら、小型UFOごと、姿が消えてしまった。

 その1時間後。巨大な黄金色のUFOから、1発の光が一瞬で真下に降下してきたと思ったら、その着地点半径1000キロメートルにいた全ての人が、その瞬間にしていた行動の姿勢のまま、動きを止めてしまった。
 日の出と共に、救援隊がその巨大UFOの半径1000キロメートルの中に入ると、全ての生命が動きを止めているだけではなく、川の流れ、風の流れ、物の動き、全ての時間が止まっていた。
 これで、約10億人の人間の生命活動が止んでしまったのだ。各国の翌日のトップニュースで、この映像が流された。この地点に入った救護隊が、いくら人や物を動かそうとしても、何も動かないのである。救護隊の踏む地面でさえ、凍土のように固く、足跡すら残らない。
「何なんだ、ここは?」
隊員が言葉を発しているはずなのに、言葉は音にならない。仕方ないので、救護隊はジェスチャーで会話をしている。そういう救護隊の隊員皆の体を、青白い光が包んでいた。
 その日の夜、ユーラシア大陸に住んでいる人類皆が夜空を見上げたら、普段見える夏の星座の星々の合間に、一等星より強く光輝く光の集団があった。数は数えきれない程の無数の数である。
人類敗北の瞬間であった。

第二章
折衝

 臨時に国連の会議が開かれた。何日もそれは続き、降服すべきか戦うべきかの議論が重ねられていた。
 先進国の軍事大国気取りの数カ国が、徹底抗戦をするべきであると主張していたが、ユーラシア大陸の惨事を皆、見ているので殆んどの国々の大使は、終始、大反対であった。
 何しろ、戦おうにも、地球を幾重にも取り巻いている宇宙空間に有る無数の艦艇に、攻撃のしようが無いのである。又、そのUFO艦隊から攻撃してくる気配が無いのだ。
 恐らく、目視で一等星の輝きより大きな艦艇が幾つも無数に存在する事から、大きな艦艇は直径数十キロメートルはあろうか。
 重厚なそのUFOの陣形の中には、突如、消えたり、又、現れたりするものがあるのだ。
 
 それは夜中になると顕著によく分かった。昼間は太陽の光で宙の様子が、人間には目視出来ないし、レーダーにも引っ掛からないのだ。ステルスとも違う、何か特殊な技術を使っている。
 夜中になると、大人達は皆怯えた。子供達は、満天に輝く星々の様なUFO艦艇を見て、只、「綺麗だね」「宇宙人は、どんな姿をしているの?」など、口々に両親に尋ねていた。

 国連会議では、事の成り行きを議論していた。何故、この様な惨事になってしまったのか。映画で創られているSF物では、地球はこの後、蹂躙されるはずである。
 最近の宇宙開発では、宇宙には生命の住める惑星が、数光年先にも存在しているとの研究発見が公表されているが、まさか、地球に突然、こんな事態が訪れるとは誰もが思わなかった。
 UFO艦隊は、明らかに特殊な能力を持っている。人間の世界で言うなれば、所謂、超能力と云った能力である。人間の常識的考えでは、彼等にしたら、核弾頭を地球に投下してくれば、1日にして地球を屈伏させる事が出来るのである。
 それをしないのは、
「地球を征服し、自らが地球に住もうとしているからだ」
との意見が多数であった。地球人類独特の考え方だ。常に外敵から怯えて生きてきて、常に侵略の歴史を繰り返してきた人類だからだ。
 強い者が、強い国が、弱い者を屈伏させる。そういった考え方が地球上では当たり前で、地球人類より遙かに知的で強く、技術力の超越した異星人が存在している事実を認めたがらないのだ。
 もし、その様な事実が存在していたら、権力者達は、自分達の利権を守る事が出来ず、権力構造が反転して、権力者達が地に這いつくばる事になる。
 地球上では、王家みたいな、何の力も無いのに、伝統だけで国を支配していて、利益を貪っている。王家等、その歴史が無ければ、又、法律での取り決めが無ければ、護衛してくれる人達がいなければ、一般人と何も変わらない人種である。
 現に、例を挙げると、ユーラシア大陸の北の地方一帯を統治していた大帝国の革命時に、その国を統治していた王家は皆、惨殺されている。その様な事例が、地球人類の歴史の中では繰り返し行われてきたのだ。

 今現在、地球が直面している事実は、地球上の或る国からの侵略行為では無く、明らかに高度な文明を持った、地球外生命体からの侵略行為である。それも、とてつもない、強大な軍事力を擁している様だ。
 地球上の営みは、それで全て停止し、経済は混乱を極め、製品の製造、流通は麻痺している。人類皆が、自宅待機している中で、懸命に電力、水道、ガス、食糧、生活必需品等の生産に懸命になって働いている者もいる。

 巨大UFO4隻の出現から丁度、10日が過ぎた時、地球の人工衛星を通じて、UFO艦隊から、国連宛てにハッキングで独特のメール文章が送られてきた。それは、世界主要50ヶ国の言語であった。

 「我々は神の艦隊である。私は今回の貴国への遠征を任命された、総司令官ラファエル元帥と申します。貴国は、先日の我々の友情の証である使者に、危害を加えた事により、貴国の一部の、時間と空間と物質の動きを停止させて頂きました。
 交渉の場に着く気があるのなら、この回線から5日以内ご連絡頂ける事を期待する。抵抗する積もりなら、神の命令の下、貴国の知的生命全てを殺処分させて頂く。降服する者は申し出よ。捕虜として検査した後で、自由の身を保障する」

 地球上の各国首脳が、国連本部に急いで集合した。それに丸1日掛かった。紛争地域は、一時、停戦をして、地球上の人類がTVでその会議を衛星中継で見ている。
 最早、抵抗する意見は出て来ずに、皆、頭を抱えている。相手の軍事力が未知数な上に、反撃のしようが無いのだ。何故なら、地球を取り巻く宇宙空間全てを取り囲まれている状態であり、相手の技術力、軍事力、艦艇数など、さっぱり判らないのだ。

 異星人が時間と空間と物質を止めたという地域に、調査員を派遣して、何がどうなっているのかを調査しても、先述の様に、物が全く動かずに、派遣員の体が青白い光で包まれていて、彼等の数ミリの周りだけ、自由が利くのである。彼等の腕にはめている時計は、時刻を刻むが、何故が体の動きに反して、10秒くらい経過してから、時計のデジタル数字が1秒を刻むのだ。
 その中だけ、凍っているのとも違う。色は鮮やかで、昼間の時間帯でも、光の放射を受けた時のまま、暗い夜の日照を示していて、何か特殊な魔法でも架けられた様である。昼間なのに、星空が見えるのだ。

 全会一致で、「無条件降服を宣言すべきだ」と言っている中、
1つの軍事大国だけが、ユーラシア大陸に軍隊を終結させて、独自に軍事行動を起こしていた。
 直径2000キロメートルの境界線を取り囲む様に、陸軍を展開させ、近くの海洋に空母も数隻展開して、爆撃機、戦闘機の発進準備をさせていた。
 その内部は、黄金色の巨大UFOを中心に取り囲む大きな暗いドーム状になっていて、中の様子を見る事が出来ない。
 命令が下された。地上からは戦車、装甲車。空からはジェット戦闘機がドームの中に入って行った。その前に、UFOの座標をある程度特定して、遠距離ミサイルを陸地、海上からUFO目掛けて発射した。ミサイルはドームの中に入る前に、ドームの境界面で小さな爆発音と共に、何所かに消え失せた。所謂、ドームはシールド兼、瞬間移動発動装置で、ミサイルどころか、核爆弾でさえ内部に受け付けないのだ。
 中に入って行った戦闘機が、UFOまで辿り着いて、UFOの蜘蛛の巣に捕まる前に、超強力威力で長射程のミサイルをしこたま撃ち込んで引き返してきた。しかし、全てのミサイルはUFOに辿り着く前に、小さな爆発音と共に、同じ様に何所かに消えてしまった。
 その次の瞬間、UFOが輝きを増したと思うと、ドームの中にあった戦車、装甲車、戦闘機、ドーム外にあった海軍艦艇から、何から何まで爆発をしてしまった。
 死者は、およそ2万人。全滅、壊滅であった。

 国連から、その軍事行動を起こした国は避難を浴びた。勝手な軍事行動と、独断の動きについて。
 国連会場では喧嘩腰の議論が続いて、翌日、UFO艦隊総司令官からの警告から3日目の朝が来た。そうなるはずであった。そうしたら、しかし何故か、パソコン、デジタル時計の日付が前の日の日時を示していた。
 全滅した、軍事大国の軍隊がそっくりそのまま、ドームの外に待機しているのだ。死んだ軍人達の記憶に、自分が死ぬ瞬間の記憶を残して。
 軍事大国の死んだはずの司令官は、本国に全部隊が無事である事を報告した。打ったはずのミサイルでさえ、元通りに発射台に収まっているのである。

 再度、宇宙空間にいるUFO艦隊から、アナログなメールで回線が国連本部に入った。

 「わかりましたか? 我々は神の艦隊です。地球は神、宇宙∞に仇なす謀反人です。これ以上、自己中心的な考え方を止めなければ、地球を丸ごと破壊します。それは神から許可を得ています。
 もし、神に従う気があるのなら、1000万人の元気な男性の人質を差し出しなさい。そうすれば、我々は引き上げましょう」

 国連では、信仰の深い国々の首相から、
「相手は正しく神だ。申し出を引き受けよう。各国から、元気な男性を人質に差し出せば済む問題なら。但し、地球が安全である確約を頂こう」
という声が、圧倒的であった。
 全会一致で意見が纏まった時点で、特使を派遣する事に決まった。その瞬間、国連本部会議場に光が満たされた。光が収まった瞬間、人間と瓜二つだが、羽が12枚背中に生えている真っ裸で光輝く天使が現れた。
体の大きさは人間と同じサイズで170センチ程である。無論、宙に浮いている。
 会場は騒然とした。天使は、名前を名乗らず、
「私はラファエル様の使者。これから、あなた方には、悪魔の思想を持つ、詰まり最高神宇宙∞に従わない惑星が存在します。それら宇宙∞各地に存在している惑星を浄化して貰いに行って頂きます。それぞれの惑星の戦力は、地球と同程度。見事に浄化する事が出来れば、宝箱を得られるでしょう」
と、会場の人間全ての人々の頭に、直接、テレパシーで話しかけてきた。言語は解らないが、意志として伝わってきたのだ。
 「それらの惑星までは、我々の艦艇でお送りしましょう。そこからは、あなた方で考えて、行動をして下さい。お貸しする艦艇は100隻。惑星にお送りするまでは、下級天使がご案内致します」
 そう言うと、その12枚の羽を持つ天使は、忽然と姿を消してしまった。
 その1時間後。黄金色のUFO艦艇の周りのドームが解け、時間、空間、物質が解き放たれた。ドームの中の暗闇は消え、昼の真夏の太陽が燦々と降り注いでいた。

 黄金色のUFOの周りには、99隻の直径500メートル程の中型UFOが浮かんでいる。
 国連では、約束を反故にする訳にはいかないので、各国から健康な軍人と科学者を選抜する事にした。健康な男性という条件だったので、軍人80%、科学者10%、医者・看護師10%という比率で人質を出す事にした。
 科学者は、宇宙の仕組みを理解する上で欠かせない事。又、未知の事態に対応しなければいけない事であらゆる分野から選抜された。
 医師・看護師は、軍医もいるが、日頃の健康をまかなう為に相当数必要であろうと予測された。
 軍人は、あらゆる人種から選抜された。約800万人の軍人である。冷静な司令官もいれば、荒くれ者もいる。様々な言語に対応する為に、英語が話せる人が中心で構成された。
食糧、衣料品、医療品、生活雑貨、あらゆる物をUFOに積み込もうと準備すると、全て消えて、元の場所に戻ってしまう。
 仕方が無いから、宙に浮くUFOに大声で問いかけてみると、
全員の脳に、「それらは必要ありません」と、聞こえてきた。
 準備に20日間を要して、黄金色UFOの下に一部の者達が待機していると、瞬間的に皆の意識が薄れた。自宅にいた者も同じ様に。
 皆が、気が付くと、100隻のUFO艦隊が、地球上空にいて、360度宇宙空間が透けて見えた。UFOには重力が存在していて、また、中が異次元の様に広いのだ。
 黄金色のUFOの中に、国連が決めた最高司令官の姿があった。UFOに乗った1000万人の人達の周りは青白く光っていて、何故か空腹も便意も汗も催さない。
 彼等が地球を見下ろした瞬間。UFOが動き出していた。恐らく光より数億倍は早いと思われる速度で、航行していて、銀河を外から見下ろしているのだ。

 話す声が、先のドームの時の様に、音にならない。しかし、代わりに、話したいと考えた相手と、声を出さずにテレパシーで意思疎通出来た。誰から構わず、
「これは現実か? 夢か?」
という声が、脳に聞こえてくる。
 小1時間程して、何百という銀河を通り過ぎた後で、1つの緑色の惑星の上空に100隻の艦艇が止まっていた。
 悪魔退治の始まりであった。

第三章
初戦

 緑色惑星の大気圏から数千キロメートル上空の宇宙空間で、100隻のUFOが待機している。丁度、その惑星の反対側に恒星がある位置だ。ということは、この惑星では現在は夜の筈である。
 惑星は、どう考えても地球より1回りも2回りも小さい。
 地球軍総司令官である男は、各国から参加している高官や軍事専門家と会議をしている。どの様に、この惑星の異星人と接触を持ち、説得、若しくは、戦うかだ。
 何しろ、武器すら持ってきていないのだ。軍人派の人達は皆、戦う意見を出しているが、学者達は接触を持ち、説得する意見を述べている。何しろ、こんな機会はめったに無いのだから。
 結局、軍人達の意見で戦う意見が押し通った。ここで、一人の空軍パイロットの軍人が、
「よう、天使さん、戦闘機を用意してくれ。燃料も、弾薬も」
と、心で念じた。すると直ぐに、「良いでしょう」と、心に問いかけてきた。
 
 「あなた方が普段使っている武器を、地球から飛ばしてきましょう。それに乗って、この緑色の惑星を攻めるのですね。この惑星は、90%が森林で満たされています。住んでいる異星人は、文明は未発達ですが、野蛮で、神をも恐れぬ蛮人です。必ず、抵抗してくるでしょう」

 空軍パイロットは、地球では、撃墜王で知られる男だ。それに、100人の各国の戦闘機パイロットが賛同した。まずは、一戦してみて、相手の実力を知りたいとの念だ。爆撃機も用意してくれる約束を天使と取り付けた。
 地球軍作戦本部との通信は、テレパシーで1光年くらいなら出来るとの天使の返事であった。戦闘機100機、爆撃機50機で、先制攻撃を掛ける意見で纏まった。
 相手の首都の位置は、天使から聞き出した。
「では、戦闘機と爆撃機に乗せて、あの惑星の大気圏内の中に入れてくれ、天使さん」
そう戦闘員が考えた瞬間、100機の戦闘機と50機の爆撃機は、緑色惑星の大気圏内、地上10キロの所を編隊で飛行していた。燃料空輸機も用意されている。

 惑星は思ったより小さかった。戦闘機が上空を飛んでいても、上空には鳥の様な奇怪な動物が飛んでいるだけで、上空侵犯をしても反撃してくる気配が無い。戦闘機は、轟音を鳴らして空を飛びたい様に飛んでいる。何しろ、空に敵がいないのだ。
 その様子を、戦闘機乗りが見たままを、地球軍の本部にテレパシーで送ると、今度は上陸部隊を送り込もうという話になって、すぐさま空軍ヘリで惑星大気圏内地上に突入した。地上には戦車部隊が展開していた。
  それを知った異星人が、雪崩を打った様に森から出てきた。異星人は、小柄で泥の様な色をして、地球で言えばトカゲの様な姿をしていた。
 大気には直ぐに慣れた。というか、戦闘員の体は青白い光で包まれていて、大気の毒性を感じなかった。体も、小さい惑星のせいか軽く、重力の影響を受けない。
「気持ち悪りーな、こいつら」
戦車部隊は、弾薬を詰めては打ち、装甲車は機関銃で辺り一面を、トカゲ星人の緑色の血で染めた。
 しばらく経って。トカゲ星人は、森に逃げ帰って行き、何やら奇声を挙げていた。その内に、一回り大きな体をしたトカゲ星人が、1匹、森の中から出てきた。年老いているせいか、動きがゆっくりである。
 上陸部隊隊長が、神から貰ったテレパシーで、そのトカゲ星人に語りかけた。
「降服するか? まだやるか?」
その年老いたトカゲ星人は、その場で平服した。すると、森から、ゆっくりとトカゲ星人達が出てきて、皆、戦車や装甲車に向かって平服していった。
 上陸部隊隊長は、興奮状態から覚めて上機嫌になった。そしてテレパシーで、彼等に、
「俺らは、ラファエル軍だ。神の軍である。これからは、ラファエル様を神と仰げ」
と、語りかけた。トカゲ星人達は、こぞって、皆で、
「ラファエル。ラファエル。ラファエル」
と、発音が拙い声で、永遠と歓声を挙げていた。上空には、戦闘機が勝ち誇った様に、綺麗な編隊を組んで、低空飛行をしていた。

 次の瞬間。空軍隊と上陸部隊は、重機を残して、元の黄金色UFOの中にいた。皆に勝利感が湧き上がった。広間には、喜び勇む人達がいた。戦闘に参加した者達は、身体を包んでいた青白い光が、黄色い光へと変化し、背中に小さな羽が生えていた。それで、皆、また沸き立った。

 「よくやりましたね。しかし、無駄な殺生をしてはいけません。そして、ラファエル様は、神ではありません。でも、いいでしょう。合格です。ご褒美として、美しい星系を見せてあげましょう」

 100隻のUFOは、赤紫色に輝く星雲の中に瞬間移動していた。学者達は、感嘆の声を上げて、その景色に見惚れていた。  軍人達は、しきりに小さな羽の生えた戦士の体を見回していた。それから、この100隻のUFOは、それぞれ個性があり、どのUFOに行きたいか念じれば、どの艦艇にも瞬間移動できる事が判った。  もう、地球を立ってから2日は経っている様な気がするが、食欲も生理現象も起こらなかった。不思議と、睡眠も必要無いが、床に寝転がれば眠れたし、気温の変化も感じなかった。正に、快適の一言で、自由であった。  学者達は、しきりに星雲の議論を続けていて、「写真が撮りたい」「絵に描きたい」等、念じていたが、一向にデジタルカメラも筆記用具も出て来なかった。

 軍人達は次の星を攻める会議を続けていた。多国籍軍なので、連携が難しい。共通の言語は最早必要が無くなっていたが、誰が今度は戦闘に出るかで揉めていた。皆、戦いに出たがっているのだ。神秘の惑星を見たいのと、狩猟でもする感覚でいた。 彼等は完全に自分達を見失っていた。自分達が人質であり、人間であることを。幕は未だ、上がったばかりであった。

第四章
連戦

 軍人に規律が生まれてきた。
 落ち着いてリーダーシップを発揮する者。頭脳明晰で、感の働く者。技術的に優れた者。乱暴だが勇敢な者。それで、階級を決めて行った。それぞれの役割毎に、次に天使から命令が下ったら、連携して戦闘に当たる積もりであった。
 一方で、無益な戦闘を回避しようと意見する者もいた。そういった意見は主に、学者からよせられたが、軍人の中にも同じ意見を唱える者が4名いた。1人はアフリカ人、1人はヨーロッパ人、1人はアジア人、1人は混血人種だった。アフリカ人の名前を『イサウュシ』、ヨーロッパ人の名前を『バレク』、アジア人の名前を『ウローヒ』、混血人種の名前を『ジーファー』と云った。
 彼等4人は、意見の一致を機に、仲が良くなった。基本的に、軍人でありながら、臆病な点で4人は似ていた。皆、将校でありながら、自ら、『神の軍の人質』に名乗りを上げた勇者でもあった。
 4人は、無抵抗の惑星は、攻撃すべきでは無いとの意見を発していた。しかし、皆、軍人は考えが麻痺していて、如何に相手惑星を攻め、屈伏させるかに執念を燃やしていた。4人は他の皆に聞かれない様に、広間の端で寄り固まり、それぞれの国と家族に想いを馳せて、テレパシーで会話をしていた。
 
 航行はやがて、数千億個の銀河を超えたか解らないくらい、時間が経過していた。目的地は知らされていない。何しろ、人質という立場なのだから。 銀河のあわ構造のあわ部分に沿って100隻のUFOは進んでいるようだと、専門家が話している。定期的に眩い銀河の中心が見えるからだ。この航行方法が瞬間移動なのかも彼等には解らない。とにかく、銀河の中心が見える事から、所々で、停止しているようだ。  やがて、目的地に着いた。  そこは、燃えるような大きな恒星を中心とする、地球の10倍の半径はあろうかという惑星だった。惑星は、燃える様に赤く、又、青く、銀色をした惑星だ。  一同は「ゾッ」とした。これが惑星なのかという程、大きく威圧感がある。こんな、複雑な地形をした惑星を人類は初めてみた。厳つい、楕円形の様な歪な形をしているのだ。距離にして、惑星から1000キロメートルの地に100隻のUFOは止まった。歪な形をした惑星には、巨大な人工衛星らしきものが幾つも回転している。

 天使の声が皆の頭に聞こえた。
「この星は、神に最も逆らっている惑星です。科学力は、悪魔の異星人にしてはレベルが高く、サターンを信仰しています。この惑星と戦えますか?」
一同は、身体に寒気を覚えた。惑星の所々が、機械化されていて、どうにも気味が悪い。しかし、先の戦いで気を良くし、戦意の上がっている軍人達は、
「当然だ。空母、護衛艦、原子力潜水艦、爆撃機、戦闘機、戦車、装甲車。全て用意してくれ」
と、声に成らない咆哮を上げ、それぞれの軍服に身を包んだ体の胸を張った。
「では、送り込みますが、一つ言っておきます。核爆弾は使えません。また、一度失われた魂は、二度と生き返れません。それが出来るのは神のみです。幸運を」
 そう言われた瞬間。その星の首都である都市に一番近い海洋に地球海上艦隊、原子力潜水艦、戦闘機が出現し、戦車や装甲車が海岸線に展開していた。
 軍人達の体を青白い光で包んでいるが、重力がやたら重たいのが感じられた。地球部隊が展開したと同時に、敵艦隊が目の前に出現した。
 空には黒い羽を持った異形の地球でいう悪魔の様な姿をした鳥人間が沢山飛んでいて、黒光りする光の矢を打ってくる。

 壮絶な戦いになった。原子力潜水艦の援護の下だが、空母は早くも撃沈された。海に浮かんでいる地球艦隊は全て無くなり、戦闘機は悪魔共に黒い光の矢で直ぐに撃沈された。
陸上部隊は、熾烈を極めた。そこに、あの4人の地球人もいた。イサウュシ、バレク、ジーファーは、既に息絶え、ウローヒが3人の死体を引きずって、岩陰に隠れようとしていた。
岩陰に隠れたウローヒは、ラファエルを恨んだ。何故、こんな戦場に、人質1000万人の半分に当たる500万人もの軍人を送り込んだのか。
「神よ、何故、こんな酷い事をするのか。宇宙は神では無かったのか」
そして、いよいよ悪魔に囲まれたウローヒは、3人の死体を庇う様に、機関銃を構えて戦った。悪魔の黒い光の矢がウローヒの胸を貫いた瞬間、宇宙空間から4本の強力な光が降りてきて、4人の死体を激しく叩いた。
4人の死体は光で包まれ、背中にそれぞれ4枚の白い羽が生えていた。物凄い、地響きが、近くの大地を揺らした。それを見た悪魔共は、怯える様に首都の方に逃げ散って行った。

 気が付いたら、4人は宇宙空間のUFOの中にいた。生き残った者はたった4人だったのだ。4人の体は光輝き、大きな4つの羽を背中に背負っている。戦況をテレパシーで見守っていた500万人の人々は、悲嘆に暮れていた。
「戦いには負けてしまいました」
天使の声が聞こえた。一同は怒りを覚えた。
「しかし、4人の小天使が誕生しました。4人は宇宙∞から、直接、1つの魂をそれぞれ頂きました」
 4人は、身体がUFOの床から50センチメートル程、浮いている。傷付いた体の傷は癒えて、力が漲っている。顔は穏やかで、服は着ていない。
「あなたがた4人の信仰は、正しかったのです。あなたがた4人は、これから何所へでも自由に行く事が出来ます。神の元に行きますか? それとも、ここに残り、皆と一緒に戦いを続けますか?」
 4人は顔を見合わせた。そして、
「ここに残って皆と戦います」
と、ウローヒが言った。天使が又、囁いた。
「いいでしょう。あなた方は、どんな姿にも形を変える事が出来ます。滅多な事では死ぬ事もありません。前線に立って戦って下さい」
すると、4人の羽が、彼等の体の背中の中に収まり、人間の姿に戻り、UFOの床に静かに着地した。
 歓声が起こった。皆が理解した瞬間だった。何かの条件下で宇宙∞から魂を頂くと、彼等と同じ天使になれるのだ。
 4人は最早、青白い光で覆われておらずに、小さく光輝いていた。皆が4人を囲んで、
「どうやって生き返った?」
と、矢継ぎ早にテレパシーで聞いて来た。この惑星は悪魔の巣窟で、艦隊も戦闘機も戦車部隊も全滅した旨を言った。4人は、声が出せるのだ。同時にテレパシーで、他のUFOにも話しかけている。
 この惑星の近くから早く去りたい。そう天使に皆が述べると、一瞬にして、綺麗な黄金色の星雲の中に100隻のUFOはいた。これが宇宙∞なのか。皆が感じた瞬間であった。

 やがて、蒼い地球に似た惑星に、100隻のUFOは降り立った。正確には、地上1000メートルの上空にホバリング飛行している。  そして、皆が地上に降りたいと念じると、500万人の人々は、大地の上に立っていた。未だ、知的生命が未発達の惑星の様だ。大気も地球の混合比率に近く、重力もそれ程感じない。  物語は、未だ中盤で、これからの壮絶な戦いの休憩地点であった。

第五章
対立

 黄金色の1隻のUFOと99隻の中型UFOは、何所とも知れない星雲の中に或る、地球に似た惑星大気圏内にいた。乗組員は皆、地上に降り立ち、それぞれ自由に過ごしている。
 地球時間で何十日間もUFOの中にいたのだ。皆、開放感でいっぱいである。
 この惑星が地球と違う点は、植物に似た生命しか居ない点だ。勿論、食欲も睡眠慾も性欲も起きないし、生理現象も無く、快適である。試しに、そこいら辺にある食物の葉を口に入れてみる者がいても、味もしなければ腹も膨れない。
 どうやら恒星の周りを回っている惑星の1つの様だが、月が無い。そして、月では無く、昼間には近隣にあろう惑星が肉眼で遠くの方に見える。
 夜になると、地球の数倍の輝きをした星空が見えた。太古の人間の営みは、この様なものであったのかと学者達は皆、口を揃えて言っている。その真夜中の星空は、唯、蒼黒いだけでは無く、どの方角の彼方かが解らないが、赤紫色のガスが掛かっている様に見える。
 
 小天使4人は、地球軍の中での地位が上がり昇進した。主だった地球軍の勇者達は、先の戦いで戦死していた。
 地球軍最高司令官は、残った軍人300万人を把握して、再編成していた。もう一度、あの惑星を攻めろと言われたら断る積りだった。
 学者達は、無駄な戦いは避けるべきであると主張している。当然、軍人達は、学者や医師達にも戦う事を要求してきたが、何しろ、武器が無いので、操縦の仕方も武器の扱い方も、口頭でしか説明出来ない。
「 百聞は一見に如かず 」で、埒があかない。
 小天使4人の内の3人、アフリカ人、ヨーロッパ人、アジア人は、謙虚であった。この3人は、学者達の意見に賛成であった。先の戦いで地獄を見て来たからだ。宇宙∞には、計り知れない力を持った生命が存在する。500万人もの鍛え抜かれた人間が、ほんの1時間も経たない内に全滅した。それも、最新兵器で武装していたにも関わらず。
 3人は、この戦いが如何に生き残るのが難しいか悟っていた。それより、なるべく戦いを避けて通る方法を天使に聴いて、その天使の導きのままに生き残る方法を模索すべきであると主張していた。
 一方で、4人の小天使の内、混血人種のジーファーだけは違っていた。自らの力の漲り方を皆に伝え、軍人達はその力を得たいと考え、戦いを望んでいた。天使に頼んで、力の拮抗した惑星を攻める事を主張している。
 最高司令官もその主張に賛同していた。結論は出ずに、意見が真っ二つに分かれた。学者達と、軍人の参謀本部との意見が分かれた所で、軍人達が学者達の意見を揉み潰した。
 結局、戦いを望まない者は、3人の小天使と1万人程の学者達と医師だけだった。

 そして、夜明けと共に、天使の声が響いた。

 「皆さん、そろそろ休憩の時間は終わりです。次の旅に出ましょう」

 そこで、3人の小天使達が、意見が分かれた旨を天使に言葉で伝えると、天使は既に承知していたかのように、もう一隻の大型UFOを用意してくれる事を3人に伝えた。
上空の空に、七色の直径10キロメートルはあろうかという大型UFOが現れた。虹の様に光輝いている。

 「戦いに赴かない者は、この船に乗りなさい」

 天使の声が響いたかと思うと、1万人と3人の小天使の姿は消えていた。
「臆病者どもが去った。皆、俺と共に闘って、力を得よう」
ジーファーがそう言って皆に声をかけた。残りの299万人には、テレパシーとして瞬時に彼等の脳に伝わり、歓声が上がった。狂気の心の中の歓声が、惑星を震わせる程に皆の脳を酔わせた。
 次の瞬間、299万人はそれぞれ、100隻のUFOに乗った状態で、宇宙空間の中に居た。辺りは真っ暗で、綺麗な銀河の中心が見えている。

 一方で、残りの1万人と3人の小天使は、七色のUFOの中に居た。そこには、真白な衣に身を纏った、羽が沢山背中に生えている天使達の社交場の様であった。 天使の声が響いた。

 「皆さんには、これから面白いものを見せてあげましょう。そこにいる天使達の作っている道を真っ直ぐに歩いて来て下さい」

 その脳に響く声を聞くと、天使達が道を開けた。その道の先は遥か彼方で果てが見えない。3人の天使達と学者達は、ぞろぞろとその天使達の開けた道を歩いていった。
 果てが見えないと思われた道も、3時間程歩いて時間が経つと、木の扉があった。学者の一人がドアをノックする。すると、皆の脳に、
「代表者10人と3人の小天使だけ入って来なさい」
と、いつもの天使の声が聞こえてきた。
 先頭の10人の学者と、後ろから人混みを分け入って出て来た3人の小天使が、扉に触れた瞬間、眩い光で満ちた空間に13人は浮かんでいた。
 そこには、空間に浮かんだ13脚の椅子が用意されていた。13人がその椅子に座ると、光の輝きと共に、羽の数が数えきれない程の美しい天使が現れた。全員が空中に浮いている。
「ようこそ皆さん。私は大天使ミカエル。これからあなた方を旅に連れ出しましょう」
天使は名前を名乗りそう言った。地球人でいう所の白いローブを着た美女の出で立ちである。身長は175センチメートル程であろうか。しかし、背中には数え切れない程の白い羽を生やしていて、まるで白い孔雀を1000匹集めた様だ。

 「私はこの無限の宇宙∞中の、どこにでも瞬時に移動する事が出来ます。声でご案内致します。私は天使達を束ねる者です」

 ミカエルはそう言うと、光輪になり、天へとゆっくりと上がっていった。皆が茫然と一言も言えずにそれを見上げていると、元の扉の前に立っていた。

 一方で、戦争を選んだ299万人とジーファーは、真紅に燃える様な惑星上空に、100隻のUFOで辿り着いていた。最高司令官は、参謀本部で入念に練った作戦を、皆と共有している。今度は、効率良く相手惑星の首都を奪取して陥落させる積りだ。だから、少数精鋭で、より奇麗に展開した部隊で、首都を包囲して、悪魔を全滅させる予定だ。
 天使から、最新鋭の長距離ミサイルの使用の許可を得ていた。まず、ミサイルをたらふく首都に打ち込んでから、戦闘機で制空権を得てから、爆撃機で更に悪魔を殲滅して、首都を乗っ取る作戦だ。
 今度の作戦には3万人が参加する事になっていた。相手首都の地形も理解していた。皆で覚悟を決めて天使に惑星に飛ばしてくれる様に頼むと、作戦通り理想の位置に、兵器と人員を飛ばしてくれた。
 作戦は成功した。惑星に出現した地球艦隊は、1分後に赤紅の惑星の首都に長距離ミサイルを撃ち込み、首都を蹂躙した。
ジーファーは、4枚の白い羽で空を飛び回り、1人で何百人という空を飛び回る悪魔と、光の矢で戦って、相手を尽く殺戮して消し去った。
上陸部隊が、シールドを張っている相手惑星の宮殿らしき建物に、攻撃を加えて行くと、やがて宮殿はその姿を現した。上陸部隊は、瞬時に宮殿に入り込み、制圧して行った。
悪魔の王は、巨大な10メートルはあろうかという大男で、黒い蝙蝠の様な羽を背中に12枚生やしていた。上陸部隊は直ぐに、その悪魔が、この惑星の王だと理解し、あらゆる方向から銃弾を浴びせかけた。
悪魔の王は、暴れ回ったが、やがて痙攣を起こして床に大きな音を立てて倒れ込んだ。それでも、悪魔の王が再び立ち上がらない様に、上陸部隊は執拗に銃弾を叩き込んだ。

 次の瞬間、戦闘部隊は、新紅の惑星の上空のUFOの中にいた。作戦は成功した。作戦に参加した兵士皆の背中に、小さな白い羽が2枚生えていた。そして、言葉を取り戻した。
ジーファーは、白い羽が4枚から6枚になっていた。戦闘員皆に力が漲っていた。皆が湧きたった。勝利の瞬間である。

 「よくやりました。悪魔の惑星はこれで滅びるでしょう」

 天使の声が聞こえてきた。そうして、全面透明なUFOから、真紅の惑星を皆が見下ろした瞬間、惑星は色を失い、灰色になって巨大な隕石の様に宇宙空間を漂って行った。
 最高司令官は誇らしげに皆にテレパシーで言った。
「やはり、我々が正しかった。戦いを避けた奴らは馬鹿だ。この調子で行けば、悪魔退治を完了して、地球に帰れるかもしれない」
 再び、皆が湧きたった。死者は、殆どいなかった。上陸部隊で帰って来ない者が、数百人いたのみだ。

 すると、この恒星系の恒星が、破裂する様に爆発した。それを見たと思った瞬間、UFO100隻は、綺麗な星が見渡せる別の宇宙空間にいた。
「いったい何が起こったんだ?」
皆が心で思っていると、天使が心に語り掛けてきた。

 「星系は、バランスで成り立っています。惑星が1つ失われた事で、その親玉の恒星が死んだのです。皆さんに罪はありません。全ては神への反逆の代償です」

  後味の悪い結末だが、299万人皆は、 「ラファエル。ラファエル。ラファエル」 と、連呼していた。見たことの無い、恒星の爆発の瞬間を見られた事で、学者達も興奮の渦であった。見知らない宇宙空間で、360度立体的に見える星々は、静かに輝いて瞬きを止めないでいた。

第六章
明暗

 丁度、戦闘組の戦いが終わった頃。3人の小天使と1万人の科学者の一向は、七色のUFOの中にいた。誰も彼も、真白い羽を何十枚、何百枚と背中に生やしている天使達に囲まれている。天使達は一回りも大きな者もいれば、人間大の者もいる。
 天使達は誰も、人間達に興味を示さず、それぞれ、訳の解らない言語の発音で話をしている。テレパシーでは、回線が混雑するからだろう。
 学者達は、相変わらず青白い光で体を包まれていて、お互いに言葉を発する事が出来ず、テレパシーにて皆で会話をしている。先程の事や、天使達の科学力、超能力等の話しを。
 偶に、3人の小天使には、声を掛けてくる天使達もいるのだが、言語が通じない。会話にならず、3人の小天使達は諦めて、学者達とテレパシーで会話をしている。

 大天使ミカエルの声が、学者達の頭に響いた。

「我々は物質世界では、無限の宇宙∞の中に首都を置いていません。何故なら、何所にでも瞬時に行く事が可能で、首都を必要としないからです。又、神と話をしたい時には、天界、つまり精神世界である天国に行きます。
しかし、神はこの宇宙∞に溶け込んでおられますので、何所にでもいて、私達天使達を祝福してくれています。これから、あなた方を、星間旅行に連れて行きます。あなた方がどこまで宇宙∞を理解出来るか解りませんが、学ぶ事を楽しんで下さい」

 すると、大勢いた天使達が皆消え、人間で云う子供の様な出で立ち、身長が120センチメートル程の、羽を数百枚生やしている天使が場に残った。

 「ミカエル様は、お忙しいので、私がご案内致します。これから、色々な銀河や星雲や恒星系惑星巡りをしてみましょう。その後で何か起こるかも知れません。それは宇宙∞が決めた運命ですので、気に病まないで下さい」

 天使はそう言うと、姿を消した。
 一同は、安堵して、それぞれのリラックスした休憩体勢を取った。座り込む者。寝転がる者。疲れは感じないのだが、真新しい事と、頭を整理出来ないでいた。
 学者達は、天使達の技術力が何なのか、議論をテレパシーで重ねていた。小天使3人には何となく天使達の力の源が理解出来た。こうしたいと考えただけで、自由に体が動いたり、体形を変化させたり、テレパシーを発動出来るのだ。

 「それでは旅に出掛けます。途中で、仲間の数が減って行きますが気にしないで下さい。死ぬ訳ではありません」

 天使がそう言うと、七色のUFOは10秒間の瞬間移動に入って、辺り一面が真っ暗な所にいた。ブラックホールの中なのか、ボイドなのか、それともこれが無なのか。学者達が議論し始めた。

 「これは原始宇宙と、あなた方が呼んでいる時間と空間と、無の物質量の中です。これから膨大な質量の拡散が起こります。この船は、その爆発に衝撃を一切として受ける事はありません。理由は言いませんが、時間と空間とこの船の物質が、この宇宙の軸とずれているからです」

 そうすると、突然、七色のUFOの前に、壁の様な巨大な物質が現れたと思ったら、光の輝きと共に爆発をした。所謂、ビックバンである。それは、瞬く間に暗がりに光を照らしたかと思うと、又、静寂が訪れた。光輝く七色のUFOの周りだけ、煙の様に曇っているのだ。

 「これは、無限の宇宙∞の1つのビックバンです。時間を進めます。銀河の誕生まで。質量がある物質が、引力で寄り集まって塊をなしていきます。それに反して、銀河の無い部分が、あなた方の言っているボイドです。ここは、空間と時間の反発力で、物質が寄り集まってきません。通る事は可能ですが、ボイドは避けて通ります」

 銀河が出来て来ると、UFOの周りに光が満たされてきた。そして、一つの小さな若い銀河の恒星系の小さな蒼い惑星の上空に七色のUFOがあった。そして、UFOは瞬時に、その惑星の大気圏の中に突入して行き、複雑な地形をした陸地や海があるのが学者達に見えた。
 UFOが上空1キロメートル程にホバリング飛行していると、地球人とは違う不思議な姿をした原始人らしき異星人が、疎らにUFOの下に集まって来ていた。

 「この星に住んでみたい人はいますか? 未だ、出来たばかりの銀河の恒星系の原始惑星です。この住民達は、あなた方を受け入れるでしょう。大気の混合比も、地球のそれに似ています」

 天使が学者達の脳に話しかけてきた。
学者達は、興味津々に相談を始めた。地球で云う石造りの家の様な石碑群が見える。上陸して、その様子を直接、見てみたい衝動にかられた。
学者達は、長い時間、相談を繰り返した。人類学者、地質学者、科学者、言語学者、数十人の学者が手を上げた。
「私達がここに住んでみましょう。身の安全は保障されるのでしょうね?」
学者がそう天使に問うと、天使が答えた。

 「いいでしょう。この星に住む方々には、300年の命を与えましょう。彼等は、あなた方を神と仰ぐでしょう。しかし、信仰を誤ってはいけません。正しい信仰を、彼等に伝えて行って下さい」

 手を挙げた数十人の学者達は、小さな小型UFOに瞬間移動で乗り移って、石碑群の中央に降り立っていた。そして地に降り立った学者達の背中には、大きな二枚の白い羽が生えていた。
 石碑群に寄り集まってきていた異星人達は、皆、彼等学者達の姿を見るなり、石碑の前にいた者から順に、膝を地に付け平服し、何度も空の七色のUFOと学者達を見て、意味の理解出来ない言語で、叫んでいた。
 学者達はテレパシーで、彼等に意思を伝えた。宇宙∞に神がおられる事を。すると、原住民の異星人達は、変わった3つ目から涙を流して、しきりに、
「 神が来られた 」
と、学者達にも理解出来る様なニュアンスの雄叫びを上げていた。

 一方、戦闘組は、同じ作戦で、悪魔の惑星を、3連戦で攻めていた。毎回、悪魔の惑星首都10キロメートル四方に部隊を展開させて、強力なミサイルを撃ち込んでは、相手方首都を蹂躙して、その惑星の悪魔王を殺戮した。
 そして、戦闘に参加していた者には、天使の小さな羽が生えて、皆で喜び合った。
ジーファーは天使の羽が12枚になっていた。ジーファーは、テレパシーの他に、色々な超能力が身に付いていて、それをコントロール出来る様になっていた。だから、ジーファーは、地球軍参謀本部の作戦に、意見を述べる程、影響力を持っていて、早く次の悪魔の惑星を攻める事を主張していた。
最高司令官もそんなジーファーを無下に使えずに、対応に困っていた。ジーファーは死ぬ事が無いが、地球軍の戦死者は確実に数を増やしているのだ。
根っからの軍人達は、狩りでもする様に、悪魔を殺しているのだ。相手が異星人という意識は無く、動物でも狩猟する感覚でいる。

 ジーファーの体の輝きは、金色では無く、赤色の輝きに変わっている。それが、ジーファーにとってはエネルギーに満ちているので、神の力と思えてならなかった。
 だから、ジーファーは、他の兵士達に対して、自分が格上である様に横柄に振舞う様になった。体も3回り程、大きく膨れ上がっているのだ。

 天使が語りかけてきた。

 「もう1度、あの歪な惑星を攻めてみますか? 今のあなた方なら、あの星と互角に戦う事が出来るでしょう」

 軍人と、学者、医師が湧きたった。この5戦で、悪魔との戦い方は心得た。同じ戦術で行けば、あの歪な惑星の首都を落とせる自信が出来たのだ。最高司令官が言った。
「やってみましょう。互角に戦えるのですね? 天使様」

 「互角に戦えます。しかし、道を間違えないで下さい。あくまでも、あなた方は、神の軍隊です。勘違いはしないように」

 天使はそう答えると、最高司令官の再度の問いかけに、答える事は無かった。

第七章
予兆

 1000万人の人質がとられてから、約3ヶ月が経った地球である。季節は、真夏から秋になっていた。
 地球上の営みは、何事も無かった様に平穏を取り戻していた。経済活動、製造業やサービス業その他の仕事活動、又、学校への通学等、人類は個人的、公的、私的目的で生活を表面上は楽しんでいた。
 しかし、3ヶ月前の異星人による地球への攻撃は、皆の心に深い傷跡を残していた。その時までは、宇宙には地球人類以外に生命が存在していないと考えていて、果てしない宇宙への開拓の夢が、一気に打ち砕かれたのだった。
 そして、宇宙にある物質や広大な土地は、全て人類のものであると考えてさえいた。だが、現実は違った。
 それは、紛れも無い、人類の敗北の瞬間。地球上の他国間の紛争とは違う戦いで、一方的な理不尽な侵略行為に思えてならなかった。地球上の誰の気持ちも、正しく同じで、異星人の植民地になってしまった様な、敗北感と劣等感、閉塞感で世界は包まれていた。

 夫や息子や兄弟を人質にとられた家族は、その安否を心配していた。1000万人と言えば、73~74億人存在している、地球人類のほんの0.2%にも満たない数である。
よく、死亡率という言葉が、日常的に使われている。癌による死亡率。交通事故による死亡率。自殺による死亡率。その死亡率と比べると、微々たる数値に思えるが、人質にも家族がいる。1000万人の人質で地球の安全が担保されたとはいえ、人質の行く末が家族には心を締め付ける様に不安なのだ。
人質にとられた家族や親類は、きっと何時か彼等が健康に帰ってくる。政府に命令を受けて、自分から望んで、自ら志願して人質になった人々。彼等は、きっと異星人に歓迎を受けているに違いない。又は、牢獄に入れられて、監禁生活を受けているに違いない。又は、ペットか召使いの様な扱いを受けているに違いない。それぞれの家族がそう思って、夜空の星々に祈りを捧げていた。

 映画やUFOのTVの特番では、UFOにさらわれた人々は、脳にICチップなりを埋め込まれて帰ってきて、別人になっている。例え人質が家族の元に帰って来ても、別人かも知れない。そんな不安が、残された家族にはある。
 悲しい事実である。人質がいないこの3ヶ月間に、人質としてとられた男達の妻、彼女は、既に次のパートナーを見付けている女性もいた。戦争がもたらす悲劇の1つ。人々の人生や運命を、丸々と変えてしまうのだ。

 或る家族の話である。夫を人質にとられた家族に起こった不思議な出来事であった。
 その家族は、或る宗教団体に参加していて、祖父母に、夫婦に、子供2人の6人の3世代で一戸建てに住んでいた。夫婦の夫は、人質に自国政府の命令で参加させられた1人であった。
 小さな館に6人で住んでいたので、祖父母の部屋、夫婦の部屋、子供達の部屋と、分かれて部屋充てを行っていた。
 深夜に家族が寝ていると、決まって夜中の2時に不思議な事が起こった。青白い光に身を包んだ人質に出た夫が、父が、家を彷徨っているのである。
 それは最初、夜中に尿意を催した幼い息子と娘が、トイレで起きた時に気付いた。子供達は、父が異星人から解放されて家に帰ってきたと思った。青白く光る父に抱きつこうと駆け寄ると、父は身体が無いのだ。眼で見えているにも関わらず。
 急いで、子供達が母親の部屋に行き、真っ暗な部屋で寝ている母を起こした。妻は、青白く光る触る事の出来ない夫を見て、触ろうとして触れずに、涙を流していた。

 それが9日間続いて、世間でも有名になり出したので、10日目の深夜に、いよいよ、TV局と、大学の心霊現象専門で研究している教授と研究者達が、ビデオカメラでその現象を納め様と、その家のあちらこちらにビデオカメラを設置して、その現象を確認しようとした。
丁度、深夜の2時00分になると、神々しい小さな光球が、ポツリポツリと居間に現れたと思うと、それが寄り集まって青白く光る男の姿になった。それが、この家の主人である人質に出た軍人なのである。
TVクルーも、研究者達も、度肝を抜かれ、興奮気味にTV視聴者に伝えている。家族が急いで家の中に入り、軍人に「パパ」と何度も話を掛けると、軍人は何か口を動かして家族に語りかけてきているのだが、何を話しているのか声にならず理解できない。
妻が涙を流していると、丁度、深夜3時00分を時計の時刻が刻んだ瞬間、軍人の体は小さな光の球となって、ゆっくりと部屋の天井を通り抜け、TVクルーの見ている中で、夜宙に昇天して行った。

 それを機に、世界中で何件も同じ様な事例が起こっているのがニュースで伝えられた。国連や、各国政府では、人質は殺されたのではないかとの意見が出ていたが、誰も文句や怒りを口にする者は居なかった。
 人類を守る為に、神の軍隊に連れて行かれたのだ。その契約を破れば、地球がこの先どうなるか判らないのだ。神の軍隊と連絡を取る試みは、ここ3ヶ月間で何度も繰り返されてきたが、一向に返事は無かった。

 そして、夜中の夜空には、研究者の研究に因る流星群の予告が無いにも関わらず、夜中中、流星が降り注ぐのが、世界各地で見る事が出来た。
 地球上の各地で、北半球では異常寒波、南半球では異常熱波が、地球を襲っていた。暦でいうと11月中頃の事なので、別に不思議は無いように思われた。しかし、例年とは確実に何かが違うのだ。最低気温、最高気温を各地で記録していて、死者もそれが原因で出ていた。

 一方で、治安維持は、厳命に行われる様になった。若者を中心に、地球の未来を悲観する様な、「お気楽世代」が出てきて、遊びに明け暮れている。それらの若者だけでは無く、大人達にも、どうせ地球が滅びるのなら、「今の内に楽しんでおこう」という風潮が生まれ、犯罪行為、不倫、仕事を不真面目にする等の世の中になっていた。
 しかしもう一方で、学者、研究者は、神の軍隊の科学力の源が何なのか、懸命に解明に当たっていた。製造業では、より精度の高い高品質の製品を製造する様な、方向に向かっていた。
 要するに、2極化が起こったのだ。現実に直面して真面目になる者、世の中に悲観していい加減になる者。

 ユーラシア大陸の時間と空間と物質の動きを止められた地域は、温暖な気候が続いた。穀物は豊作で、動物は豊かに育ち、人々の性格は優しく穏やかになった。

 国連加盟各国は、次に神の軍隊が攻めてきても、一切として抵抗する積もりは無かった。ラファエルと名乗った神の軍隊の司令官と、異星人が、そんなに悪い知的生命に思えなかったからだ。
 地球上ではもう少しで、年末が来て、年が明ける。北半球の国々では、真夏の開放感を封印して、寒い冬の準備が始められていた。

第八章
堕天

 原始惑星に降り立った数十人の学者は、それぞれ天使の羽を得て、三つ目の原住民の石造りの家に招かれていた。そこは神殿の様な造りで、山沿いの洞窟の入口に、装飾を施した石を積み上げて、近付いてみたら壮大な威圧感のある造りをしている。
 原住民には、地位格差が無い様だ。何か、奇怪な動物の肉の様な食べ物を振る舞われた。多方面の学者がこの惑星に降り立ったので、それぞれの学者達の興味の対象が違っている。
 言語学者は、テレパシーでは無く、懸命に発音をして、英語の発音を原住民に物を交えて教えていて、アルファベットを土に記していた。逆に、原住民の発音する言語を、アルファベットに落とし込み、異星人の各自の名前、物の呼び方、動物の名前等、習っている。
 何かにつけて、異星人は顔の表情を複雑にして、変な人間の腕や手に似た体の一部で、同じジェスチャーをしていた。どうやら、それが、原住民達の神を崇める時の礼節という事だ。

 原住民は、学者達に金塊の塊やら、宝石の原石なりを献上してきた。学者達は受け取りを断ったが、どうしても押し付けて来るので、仕方無く受け取る者もあった。どうやら、価値観は、地球のそれと余り変わらない様だ。美しい物は美しい。
 そして、平均身長が170センチメートル近い原住民の家族らしき3人が近付いて来たのは、小太りした中年のヨーロッパ人の学者の所だ。どうやら身長160センチメートルくらいのほっそりした三つ目の者は、原住民で云う所の若い女性らしく、その娘をその学者の嫁に貰ってくれと言っている。美的感覚が、原住民は少し地球と違う様だ。
 小太りのヨーロッパ人には、地球に妻も子供もいる。当然、断ったが、その娘はその小太りの学者を大層気に入ったのか、側を離れようとしない。そんな事が、学者達に何人も起こっていた。

 地質学者は、辺りの地形や岩石に興味を持って辺りを調査している。物理学者、化学者は、何か地球に無い新しい発見を探している。生物学者は、近くにいる生物を、集めてきては、その珍しさに感嘆の声を上げていた。
 この星では、夜が長く、昼が短い。だから、この星の生物は複眼が多く、異星人には眼が3つある様だ。
 学者達は、この星で300年の間、生きて行く。そんな生活も悪く無いと思い始めていた。

 3人の小天使と1万人の学者を乗せた虹色のUFOは、更に時間を進めて新しく生まれた1つのビックバンの行方を追って行った。それは、偏った方角では無く、あらゆる方向に向けてUFOは旅していた。
出来立ての銀河や恒星系、様々な不思議な星雲を巡っては、天使の解説を受けていた。天使は自由に時間を進めたり、出来立ての宇宙の一部を瞬間移動であちこち空間を移動したり、珍しい造りをした惑星を見せてくれた。
天使は、そうしている内に、学者達の理解が深まってきているのを実感したのか、
「あとで、天界で紹介したい方々がいます。面白い話を聞く事が出来るでしょう」
と言った。

 戦闘組は、何度も作戦会議をしていた。何しろ、500万人の地球艦隊を、小1時間で全滅させた、あの歪な惑星を攻めるのである。
 当然、相手は再攻撃を仕掛けてくる事を予想して、守りを固めているはずだ。若しかしたら、人類の他にもあの星に挑まされた異星人の人質が居たのかも知れない。地球軍が、天使の力を借りてあの惑星に瞬間移動した瞬間に、相手艦隊が反撃してきたのだ。
 先ずは、地球軍最高司令官は地球艦隊の出征メンバーを決めた。天使の小さな羽が生えているメンバーを優先して、ジーファーを相手惑星王と、直接対決をさせる事にした。
 あれだけの軍事力を擁している惑星なので、当然、王たる悪魔は相当に力を持っているはずである。通常兵器では倒せない相手かも知れない。ジーファーの超能力を持ってさえすれば、倒せると確信していた。
 だから、今度は天使に頼んで、少数精鋭で攻める積りでいた。参加する軍人は1万人。
今度は時間差攻撃を仕掛ける作戦だ。
 先ず、陸上部隊と海上部隊を、少数の部隊を悪魔首都10キロメートルの地に送り込んで、10秒後に短距離強力ミサイルを全弾打ち込む。同時に、爆撃機で首都を絨毯爆撃する。それらの人々は、半分、捨て駒で、死ぬ事を覚悟している志願兵で固めた。
 その後、戦闘機で制空権を得て、陸上部隊を悪魔王の宮殿1キロメートルの所に瞬間移動して貰い、包囲して悪魔王を逃がさない様にする。そこで、宮殿のシールドを破り、ジーファーと悪魔王を対決させる積もりである。

 ジーファーは自信を持っていた。3回りも大きくなった体に力が漲っているのだ。皆がジーファーの大きな体に喝を入れる為に、軽く胸を叩いていた。
作戦は決行された。
 1000人程の陸上部隊が惑星首都に瞬間移動した瞬間、悪魔の首都にしこたま短距離ミサイルを無差別に打ち込んだ。それと共に、低空地上5キロメートルの上空に爆撃機を展開して、爆弾をありったけ投下してから、高度を上げて上空に避難する。
 悪魔惑星の首都は、爆煙で包まれた。それでいて、爆煙が納まらない内に、悪魔王宮殿の周りを包囲する様に陸上部隊が瞬間移動で展開して、あらゆる攻撃を加えた。やはり、悪魔王の宮殿のシールドは固く、なかなか破れない。ジーファーがありったけの力を込めて光の矢を放つ。
 シールドが破れた。悪魔どもが、雪崩を打った様にシールドの中から出て来た。陸上部隊は、標的を定めずに銃弾を打ちまくる。悪魔は、低空飛行していた空から、次々と落ちてきて絶命していく。それに、陸上部隊がトドメの銃弾を撃ち込んでいく。

 特殊部隊が宮殿の中に入って行くと、外の悪魔達とは一回り体の大きな悪魔が、所々にいて、激戦を極めた。しかし、先の戦いで、悪魔の倒し方も心得ているので、それらを倒して行くと、宮殿中央部に辿り着いた。
天使の小さな羽を生やした特殊部隊は、扉を打ち壊すと、宮殿中心部広場に巨大な身長30メートル程ある悪魔王が、背中を向けて立っていた。一同は、それを見て恐怖感を覚えて、身ぶるいがした。
直ぐに、部隊は銃弾を悪魔王に打ち込む。しかし、悪魔王に銃弾は届かずに、銃弾が宮殿広間の空気中で静止していまっている。
悪魔王の背中には、漆黒の羽が何百枚と生えている。それが、人間に背中を見せて向こうを向き、腕を組んでいるのだ。
悪魔王が振り向いた。そうすると、広間に入った特殊部隊の隊員全員の体が宙に浮き、身体が拉げていった

 「ジーファー。ジーファー」
皆が叫んで、助けを求めている。ジーファーが広間に入ってくると、ジーファーは、悪魔王の体を見て、身震いを起こした。光の矢を幾つも立て続けに悪魔王に打ち込む。その矢は、悪魔王の体に辿り着いているのだが、身体の表面で悪魔王を包む漆黒の光に吸収されてしまう。
 ジーファーは、身体がガタガタ震え始めた。ジーファーの体を締め付ける様に、捻じる様に、悪魔王の力を感じるのだ。
 次々に特殊部隊隊員が部屋に入ってきては、悪魔王に銃弾を浴びせても、一向に届かない。そして、彼等の体は宙に舞い、壁に叩きつけられて絶命していった。

 遂に、ジーファーの勇気が崩れた。
 ジーファーは、広間のドアから外に飛び出すと、特殊部隊の隊員の静止の声も聞かずに、宮殿の外に出た。外に出たジーファーの目には、空を飛び回る無数の悪魔の姿が飛び込んできた。
 その悪魔どもは、地上に降りて来たと思うと、奇声を発しながら「ゲラゲラ」笑っている。ジーファーは、身体が冷めて行く感じを覚えた。
 苦痛が体を包んでいて、身体の彼方此方に痛みを感じて、自分の腕を見てみた。血管は黒く膨れ上がり、血液が逆流していく。
 背中の羽が痛む。振り返り羽を見てみると、白色だった羽が、身体の根元から黒く変色していった。
 ジーファーは神を裏切ったのだ。ジーファーの顔は歪み、醜くなっていく。眉間が凹み、口には牙が生えてきた。

 そこで、宙が雷鳴に轟き、雷がジーファーの体を激しく打った。ジーファーの体は炎で包まれて行った。
 ジーファーは、膝を地に付き、前に向けて倒れて行った。その体を、悪魔どもが蹴飛ばしている。ジーファーは堕天した。ジーファーが絶命しても、その体を悪魔が取り囲み、楽しそうに笑っている。

 上空の100隻のUFOでは、その戦局が手に取る様に判った。皆が悲しみに暮れていた。同時に、悪魔への憎しみが込み上げてきた。

 「作戦に失敗したようですね。残念です。彼には絶望しました。神の命に背いた罰で、堕天使になり、奈落へと堕とされたのです」

 天使が皆の脳に語りかけてきた。

 「この惑星を離れましょう。未だ、あなた方では無理だったようです」

 一同は、天使に対して怒りを覚えたが、我慢した。ジーファーが余りにも可哀そうで、哀れだったからだ。
 軍人達、学者達、医師達は無言で、UFOの床に座り込んで、死者達に祈りを捧げていた。

第九章
天界

 3人の小天使と1万人の学者達は、短いのか、永いのか解らない時間の中にいた。何しろ、時計も無く、睡眠をしたいという願望、空腹感、性欲、生理現象が起こらない。時間的感覚が麻痺しているのだ。
 やがて、天使曰く、この1つのビックバンの果てと云う所に来た。そこは、銀河も恒星も無く、眩い光も何も無い所であった。
 しかし、そこから、ポツリ、ポツリと白い小さな光の粒が生まれていて、やがて、それらが大きく固まってきて、大きな光の球と成って行く。
 時間の経過速度は実際の地球上での速度と同じでは無い筈である。天使が時間の経過をコントロールしている。
 地球の科学では、宇宙の果ては何も無い暗黒の空間であると、考えられている。現在の人類の科学では。しかし、神の世界では、人知の知れない生命、光の誕生が起きている様である。

 そこで、天使は、3人の小天使と、学者の中から名前も知らないはずである、5名の代表者の名前を、当人の脳の中で呼んで来た。合計8人の人間は、それで天使の導くままに、ひっそりと人混みの中から離れて行った。
 そして、1所に集まったと思ったら、突然、大天使ミカエルの声が8人の頭の中に響いた。

 「あなた方は、宇宙∞の成り立ちを少し理解出来た者達です。これから、あなた方8人は神のおられる場所に行く事が出来ます。あなた方は、神の存在を本当に信じてくれました。お礼に、神の世界に招待致します」

 大天使ミカエルが、そう8人の脳に語り掛けてきたら、8人は光に満ちた、遠くに何も見る事の出来ない空間にいた。
 正面には、大天使ミカエルがいた。そして、ミカエルの両横には、黄金色を基調とした七色の龍(ドラゴン)2頭がいる。
 2頭の龍は、それぞれ個性があり同じ形をしていない。2頭とも巨大だが、1頭は巨大の中にも気品のある姿形をしていて、もう1頭は分厚い体躯に力強さを感じさせた。

 「この2頭の龍は、私の友人達です」

 大天使ミカエルがそう言った。2頭の巨大さに、8人の人間は圧倒されていたが、人間を値踏みする様な、細い眼からの黄金色の瞳の眼差しの中に、優しさが感じられた。

 2頭の龍はそれぞれ、大きな咆哮を上げた。気品のある龍が人間に問いかけてきた。

 「人間どもよ。よくぞ、試練に耐えてここまで来れたな。褒めてやろう」

 力強そうな龍が問いかけてきた。

 「よくぞ来られました。知恵のある者達よ」

 人間一同は仰天した。大きなテレパシーの重低音で、直接、人間の脳に地球上で龍と呼ばれている生物が語り掛けてきたからだ。
気品のある龍は、微動だにせず、小さな大天使ミカエルの横で涼しげに佇んでいる。一方で、体躯の良い龍は力強い動きをして、絶えず大きな体躯で人間を嘲笑うかの様に、8人を見下していた。大天使ミカエルを真ん中に、2頭の巨大な龍がいる。

 大天使ミカエルは、2頭の龍に手を当てると、静かにする様に促した様だ。

 「ここは、神のおられる無限の空間。天界です。見た通り、何も無い様に見えますが、ここは生命で満たされています。ここから、物質世界に向けて魂が旅立って行きます」

 8人がそれを聴くと、確かに何かが彼等の体を擽ってくる。空気で空間が満たされている訳では無く、液体であり、固体である、空気である。

 「この世界を見た生きた生命体は、あなた方が初めてです。これは、神の計算から成り立っている無限の未来への予知で、初めから決まっていたことです。これから、あなた方は、この事実を地球に帰って伝える為の旅に出ます。しかし、信仰を誤った場合には、あなた方は堕天するでしょう。それを心得ていて下さい」

 8人は利口であった。大天使ミカエルの言っている意味が直ぐに理解出来た。大天使ミカエルは、この事実を虹色のUFOに8人を戻しても、決して口外しない様に忠告した。
 天界と呼ばれる所は、光の出所が解らない眩い世界。太陽の光で、生命活動を行っている地球上とは、明らかに違う。
 そう思った瞬間、8人は元の虹色のUFOの中に散り散りにいた。8人は、決して時が来るまで、この事実を口外しない事を大天使ミカエルに誓わされた。

 8人の去った天界では、大天使ミカエルと2頭の龍が話していた。大天使ミカエルは、気品のある龍に、
「ガブリエル。あなたは、人間をどう思いますか?」
と、問いかけた。
 ガブリエルは、その巨大な龍の姿から、一気に美しい何千という白い羽のある、美系の小さな女性に姿を変えた。

 「下らない、野蛮で、低能な生命だ。だが、光明は少しある。神の御意志であるから仕方が無い」

 大天使ガブリエルは答えた。大天使ミカエルに比べて、ほっそりしていて気品がある。大天使ミカエルは慈愛のある、均整の取れた体躯である。
 次に、大天使ミカエルは、力強い体躯の龍に尋ねた。

 「ウリエル。あなたはどうおもいますか?」

 大天使ウリエルは、龍の体のまま、面倒くさそうに、だが、真摯に答えた。

 「神の御意志は常に正しい。私はそれに従うまでだ」

 そういうと、大天使ウリエルの巨大な龍は、瞬間移動で姿を消した。大天使ミカエルは、又、ウリエルが悪魔退治に出掛けたのかと、ガブリエルと話していた。
 そうすると、天界が一気に輝きを増した。大天使ミカエルと大天使ガブリエルは、その場で微笑を見せた。
 神、宇宙∞が現れたのだ。神は、ゆっくりと永遠の広がりの輝きのまま、ゆったりと揺らめいて、二人の大天使を撫でる様に光で包んだ。
 大天使二人は、天界そのものに抱かれる様に、それぞれの距離を遠くに離して行った。そうして、1瞬の瞬きと共に、何事も無かった様に、宇宙空間の中に銀河や星々が、その輝きを放って、佇んでいた。

第十章
奈落

 真っ暗闇だ。
 地球で云う所の夜とは違う。地球の夜は、星々の光が射して、蒼い色だ。
 ジーファーは何度も眼を見開いてみるが、どうしても目の前が真っ暗で、何も見えない。手探りで何かを触ろうとしても、掌に触れる物は何も無い。
どうやら裸で裸足の様だ。足元を何か虫、ムカデの様な生き物が這いつくばっていて、ジーファーの足をその触手で刺してきて痛みを感じる。やたらに寒い。

 「新人さんかい?」
誰かが耳元で囁いてきた。ジーファーは、ほっとして、
「どなたですか? 私は眼が見えないのですが」
と言って、その声を掛けて来た男に触れてみた。何か、湿った肌の感覚が判った。相手の顔を触ろうとしたら、男の顔はゴツゴツしていて、歪な感じがする。頭を触ってみると、何か角の様な2本のコブがある。
 すると、男は嫌がってジーファーの手を払い退けた。
 ジーファーは、「すみません」と謝って、自分の頭を触ってみた。すると、男と同じ様に、自分の頭にも日本で云う所の鬼の様な角が2本生えていた。ジーファーは、自分の顔も触れてみた。何か凹凸が酷く、平らで無い。
 ジーファーは酷く不安になって叫ぼうとすると、その男がジーファーの口を手で塞いだ。
「叫ぶと、悪魔どもが集まってくるぞ」
そう男は言って、ジーファーを優しく宥めた。ジーファーはやたら体が重く感じて、眠気が酷い。
 男が「眠いんだろう」と言って、ジーファーを抱き締めてくれた。ジーファーはそれで男に対して安心感を持ち、感謝の言葉を述べた。男が、自分が支えていてくれるから、少し眠れよと言うので、その通りにした。何しろ、床には何かが蠢いているのである。
 ジーファーが安心して深い眠りについた時、背中に酷い痛みを感じた。悲鳴を上げて眼が覚めると、男は既に居なくなっていた。ジーファーは、背中の12枚の羽が盗まれたのだ。

  「大丈夫かい?」
暗闇の中、違う男が話し掛けてきた。ジーファーは背中の痛みに耐えながら、その男に、
「どこか、光のある所はありませんか?」
と尋ねると、男は、
「暫らく歩いてみたら、明るい所に出られるよ。北の方角だ」
と言って、ジーファーの体の向きをその方角に向けてくれた。ジーファーは大変に感謝の言葉を男に述べると、グニャグニャいう床の虫を踏み殺しながら、その方角に真っ直ぐに歩いて行った。
 50歩程、ジーファーが歩みを進めた所で、ジーファーの踏みだした足が、空を切って地面を見失った。ジーファーは、小さな崖を転げ落ちて行った。
 崖の上の方で、「ゲラゲラ」と笑う声が聞こえてきた。どうやら、又、騙された様だ。今度は騙されないぞと、ジーファーが立ち上がると、摺り足でゆっくりと歩みを進めて行った。
 何キロメートル歩いたか解らない程、歩みを進めた所で、又、声を掛けてきた者がいた。
「私は、この世界で一番小さな者です。心も醜く、顔も醜く、身体も薄汚れています。もし、良かったら、あなたを薄らと光の射す所にお連れ致します。着いて来て下さい」
 女の声だった。ジーファーはもう騙されるものかと、その申し出を断った。女はそれでも、ジーファーの手を取り引っ張り出した。ジーファーはそれが頭にきて、女を蹴とばした。女は小さな悲鳴を上げて吹き飛んだが、どうやら少女の様だったので、自責の念に捕らわれて、少女を手探りで探して抱き抱えた。

 ジーファーは、少女を抱きかかえたまま、少女の言う方角に、一歩一歩と摺り足で歩みを続けて行った。
 何日間歩いたか解らない所で、確かに遠くの方角に、何かボンヤリと緑蛍光色に光る場所がある。ジーファーは歩みを進めた。
 行き着いた先には光苔の群生地があった。抱きかかえている少女を降ろしてみると、彼女は未だ地球で言えば10歳にも満たない程の身長の、歪な異星人であった。しかし、ジーファーは彼女を信用した。本当に明かりの灯る所に連れて来てくれたのだ。
 何故か、ここだけはオアシスの様だ。地を這いつくばる虫もおらず、空気も澄んでいて、少しばかり居心地が良い。
ジーファーは自分の腕や足や体を見回してみた。体は、人間のそれとは違い、両生類の様な姿をしている。少女は対照的に、甲殻類の様な姿である。一瞬、ゾッとしたが、何故か感謝の気持ちから、彼女に対して親愛の情が芽生えてきた。丁度、地球に残してきた、妹を思い起こさせた。
甲殻類の様なその体には、幾つも凹みがあり、余程、この世界で虐めにあってきたのだろうと連想された。
ジーファーは少女に名を聞いた。彼女は、
「おたまじゃくしに食べられた、ゲンゴロウです」
と言った。ジーファーは、それでは少女らしく無いと思い、彼女に自分の妹の名前を付けて、
「ジェシー」
と呼ぶ事にすると言った。

 ジェシーに、此処は何所かと尋ねると、ジェシーは、「奈落の最下層です」と答えた。
それで、頭の良いジーファーは全てを理解した。此処は地獄なのだ。自分は神に背いた事で、地獄に落とされたのだ。
 あの歪な惑星での、自分の無様な姿が思い起こされた。自分が一番強い積りでいて、悪魔王の強さを目の当たりにして、仲間を置き去りにして逃げ出した。その事実で、神の怒りを買って此処にいる。
 両生類の様な体でも、それは理解出来た。脳はしっかりと働くし、感情もある。せめて、悪魔王と戦い、死にたかった。ジーファーはそう後悔していた。それが、軍人としての役目だ。
 ジーファーは、ジェシーに地球の話しを延々とし始めた。彼女に理解出来るか解らなかったが、取り敢えず、自分自身の気持ちは納まる。その話は長い自分自身の人生の話から始まって、最後は犯した罪について、長々と話し始めた。
それは、紛れもなく懺悔であった。
 軍人という事もあり、狩猟で動物も沢山、銃で撃ち殺して来た。実戦では、人もその練習と同じ様に、射殺した。動物を殺す事で慣れていたので、余り、人を拳銃で殺した自責の念は無かった。戦争だからと割り切っていた。
 そして、何日間もその話を少女に話し終えた所で、ジーファーは少女が寝ているのに気が付いた。それを見て、ジーファーは、自分も光苔の上に横になり眠りについた。

 深い眠りの中にいると、少女の甲高い悲鳴が辺りに響いた。
 ジーファーは跳ね起きると、少女が醜い悪魔に連れて行かれるのが見えた。悪魔の数は10人程である。
 ジーファーは一瞬、躊躇した。彼女は、地獄で知り合った唯の虫である。ここで、悪魔と揉めても、自分が損なだけである。今、悪魔と戦う勇気も、力も無い。ジーファーの心の中で、悪魔が「放っておけ」と囁いた。ジーファーはその囁きに屈しそうになった。
 しかし、少女は悲鳴を上げ続けている。ジーファーの小さな勇気が、心臓の鼓動を高め、悪魔に対する理不尽な怒りが、込み上げて来た。
 ジーファーは走り出していた。悪魔の中に分け入って行き、少女を助け、抱き上げた。悪魔どもは、ジーファーに対して、槍の様な先の尖った物で、串刺しにしてきた。
 ジーファーは、少女に槍が刺さらない様に少女に覆いかぶると、そのまま絶命した。

 自分が絶命するのをジーファーは自分自身で認めた。少女を守って死ねたなら本望であると考えていた。意識が失われて行くのを感じた次の瞬間、身体の下にいた少女が物凄い熱を帯びて光り出した。
 そこには、気品のある巨大な虹色の龍がいた。地獄の辺り一面が光輝いている。地が轟き、雷が鳴り、大地から植物が生えてきて、地に這いつくばる虫達が、干からびて行った。

 その龍が眼を開けた瞬間、悪魔達は一瞬で灰と化した。
 ジーファーが眼を覚ますと、大龍が名前を名乗った。
「我が名は、ガブリエル。お前は試練を乗り越えた。再び、魂の輝きを取り戻した。戦闘に戻るか、此処に残るか?」
 ジーファーは、迷わず、
「戦闘に、仲間の元に戻ります」
と答えた。
 すると、ジーファーは体が真っ白になり、白い羽が100枚、背中に生えてきた。醜かった身体は元に戻り、宇宙空間の中に居た。燃える様な恒星が近くにあるが、それと対等な程の熱をジーファーが発している。体がやたら軽い。
 ここは何処の恒星系かと思い、仲間の事を考えた時、ジーファーは、元の黄金色のUFOの中にいた。ジーファーの変わった姿を見た時、UFOに居た皆は驚きの声を上げたが、直ぐにそれがジーファーだと解ると、一同は快く、彼を受け入れた。

第11章
秘密

 3人の小天使と1万人を乗せた虹色UFOは、戦闘組と違う時間にいた。
 虹色UFOの人々は、戦闘組の安否をしきりに気にしていたが、天使はその戦況を尋ねても教えてくれなかった。
 3人の小天使は、背中の羽がそれぞれ10枚になっていて、天界に行った5人の学者は、背中に羽が2枚生えていた。それが、油断をすると、人間の形から、天使の姿になってしまうのである。
 羽が増えた理由と、羽が生えた理由を皆に聞かれても、8人は誰一人として真実を話さず、「理由は解らない」ととぼける者、「真実を知った」とだけ言って確信に触れずに頑固に口を閉ざす者、嘘をついて誤魔化す者等、三者三様であった。

 一方で、戦闘組は、死地から数十日と思われる長い時間の後に帰ってきた、ジーファーに皆が注目していた。
 母船である黄金色UFOで、帰ってきたジーファーは、一見別人であり、明らかに天使として羽が増えていて、精悍な面持ちになっていて、戦前とは違い落着きはらっている。そして、やはり黄色く光輝いていた。
 人間の姿に戻っても謙虚で、皆に気を使っている。数十日間、何をしていたのか尋ねられても、一切として答えなかった。
 あの歪な悪魔王との戦闘で、全滅した精鋭部隊1万人の惨状を知っている司令官一同は、ジーファーが帰ってくるまで途方に暮れていた。もう、相手が悪魔とは言え、戦闘において、特に負けて仲間の戦死者を増やしていくのが、耐えられない。成功した場合は良いが、自分達の作戦ミスで、一体、どれくらいの犠牲が払われたか。
 又、人質にとられた人々にとっても、地球に残された家族が心配でならなかった。神の軍隊と云う強大な軍事力で、自分達を人質にとり悪魔と闘わせながらも、約束を反故にして、既に地球が植民地化されているのではないか。では、我々が今現在、戦っている意味は何なのか。
 神の軍隊。天使と名乗る者達に、皆が疑心暗鬼になっていた。
 離れ離れになった人の心というものは、どうしても脆いもので、直ぐに疑いを持ち、浮つく。親子関係、男女間の関係、友人関係。それらは、ちょっとした事がきっかけで壊れていく。

 かと言って、天使の命令に逆らう訳にもいかない。これだけのバーチャルである様な、現実の世界を見せられると、又、神の力ならぬ超能力を見せつけられると、どうしても命令違反をする訳にはいかない。命令違反をしたら、それこそ自分の身だけでは無く、約束が反故になり、地球に災難が訪れるに違いない。
 ラファエルという神の軍隊の司令官に会いたいと、地球軍最高司令官は考えていた。所謂、陳情を行い、これ以上の戦闘を回避させて貰い、何か別の方法で、神の軍隊である異星人のお役に立てないか、模索していきたいと考えていた。

 また違う時間の事である。場所は地球上のユーラシア大陸の黄金色のUFOが現れた、真下の地球上の草叢の中。
 現地人の少年達が、夕方にサッカーをして遊んでいると、虹色蛍光色に光を放つ黄金のクロスが落ちていた。発見した少年は、それを手に取り持ち上げた。何か、プラスチック製品を持つようにやたら軽いが、純度100%(99.999999999%)の黄金であり、宝石で奇麗に装飾されている。仲間がそれを見て、周りに集まってきた。皆の顔や体を、青白い光が包みこんだ。
 少年が急いで家にそれを持ち帰り、両親に報告すると、両親は政府関係者にその事実を報告した。直ぐに、その国の高官と軍隊がその家を取り囲んだ。数人の高官と軍人が家の中に入り、その黄金のクロスを見て、放射線検査をした。
 放射能は微量どころか、微量のPPMも検出されなかった。高官は安心して、それを政府に報告すると、政府は直ぐに国連機関に連絡した。

 国連では、神の軍隊が残して行った痕跡であるクロスを調査する機関を立ち上げる事にした。各国から、科学者を選抜し、ヨーロッパのある都市の建物の、鉛や金属で幾重にも覆われた部屋で、その黄金のクロスが何で光を放っているのか、調査を始めた。
 これは、世界各国の民間人には非公式で行われた。研究は極秘裏に行われたのだ。各国の一部高官だけが秘密を共有し、一切として口外はしない様に約束された。
 そして、クロスを発見した少年達と家族には、護衛を兼ねた監視員がそれぞれつけられた。

 時間は進み、原始惑星に降り立った数十人の学者達の話である。
 原始惑星では、地球に似た文明が発達していた。木造の家や、鉄筋、鉄骨コンクリートの高さの低いビルディングが見られる様になった。学者達が、この惑星に降り立って、150年が過ぎた頃である。
 惑星では、3分割された国が興っていた。学者達に、諍いがあり、3つのグループに分かれてそれぞれ、国を興して、神として大天使ミカエルを崇める信仰が、それぞれ独自の解釈の元、生まれていた。
 学者達は、何故か歳をとらずに、神の声を聴く者として、最高の権力を擁していた。それぞれ、見なれてきた異星人の嫁を貰う者、独身を貫く者、研究に没頭する者と色々いた。

 大天使ミカエルの解釈が、その3つの国々で違っていた。それは、地球に宗教があったせいで、民族性が違っていたからだった。
 学者達はまず、国境を決めた。国境は、川で区切ったり、旗で印をつけたり、島で区切ったりしていた。それでも、この惑星の隅々まで把握した訳では無く、未だほんの5%に満たない陸地、海洋を把握しているだけであった。
 1年に1度、学者達は、国境付近に建てた大きな大天使ミカエルを祀る神殿で、会合を持った。大天使ミカエルの想像上の大きな彫刻が、神殿の中に飾られている。
 そこで、毎年、学者達は意見の異なる激論を繰り返した。それぞれの地球上での宗教をベースとした神の解釈が違っていたので、お互いに譲らない。

 文明は150年で急速に発達した。金属、鉱石、燃料を採掘し、それぞれ、建物の原材料、武器、生活必需品等に加工して行った。化石燃料が無かった為、学者達は、バイオエタノール、アルコール等、うろ覚えの知識で製造して行った。
 移動には、主に、動物(この惑星で馬に当たる馬)に引かせる馬車、自転車等が主であった。ある学者は、自動車の開発に時間を費やしていた。化石燃料が無いため、どの様な機構と動力で、人を高速度で運ぶかを思案していた。

 この惑星は昼が短く、夜が長い。労働時間が限られている。1日は、学者の計算で、地球の2/3時間(約16時間)で、なにしろ、学者達より、原住民の方が夜目が利くので、夜に原住民は仕事が出来る。
 夜の星空は綺麗であった。レンズの知識がある学者が、簡易の望遠鏡を造り、天体観測をしている。ここは、原始銀河の原始惑星で、銀河の中でも中心部に近く、星が密集している。
 地球とは比べ物にならない程、夜宙に光密度の星座が広がっている。それらの星座の名前は、ある学者が、1つずつ命名していったものだった。

 A国は、ヨーロッパという国名をつけた。B国は、アフリカという国名をつけた。C国はアジアという国名をつけた。
 ヨーロッパ国とアフリカ国は軍事増強を図る為、鉄器のソード(剣)と盾を大量生産して、巨大動物や獰猛な動物、未開拓地域からの侵略行為、また領土拡大に備えた。
 アジア国は、それを知らずに、大天使ミカエルの教えの通り、民衆に神の教えを説いて、国を統治していった。
 この惑星に地球の学者達が降り立ってから150年が経った時の時間の事であった。

第12章
交渉

 黄金色の艦艇では、軍人の代表者と、科学者の代表者とジーファーで会議を開いていた。人間人類の習性である。1人で決めるのでは無く、大切な決定事は集団で決める。
 神の世界では、神の独断の元、物事が決められ、それを天使達と神の軍隊が忠実に遂行する。
 何しろ、神は宇宙∞の創造主であり、それに逆らうと地獄を見せられるからである。ジーファーは皆にその事をあえて伝えなかった。勇気を持って伝えても、皆は奈落の最下層での出来事を理解出来ないし、奈落での出来事がまるで夢の中での出来事である様だった。それに、皆に話したら、必ずジーファーは再び堕天する。それが解っていた。
 ガブリエルは、ジーファーに力を与えた代わりに、知識と知恵も授けた。宇宙∞の掟と天界の礼儀作法。神の命にそぐわない事をすると、又、神に背くと奈落に落とされるのだ。

 会議の議題は、案内役の天使とでは無く、神の軍隊の元帥ラファエルと直接交渉する事だった。当然、この会議の内容は、案内役の天使にも聞かれているに違いない。だから、皆、本心で意見をぶつけ合った。
 結論が出た。結論は以上の様なものであった。
 ・まず、地球の安全を保障して頂く。
 ・次に、あの歪な惑星の悪魔王との戦闘を回避させて頂く。
 ・何か、軍人が強制労働に従事し、それが終わったら地球に皆を戻して頂く。

 会議が終わった所で、天使が話し掛けてきた。
「解りました。あなた達の事が。随分、虫の良い話ですね」
天使は呆れ返っている様だ。
「俺、1人であの悪魔王と闘わせてくれ。それで、皆を地球に帰してやってくれ」
ジーファーが大声で言った。ジーファーは本気である。あの悪魔王に怒りを感じていて、自分の不甲斐無さを悔やんでいた。そして、再び魂をくれた、ガブリエルへの忠誠心と、約束があった。
 ひと呼吸があった。
「いいでしょう。ジーファーがそこまで言うのでしたら、大天使ラファエル様に会わせてあげましょう」
姿を現したのは、あの地球の国連本部で姿を見せた天使であった。地球では羽が12枚であった天使は、今度は何百枚か解らない程の羽を背中に背負っている。
「代表者5名を選抜して下さい。ジーファーはここに残って下さい」
そう言われると、地球最高司令官と、軍人2名、学者2名が名乗り出た。決まった途端に、その5名の体がUFOの床から浮かび上がり、天使と共に姿を消した。

 やはり光で満ちている空間に5名は浮いていた。光の先に果ては無い。
 目の前には、巨大な壁がある。何の変哲も無い、白い壁である。しかし、よく見てみると、人間の巨大な足の様なものがある。見上げてみると、そこには巨人が椅子に座っているではないか。
 白いローブに纏った、背中を深く埋めた石造りの椅子に腰かける巨人である。光で満ちているのに、巨人の顔はよく見て取れた。
 天使が巨人の顔の位置まで宙を昇って行き、巨人の顔辺りに止まって、何か巨人と相談していた。巨人は、その天使を煩そうに、手で払い退けると、5人の人間の脳に直接、語り掛けてきた。
「随分、虫のいい話だな。諸君。あなたたちは、人質であり、悪魔との戦闘を託された者である。臆病風に吹かれて、命乞いに来たのか?」  5人は返す言葉が無い。しかし、地球最高司令官は、
「もう、充分、悪魔達と戦いました。沢山の犠牲も払いました。これ以上、戦いを続ければ、私達は全員、死んでしまいます」
と、大天使ラファエルに言い張った。
 大天使ラファエルは、それを聞いても、無表情である。司令官を値踏みしている。天使が、大天使の座っている玉座の周りを、飛び回っている。人間達の言う事を聞き、許してやってくれと言っている様に。

 大天使ラファエルは考え込まなかった。
「いいでしょう。あなた方の勇気は、充分、見て来ました。それでは、希望通り、戦闘からは解放してあげましょう。しかし、条件があります。あの悪魔惑星の悪魔王を倒す事が出来たなら、全員を地球に帰して差し上げましょう」
 5人の顔が、綻んだ。話の解る大天使だと思った。
「では、あの悪魔王を倒す術を教えて下さい」
地球最高司令官は、そう大天使ラファエルに尋ねた。そうすると、光輝く空間が、一気に光を増し、雷が辺りに轟いた。大天使ラファエルは無表情である。どうやら、大天使の怒りを買ったようだ。
 雷が鳴り止むと、辺りは静けさを取り戻した。
「あなた方は、余程、図々しい人種の様ですね。あなた方には、ジーファーがいるではないですか? 彼に頼りなさい」
 5人は納得した。それで勝てると、大天使は言っているのである。そう一同は理解した。今回は、前回の失敗を糧に、綿密な作戦を立てて行く積りだった。
 前回の作戦では、悪魔王の懐まで飛び込めた。そこで、悪魔王へ攻撃が届かずに、皆戦死した。今回は、そこで、宮殿ごと爆破し、悪魔王を丸裸にして仕留めればいい。そんな安直な作戦だ。それに、主だった宮殿にいた中級悪魔は、殆ど倒した。後は、悪魔王を如何に倒すかを考えて、あとは力が増したジーファーに頼る積りだ。
 そんな、青写真を地球司令官は考えていた。それに勝利すれば、皆で地球に帰る事が出来るのだ。
「解りました。了解致しました。それでいいのですね?」
5人は喜んだ。大天使ラファエルは、話の解る優しい男だ。
「そえが出来ればいい。それで地球に帰して差し上げましょう。但し、失敗した時は、どうしますか?」
大天使ラファエルが、強烈に5人の脳に語り掛けてくる。
「その時は、戦い続けます。悪魔どもを根絶やしにする為に」
司令官が答えた。作戦は簡単だ。5人は頭を何度も垂れ、頷いた。

 5人は、次の瞬間。黄金色UFOの中に、5人は居た。先程の話を、皆にテレパシーで言って聞かせた。皆に、歓声の様な共感が起こった。
 ジーファーも、今度は悪魔王に勝てる自信があった。悪魔王に一歩も引かずに、逃げ出す事も無い。作戦会議は、入念に進められた。

 先程の空間では、大天使ラファエルの周りに、天使達が飛び回っている。玉座を立った大天使ラファエルは、巨人の姿から人間大の姿になった。羽は、数千枚はあろうか。美しい男性の姿である。
「ラファエル様も酷な事をされますね」
 1人の天使が、そう問い掛けてきた。
「彼等は、過ちを犯しました。ジーファーは惜しい人材です。助けないのですか?」
他の天使が、そう言っている。大天使ラファエルは無言のままである。
 そうして、光に包まれている空間に光が増すと、神々しい光が無限の空間を揺らめいていた。大天使ラファエルは、その揺らめきに、軽く頭を下げてから、何十キロメートルはあろうかという巨大UFOの中にいた。
 ラファエル艦隊は、宇宙空間に、直径10光年の範囲で展開して、ある赤い惑星を包囲していた。

第13章
昇天

 天使に地球時間で、7日間の猶予を貰った。その間、地球軍では、作戦会議が連日連夜繰り返された。
 まず、前回の作戦を同じ様に実行する事を止めた。恐らく、悪魔共は、地球人より知能指数が高く、同じ戦法は二度と通用しないからだ。今度は、奇襲作戦にも対応してくるだろう。
天使は、何でも可能である。その天使の超能力を最大限に利用させて頂いて、最高の作戦を立てる積りだ。約500万人の人質を救う為に、今度の戦闘員は死を覚悟して戦う。所謂、捨て駒を募り、悪魔王と刺し違えても相手を倒す。そういう、作戦であった。

 戦闘員は10万人を、要員した。あの歪な惑星の首都の各地に、部隊を展開して、一所に悪魔共を集中させない様にする。
 あの惑星には、地球上にすむ人類の人数以上に、悪魔人口が多いはずだ。だから、あの惑星首都に悪魔を終結させている可能性がある。
 それと、天使には悪魔王の居場所が、確実に首都にいる事を確認する事を怠らない事。それが重要だった。悪魔王が何所か他の都市に避難していたら、空振りに終わる。
 とにかく、この戦闘で全てを終わらせ、人質の身から解放して頂き、地球に帰る。それが皆の願いだった。

 皆は地球に帰ったら何をしようか、想いを巡らしていた。家族と離れ離れになって、故郷地球から離れて、如何に故郷の居心地の良さを、懐かしさを感じていた。
 まず、普通に生活をする。異国の地で、痛感した虚無感。学者達でさえ、最初は目新しい宇宙∞に最初は魅せられていたが、やはり日常生活に戻りたいと考えていた。
朝、起きて顔を洗い食事をする。そして出勤して仕事をする。夕方に仕事を終えた充実感と開放感を味わう。そして、帰宅までの時間を楽しむ。家に帰り、家族と時間を使ったり、趣味に時間を使う。夜、寝るまでの時間を有意義に使い、床につく。ベッドの心地よさを感じながら睡眠をとる。
そんな日常的な楽しみが何故か懐かしかった。

 今度は、失敗は許されない。失敗したら、また地球への帰還が遅くなる。その内に、人質は全滅するかも知れない。
 宇宙∞で彷徨っていると、感情も、感覚も麻痺してくる。天使から頂いた不思議な力で、3大欲も、全ての欲も、生理現象も感じない身体を頂いた。地球では、この経験をした自分がどう生きて行くかをそれぞれが模索している。
 皆が地球にいる家族、友人、知り合いはどうしているか気に掛かっていた。自分が帰って来た事を、どう思ってくれるだろうか。異星人にさらわれた自分を受け入れてくれるか。多分、皆が英雄として歓迎されるに違いない。

 戦闘が開始された。
 まず、前回と同じ作戦では通用しない。相手惑星にも科学はある。それを如何に打ち破るかだ。恐らく、悪魔共は、レーダーなり超能力を併用して、地球軍を索敵している。
 そうでなければ、鋼鉄で覆われた戦闘機やステルス機、戦車、戦艦等を意図も簡単に、探し出し、撃沈出来る訳が無い。
 神の軍隊が直接戦わないのは、恐らく、悪魔を見るのも禁忌とされていて、戦うにも値しないのだろう。人類に悪魔と闘わせて、神への忠誠心を人類に試されている。ジーファーに言わせたら、そう云った事らしい。
 戦闘に、このUFO100隻を投入出来ないのは、悪魔にその軍事力の懐の深さを見せない為。それに、悪魔にも仲間惑星が宇宙∞の所々あって、交信しあっているのかも知れない。要するに、悪魔は極少数派の神をも恐れぬ知能の低い、反抗勢力と云うことなのだ。
 広大な無限の宇宙∞の中で、悪魔は人間社会のゴミに当たる。人間社会でも、生活をしていたら、どうしてもゴミが発生する。それが、悪魔の発生源である。
 地球上でも、誰かを呪う時には、必ず汚物を使う。所謂、呪術というものだ。それが、神の軍隊に至っては、人の命でさえ、蘇らせる能力がある。地球上での神の軍隊との戦いや、4人の小天使を生んだ事で、それは理解できている。
 失った戦闘機、戦艦、武器は、地球からテレポーテーシしてきているのでは無く、毎回、同じ物を使っている。要するに、神は、時間も空間も物質も超越しているのだ。

 まず、今回は空から攻める事にした。それは囮部隊で、悪魔の首都を手薄にする為に。そして、犠牲部隊として、時間差を掛けて首都を地上部隊で包囲し、悪魔を苛立たせて首都から出て来させる。又、外からの悪魔の援軍もここで分断する決死隊だった。
 勿論、ミサイルをしこたま、ありったけ首都に打ち込む。それで、首都の建物全てを破壊出来るはずである。
 
作戦は決行された。
 戦闘機や武装ヘリや爆撃機が悪魔惑星の首都上空に広範囲に展開した。積載している爆弾を全て吐き出して上空を旋回して囮になる。爆音が、もの凄い音を地上で立てている。爆弾が地上に到達する前に、悪魔共が、鳥の群れの様に、地上から群がってくる。戦闘機とヘリで、それに応戦している。
 次に、地上部隊が悪魔惑星首都を包囲した。やはり、外から上空を埋め尽くす様に、悪魔が援軍にきた。距離は数キロメートル上空なので、対空砲で応戦する。同時に、首都に向けてミサイルを全弾打ち込んで、そこで待機した。皆が、それぞれの国の神に祈りを捧げる中、ラファエルに祈りを捧げる者もいた。地震の様に地面が揺れ、爆音が轟いている。
 強風が吹いていて、直ぐに爆煙が風に流された。首都は、瓦礫の山になっていて、あの一際目立つ悪魔王宮殿だけがそびえ立っていた。
そこで、その宮殿の中に瞬間移動してくれと天使に頼んでいた地球軍の猛者達が、宮殿のシールドの表面でペシャンコになっていた。それが可能か天使に尋ねたが、天使は答えなかった。
宮殿の周りを10重に部隊が瞬間移動で展開した。1部隊を4小隊に分けて、東西南北に10重に包囲して、シールドを打ち破っている。シールドが壊れた。
その瞬間、先頭の戦闘部隊が機関銃を連射した。ゲームの様に、中から飛び出してきた悪魔共が絶命していく。そのまま、戦闘の部隊が整然と突撃していく。

 ジーファーは、惑星の上空の黄金色UFOで待機していた。自分の出番は未だかといった感じで。軍人の性か、悪魔王との対決がワクワクする。最初の武者震いが納まると、神経が研ぎ澄まされてきた。
 地上部隊が宮殿を制圧して、悪魔王の部屋の扉をこじ開けた。
 その瞬間、ジーファーは30メートル身長のある悪魔王と対峙していた。悪魔王は黒光りしているが、ジーファーは黄色に光輝いていて、背中に白い100枚の羽が生えた天使形態になっていた。体の大きさは180センチメートルくらいだ。
 悪魔王はジーファーに正対している。お互いに微動だにしない。
 悪魔王がテレパシーでジーファーに語り掛けてきた。

「お前はいい人材だ。どうだ、俺の仲間にならないか? 神等と名乗る奴らにこき使われているんだろう。神は、俺様だ。お前が味方になれば神など、簡単に倒せるぞ」

 ジーファーは、せせら笑った。

「悪魔の味方にだれがなるか。お前は今日、ここで死に、我々は神の事を伝えに故国に帰る。悪魔王よ、悪いが死んでもらう」

 悪魔王が先制攻撃を仕掛けてきた。ジーファーの体に圧力が掛かり、壁に叩きつけようとしているようだ。ジーファーはその圧力に耐えた。部屋を回転させる様な竜巻の様な嵐が終わると、ジーファーは「やはりな」と考えて、再びせせら笑った。
 ジーファーが光の矢を連続して悪魔王に放った。1弾目、2弾目は、悪魔王の黒いオーラに吸収されたが、3弾目が悪魔王に直撃した。悪魔王は、20枚の蝙蝠の様な羽を失った。
 悪魔王が再び、ジーファーの脳に語り掛けてきた。

「よくもやったな、小憎。本気を出してやる」

 悪魔王は異形の生物に変形した。この惑星の原住生物の様だ。堅い殻に覆われた、複雑な形状をした生物だ。
 触手がジーファーに伸びてきた。それに触れると、ジーファーの体に電気ショックの様な痛みが走った。ジーファーは微動だにしない。微笑を浮かべている。
 ジーファーは渾身の力で、その異形の生物の体の真ん中を光の矢で打ち抜いた。生物は、絶命した。生物の体に空洞が出来たのだ。
 ジーファーが悪魔王の動きが止まったのを近付いて目視して、確認した。地上部隊の皆が湧きたった。
 次の瞬間、宮殿の外にいた戦闘部隊全てが、惑星上空宇宙空間のUFOに戻っていた。皆で、ジーファーを祝福しようとしたが、ジーファーの姿が見当たらない。皆が変だと思っていた。

 宮殿の中には100人程の軍人とジーファーが居た。合流して、何故、母艦に帰れないのかを話し合っていると、宮殿から出られない訳が判った。宮殿のシールドが再び張られている。ジーファーが渾身の光の矢でそれを打ち破ると、外を悪魔が取り囲んでいた。
 軍人達が「ゾッ」としていると、ジーファーが、
「お前らの悪魔王は死んだ。もう抵抗は止めて降服しろ」
と言うと、悪魔共がやはり「ゲラゲラ」と笑って大合唱となっている。
 ジーファーが何の事か解らず、自分の体を見てみると触手で刺された箇所が、膿んでいた。急激に、ジーファーの気分が悪くなっていく。どうやら、これがこの生命体の攻撃の仕方で、身体を腐らす毒液を撃ち込まれたらしい。
軍医が急いでその箇所を診て、手当をすると、その軍医の手も毒で侵されてきた。軍人の隊長が「近寄るな」と、大声で叫んでいると、ジーファーは見る見る腐って行った。
やがて、ジーファーの体は黄色い光を失い絶命した。

 その瞬間、ジーファーの体から、光る光体が出てきて、急速に天に昇って行った。それを悪魔共は、近寄らないで見送ると、100人の軍人を惨殺した。
 ジーファーの魂は天に召された。ジーファーは、意識が少し残っていて、暖かい母体の液体の中にいる様な感覚で、眠りについた。

第14章
思惑

 天界に赴いた5人の学者と3人の小天使は、UFO内でも言語を話せることが出来る様になった。天使の大きな羽が生えた事により。
8人は、顔を合わせる度に、お互いに会釈をして、天界の秘密を共有していた。天使が選んだ8人である。それなりに、真面目で堅物である。言葉の端にも、天界の話しを出さなかった。
8人は偶に、UFOの端に集まり、ひそひそ話をしていた。話を整理すると、今まで、大天使ラファエルが地球に攻めてきて人質を捕った。戦いを回避した我々は、天使を束ねるという大天使ミカエルと2頭の虹色の龍に会えた。この二人は、それぞれ味方同士であり、何故、自分達で悪魔と闘わずに人間に戦わせるのか。
結論は、我々地球に宇宙∞と、天界の成り立ちを理解させて、神なる者の強大な力を見せつけ、我々を天使の国の信仰に傾け様としている。学者達は、科学を信仰する者だから、正直、神の存在も、心霊現象も信じて居なかった。
だが、現に、我々は超能力を手にし、宇宙∞の理解力が深まった。問題は、この知識を地球に伝える為に、故国に大天使ミカエルが帰してくれるかだ。若し、地球に帰る事が出来たら、画期的な事だ。
神の存在を知る事が出来たが、では『神の正体』は何かだ。どこまで踏み込んで、知識を得て行くと、我々は消されるか、地球への帰還は許されないのではないか? 

 天界は確かに心地よかった。天界に居るだけで、何か全身を包み込む空気が、暖かく優しいのだ。あれは『生命体そのもの』であると、頭の良い学者達は感じていた。
だから、この8人の中から最低でも1人、地球に帰還する。そして、宇宙∞の歴史と神の存在を、正確に伝える。それから、地球に帰ってから、神の研究をする。そう、8人で話していた。
しかし、天使はこのヒソヒソ話でも既に聞いているから、8人のミッションは、天界での出来事を仲間の人質に一切として口外しない。そして、8人の内、7人が犠牲になっても良いから、地球に1人だけでも帰還し、真実を世界中に発信する。
多分、最初、世界中は、その人を嘘吐きと迫害するだろう。しかし、この超能力が残っていれば、世界中が信じるだろう。だから、大天使ミカエルに最大限の忠誠を払って、力の喪失を防ぐ。

 難しい話では無い。地球を離れて、神の軍隊の人質になると立候補なり、推薦されたり、任命された時点で、地球への帰還は諦めていた所である。
それが、侵略者と考えていた神の軍隊は、特定の人にはやたら高待遇なのである。自分達も、誠心誠意、天使の言う事を聞いていたら、不思議な体験と、溢れんばかりの知識を与えてくれる。
悪魔なる生物が何なのかは解らないが、とにかく宇宙∞では少数派の野蛮人であった。地球で云い伝えられてきた天使像、悪魔像と、何ら変わりは無い。
寧ろ、地球でも、悪魔を忌み嫌う習慣がある。だから、神の軍隊は初め、地球を友情国として考えていたのが、捻じれてこんな状態になっている。
話は纏まった。8人は、神に試されているのだ、要するに。だから、
「今度、大天使ミカエルに呼び出された時には、1人、天界に残る事をお願いしてみてはどうか?」
と云う意見が、圧倒的であった。そして、大天使ミカエルに忠誠を捧げて、信任を得れば、自由に故国地球に帰れる力を得られる者が出る事が必要なのである。
8人は、最早、戦闘に参加する気は無いし、出来るだけ天使達から学ぶ事を怠らずに、吸収して、謀反心を起こさない。それが、天使の与えた人質に課された試練なのではないか?
但し、8人以外に、この事を口外してはいけない。そうすると、皆、堕天する。そう云う難しさを抱えていた。

 一方で、地球上である。
黄金のクロスの実験室の中。直ぐに、成分分析をしてみたら、100%の金Auである。表面処理は施されていない。しかし、よくよく考えてみると、地球の計器で測定しても、誤差が生じるので未だ、精密検査が必要である。
そして、刻まれた装飾と宝石を黄金から取り外してみようとしても、取り外せない。どういう接着方法か、解らない。ペンチで剝がしても良いのだが、それは禁止されていた。
宝石は、恐らく地球上には無い鉱石である。専門家に見て貰ったが、特殊な形状に削っていて、奇抜な形状をしている。
装飾を立体的、平面的に投影して、文様を見てみると、確かに芸術である。地球に類似する形状があるか確認したが、見当たらない。文字の様な彫が裏面にある。
極秘で、世界の言語学者に、何と云う文字が書かれているか、分析を進めると共に、デザインに詳しい者に、装飾の彫と宝石の配置を調べて貰っている。

 光の元は、当初、蛍光塗料か、蛍光処理であると考えられていたが、黄金特有の輝きとは全く違う。光の出所が解らないが、どうやらこれを持つと、人間は青白い光で体が包まれて、一時、特殊な能力が付く。
クロスは、地球上の十字架とは少し違い、数学で云うプラスの形に近い。
長さを計ってみると、長い方の長さは、『 379.1333333 mm 』、短い方が、『 286.4333333 mm 』である。
厚さは、部分的に違い、『 30 mm ~ 50mm 』の間に納まっている。
この秘密は、一切として口外しない様に、研究者は研究所からの外出を禁止された。

 惑星に降り立った科学者達が興した国の話である。
科学者が降り立った惑星では、3国に強力なライバル国が出現していた。学者達が惑星地上に降り立ってから170年が経った時分である。
何の障害も無く陸地の領地拡大に精を尽くしていた、ヨーロッパ国とアフリカ国は陸地を、互いに背を向けて遠征して領地拡大に努めていた。
学者達と、原住民の間に子供が沢山産まれて、神の子の子孫として、強力な権力集中をしていた。原住民と学者の子供等は仲が良く、学者の子孫達は、軍隊を組織して、四方八方に、大人数の遠征部隊を派遣していた。
この20年間で、惑星の陸地の50%を支配し終えていた。天使となった学者達と原住民とのあいの子は、超能力と特殊能力を備えていて、更に子を沢山作っては、各地の支配者として、残して行き、現地を支配していった。

 特に、勇猛な者達は、各地で神の子である『 王 』を名乗り、宮殿や城を建てて、現地支配を進めて行った。
この惑星は昼が短く、夜が長い。『 神の軍 』を名乗って飛び道具さえも要する軍隊は、時々、抵抗してくる勢力を除いて、簡単に支配地を広げて行った。
ヨーロッパ国の属国は、黄色の旗に、それぞれの独自のエンブレムを施して、国の国旗とした。アフリカ国の属国は、赤色の旗に、同じ様に独自のエンブレムを施して、国の印とした。アジア国は、青色の無地の旗を掲げたが、領地拡大より、信仰を重視して、各地に神殿を多く建てた。
1年に1回の、大天使ミカエルの神殿での会合では、相変わらず激論が繰り返された。軍事増強を続ける2国に対して、アジア国が、大天使ミカエルの怒りを買わないか心配していたのだ。
神殿の装飾に、各地から貢がれた黄金や宝石の原石を取り入れ、大天使ミカエルに貢物を捧げた。
そう云った時間を過ごしていた時に、アフリカ国の遠征して行った先に、強国が突如、出現した。それは、大天使ミカエルの神の法に背いた一部原住民を、追放して、それらの原住民が遠方に興した国であった。

 戦闘組では、ジーファーの死を悲しむ追悼式が行われていた。
一人で悪魔王と闘い、死んで行った男として、皆に地球に帰ったら、勇者として称えようと、口々に言っていた。
それが終わると、最高司令官が天使に、
「約束通り、地球に我々を帰してくれ」
と申し出ると、天使はこう答えた。

「確かに、悪魔惑星の悪魔王は倒しました。しかし、作戦には失敗しました。悪魔惑星に新悪魔王が誕生しました。大天使ラファエルに問いかけてきます。あなた方を、地球に帰してよいかどうか?」

 地球軍の軍人達が一気に、怒号を上げた。テレパシーで、

「それでは、話が違うではないか。確かに、悪魔王は、ジーファーが倒した。地球に帰してくれ」

と、皆で天使に怒りをぶつけている。

 その頃、地球のアメリカ大陸のある国のある夫婦が、大病院の産婦人科にいた。婦人は妊婦で出産の真っ最中である。旦那が、それを一生懸命に励ましている。
時間は夜中の零時01分。誰も、大病院の外におらず、人気が無い。大病院の建物全体を白い光が覆っていた。
白い光が最高潮に達した時に、病院全体に赤ん坊の産声が鳴り響いた。赤子の重さは『 4321 グラム 』。
元気な女の子であった。両親は、この娘に、『 ジーファー 』と云う名前を名付けた。赤子が産まれた病院では、あちらこちらで、物が風も何も無いのに、独りでに動いていた。

第15章
再会

 黄金色のUFOと99隻のUFOでは、問題が起きていた。
荒くれ者の軍人達が、大天使ラファエルへの反乱を起こそうとしていたのだ。天使に聴かれないように、小さなテレパシーで共通認識を持ち始めて、相談していた。その内容は、今度、悪魔惑星への攻撃を命令されたら、自分達が引き受けて惑星に到達したら、悪魔共と和平し、悪魔惑星に住まわせて貰う。それの方が、余程、このまま戦いを続けるよりは、幾らかましだという理屈で。その数、およそ1万人。
最高司令官は、天使に何度も交渉して、大天使ラファエルに会わせて貰いたい旨を伝えていた。それは学者達も同じで、一時の爆発的な怒りは納まって、話し合いで解決しようと天使と話し合っていた。

 他方で、3人の小天使と1万人の学者を乗せた虹色UFOでは、平穏な雰囲気である。天界に行った8人には、必ず、次に大天使ミカエルからお呼びが掛かる機会があるはずだ。その時には、皆でどう大天使ミカエルに提案をするか、シュミレーションをしていた。
天界に行った8人は、常に心の中で、大天使ミカエルへの美しさと慈愛に触れた事で、祈りを捧げる習慣が出来ていた。
8人で集まった時には何かにつけて、『 ミス ミカエル 』という話で、持ちきりだった。2頭の七色の龍は、地球上の『 龍 』信仰の土台ではないかと云う話しも出て、静かに話題が盛り上がっていた。
大天使ミカエルの美しさからして、落ち着いてこちらから提案したら、話や提案を聞きいれてくれるはずである。大天使ミカエルに仕えたいと言う者までいた。

 機会は突然、訪れた。
天使からお呼びが掛かった。テレパシーで8人の頭に、人混みから離れる様に指示が出された。その通りに行動すると、やはり突然、天界の中に8人はいた。眩い光の中で、8人は宙に浮いている。
案内役の天使が迎えてくれた。

「ミカエル様と、ガブリエル様が、お話しがある様です」

 8人が無重力状態を楽しんでいると、光輪が宙の上から2つ降りてきた。光輪は、半円形に並んだ8人の正面まで来ると、瞬時に美しい2人の何千枚と羽の生えた女性に変形した。
1人は大天使ミカエル。1人は見知らぬ天使だった。
大天使ミカエルが、その見知らぬ女性を「こちらは、私の友人のガブリエルです」と紹介したので、8人は直ぐに、あの気品のある龍の真の姿であると理解した。8人の地球人の内の1人の学者が声を上げて訴え掛けようとしたら、大天使ミカエルがそれを手で制した。

「あなた方の願いは、既に天使達から聞いています。その前に、会わせたい人がいます」

 そういうと、大天使ガブリエルが、手を天に掲げた。すると、そこには、戦闘組として生き別れていたジーファーがいた。皆が度肝を抜かれたのは、その姿である。羽が300枚くらい背中に有り、優雅に宙から下降してくる。顔は、少し笑顔である。
8人の所まで来ると、皆に天界独特の挨拶をしてきた。3人の小天使は、ジーファーの元に駆け寄った。口ぐちに、「どうしてた?」、「その体はどうしたんだ?」と、声を掛けている。
ジーファーは、テレパシーで、喧嘩別れしてからの経緯を簡単に8人に話した。壮絶な戦いの事を。そうして、自分は「天界に住む事を許された」旨を、仲間に告げた。

 3人の小天使は、そんなジーファーが羨ましかった。眩いくらいの天使に昇格していたのだ。そして、3人の小天使が、自分達の現状をジーファーに告げようとしたら、ジーファーは「全て知っている」とだけ答えた。
学者達は、唯、あっけに取られて4人を見ていた。ジーファーが大天使ガブリエルを振り返り、了解を得ると、8人に語り出した。
「私の半身は、地球に帰った。皆は地球に帰りたいか? この天界で生活したいのか?」
と、問いかけてきた。
学者達は、感嘆の声を上げた。ジーファーが動く度に、天界の空気の流れが見える。3人の小天使は、迷わず答えた。
「我々には、地球で待つ家族がいる。だが、ジーファーは天界で1人きりで暮らすのは、寂しくないのか?」
ジーファーはこう返した。
「私の魂の欠片は、私の家族に近い仲の良い夫婦の子として転生した。それに、天界には友人が沢山出来た。だから、もし3人が地球に帰る事が出来たら、地球の皆に伝えてくれ。神は宇宙∞と天界におられた事を」
それで、ジーファーは、5人の学者の1人に言った。あなたが天界で暮らしてみたいと云う人ですねと。
学者は頷いた。大天使ミカエルを見てみると、静かに学者を見ている。その学者は、この体験を通して心底、大天使ミカエルを敬愛し、神の存在を信じていたのだった。今度の人質の1000万人の中で。

 学者は、大天使ミカエルに尋ねた。
「神とは、何ですか? 私には想像も出来ない高い所におられる方ですか? 私は、大天使ミカエル様に、恋をしました。あなたの美しさは、地球上では類を見ないものです」
学者は、未だ30歳の独身の男である。地球では、自分の研究に没頭し、恋人も作らなかったし、女性に振り向きもされなかった男である。
学者は、大天使ミカエルの前で膝をついて、右腕を大天使ミカエルに捧げた。
「どうか、私を天界の大天使ミカエル様の傍に置いて下さい」
他の学者達は、その若い学者を見て、正気かと考えていた。大天使ミカエルは、その様子を唯、じっくりと視ている。大天使ミカエルが瞬きをして、眼を開けると、若い学者は、背中に羽が100枚生えていて、天使へとなっていた。

 やがて、大天使ガブリエルは、ジーファーを伴って、光輪として空に消えていった。それを見送ると、大天使ミカエルも若い学者を伴って、宙を昇り、消えて行った。
取り残された3人の小天使と、4人の学者は、七色のUFOの中にいた。

 アフリカ国は、蛮族との戦いに手を焼いていた。小さな惑星だが、地球の直径より一回り小さい程度の惑星である。
大天使ミカエルの教えを拒んで、国を追放された原住民が、170年間かけて、惑星の裏側で大帝国を築き上げていたのだ。武器は幼稚な剣と楯だが、飛び道具のあるアフリカ国の最前線に、毎日の様に夜襲を仕掛けてきて、前線は崩壊していた。
とにかく、連戦連勝を繰り返してきた3国なので、どうしても前線から中央までの連絡が届かずに、属国の『 王 』達が、持ち堪えきれずに、惨殺されていた。
最初の蛮族からの襲撃から、アフリカ国は国土の1/3を失っていた。
漸く、その襲撃の連絡が中央のアフリカ国の首都に入ってきたのが、最初の蛮族の襲撃から2か月後で、その報は、ヨーロッパ国とアジア国に伝えられて、学者達の耳に届いた。
3国は、大天使ミカエル神殿に学者を集めて、その対策案を練っていた。学者達は、戦争については無知で、息子達である『 王 』に、戦争は任せっきりにしていた。
アフリカ国の学者は、息子達の死の報を聞き、大変に嘆いていた。
この惑星での大戦争の勃発の瞬間であった。

第16章
誕生

 学者達が降り立った惑星では、100年戦争が勃発した。
学者達が興した大天使ミカエルを神と仰ぐ3国は、まずアフリカ国が惑星の裏側に出来た大帝国に攻め立てられた。
大帝国は、悪魔を神と仰ぐ国で、邪悪な信仰をしていた。法律は悪魔王自身で、悪魔王の裁量次第で、地球上では犯罪行為に当たる事を行っても赦された。
大帝国では、殺人、強盗、窃盗、性犯罪も日常的に行われ、悪魔王は自分の側室を1万人も抱えていた。その子供達がまた、勇猛果敢で、父である悪魔王に劣らず、子供を増やして繁殖していったのだ。
170年間の間、大天使ミカエルの教えを忌み嫌い、虎視眈々と力を蓄えて、勢力範囲を拡大して行った。惑星の裏側の大陸で。

 アフリカ国の王子達は、結束して大帝国に対峙して戦った。しかし、大天使ミカエルの教え自体が、争いを好まない教えだったので、戦い慣れもしておらず、戦いの訓練も怠っていた。次々にアフリカ国の属国が大帝国の侵略行為にあって行き、漸く、ヨーロッパ国、アジア国に応援を求めた。
大天使ミカエルを祀る神殿で、3国の学者達が連合軍の組織を宣言した。ヨーロッパ国が、属国から精鋭部隊を編成し、アフリカ国に援軍に向かった。
アフリカ国では、神殿や城郭で、それぞれの『 王 』達が籠城していた。大帝国は、それらを1つずつ落として、3国がそれぞれ首都に置く大天使ミカエル神殿に近付いて来ていた。

 ヨーロッパ国の援軍は50万人程で、直ぐに悪魔を神と仰ぐ大帝国の軍隊を次々と撃退して行った。
アフリカ国の国土は、取り戻されたかに見えた。3国の中心地である大天使ミカエル神殿では、学者達が安堵していた。勝利宣言をしていた。アフリカ国の国境地帯に、城郭を築いて、守りを固めていた。

 1ヶ月が経過した。大天使ミカエル神殿に、緊急連絡がもたらされた。ヨーロッパ国の国境に大帝国の大軍が現れて、ヨーロッパ国の属国が次々に落とされて行っているという一報だった。
ヨーロッパ国の学者は、直ちに、アフリカ国に派遣している援軍を国に引き返す様に命令した。しかし、アフリカ国の学者は、それではアフリカ国の国境付近が又、攻め立てられると反対した。
そこで、海に一番領土が面していて、安全と思われるアジア国が援軍を出す事にした。急いで遠征軍の準備をしていると、今度は、アフリカ国の国境付近から、緊急連絡の使者が大天使ミカエル神殿に到着した。
国境付近に、悪魔大帝国の100万人程の軍勢が現れたという報告だった。

 大天使ミカエル神殿では、学者達が、何が何だか解らずに混乱していた。どちらが悪魔大帝国の本隊なのかが、判らなかった。情報伝達方法が未熟だった理由で。
とにかく、アジア国は、温厚で戦い慣れしていない国民に、事実を広く伝達して、民衆に武器を持って立ち上がる事を促した。
アジア国の国民は立ち上がった。皆が皆、武器を持ち、100万人の2部隊をそれぞれアフリカ国、ヨーロッパ国に派遣した。
アフリカ国では、少しずつ城が落とされて行き、神殿が潰されて行った。ヨーロッパ国は、侵略者に対して、果敢に勇猛に戦っていたが、前線を少しずつ自国内に下げて行った。

 ヨーロッパ国は、属国の国民総力で戦っていた。アジア国の100万人の援軍が前線に辿り着くと、戦況は膠着した。永い戦いの始まりであった。
3国は、民衆に軍事訓練を施す様になり、軍事増強を促した。
学者達がこの惑星に降り立ってから、180年が経過した所で、アフリカ国は、国土の1/10を失い、ヨーロッパ国は国土の1/5を失った。
国民生活は疲弊し、人の心は荒み、信仰は揺らいだ。
学者達は、大天使ミカエルと交信しようと、神殿で何度も祈りを捧げて助けを求めた。しかし、大天使ミカエルは一向に降臨せず、学者達の大天使ミカエルへの忠誠心も薄らいでいた。

 アジア国は無傷であったが、平和で幸せな生活は失われていた。法律が厳格化されて、軍国主義が台頭していた。悪魔大帝国への憎しみが国民の心に根付き、大帝国が理不尽で野蛮な国であるとの認識で、訳も無くその存在を否定した。
基はと言えば、その悪魔大帝国を築き上げた人達は、大天使ミカエルを信仰する国の国民であり、同胞であるのに。

 220年が経った時に、まずヨーロッパ国の国土の全てが失われた。大帝国に国土を平定されてしまったのだ。ヨーロッパ国の国民は、アジア国に避難してきて、国土を奪回しようとして、アジア国の国境付近に土地を借り、戦いに備えた。
250年がたった時に、アフリカ国の国土も失われた。同じ様に、アフリカ国民も、アジア国の国境付近に土地を借り、国土奪還に備えていた。3国の国境付近に建てられていた大天使ミカエル神殿は、アジア国の海沿いの一番安全な城址の中に移されて、そこで、学者達は助けを遣さない大天使ミカエルに対して、憤怒する毎日を送っていた。

 学者達がこの惑星に降り立って270年が経過した。
学者達がいる大天使ミカエル神殿のある城址が、悪魔大帝国の200万人の軍隊に包囲されていた。
学者達は、大天使ミカエルに最後の祈りを捧げて、皆自害した。城址は、絶えず攻め立てられて、悪魔共が「ゲラゲラ」と、城址の外から大歓声で笑っていた。
遂に、大天使ミカエルの神殿が悪魔に取り壊された時、学者達がこの惑星に降り立った時に乗って来た小型UFOが、自然と宙に飛び立って行った。
惑星は青色から赤く染まり、その恒星系で異様な公転周期で、恒星の周りを回っていた。

 惑星には、原住民の形をした住民は全て居なくなり、黒い蝙蝠の羽を持つ悪魔達の楽園となっていた。
惑星上空の宇宙空間には、大天使ラファエルの艦隊が、惑星を取り囲む様に、直径10光年の球形陣形で、惑星を包囲している。
 惑星に住む悪魔達は、夜に、満天の宙に光輝く、大天使ラファエルの光輝く艦隊を見て、不思議そうにしながらも、「ゲラゲラ」と笑い続けていた。

第17章
聖戦

 赤く変色した惑星を、大天使ラファエル艦隊が包囲している。学者達が死に絶えた惑星である。
 艦隊は、部隊毎に何千という重厚な立体的包囲網をしいていて、アリ一匹、赤い惑星から這い出る事は出来ない。
 悪魔は、脳に宿ってくるから、大艦隊と云えども、簡単に手を出したら下級天使達の脳が、悪魔の脳に侵されてしまう。この赤い惑星は未だ若く、破壊するのは惜しいとの神の判断だった。それで、悪魔を殺処分する司令が下されたのだ。

 大天使ラファエルは、配下の天使である10人の長官を呼び寄せ、1人の天使に惑星上空大気圏に一個小隊を展開して、まず抵抗してくる全ての悪魔を処分する命令を下した。
 長官である天使は、直ぐに最前線の包囲網の自艦隊に瞬間移動で戻り、1人の将軍を呼び寄せて、命令する間も無く将軍は頷いた。
 最前線の1重で惑星を包囲していたUFO艦隊が惑星の陸地上空に展開した。地上10キロメートルの所でホバリング飛行をしているUFOの数は約1億。それぞれ、陸地の主要大陸、島々の上空にいた。

 惑星では、1/3が昼。2/3が夜であった。
 昼の時間帯の大陸では、それを見た原住民であった悪魔が、背中に黒い蝙蝠の様な羽を2枚生やしてきた。次々に、空に飛び立ってUFOに向かって奇声を上げながら群がってくる。
 UFOはそれを感知して、レーザーの様な明るい黄色の光で、それらの体を打ち抜いて行った。上空に飛び立ち、UFOに向かって行った悪魔は、次々に蒸発していった。全く、悪魔の身体の一部でさえ残らない高熱の光である。
 それが、一寸の狂いも生じず、悪魔達の体を貫いて、葬り去っていく。

 夜の時間帯の大陸では、悪魔達が上空に光るUFOを見て、「ゲラゲラ」笑いながら、石などを投げているが、全くUFOに届かない。
 惑星では、悪魔王へその報がもたらされていた。大天使ミカエル神殿のあった惑星裏側の悪魔王宮殿である。悪魔王はそれを聞き、背中に蝙蝠の様な羽を40枚生やした。
 近くにいた悪魔王の子達は、10枚の羽を生やしている。それら子達は大きな体をうねらせて、剣を振り回している。悪魔王が顎を突き上げると、子達は皆、部屋を後にして外で待つ、配下の悪魔達と、空に飛び立ち上空のUFOを目掛けて、槍や剣をUFOに向けている。
 上空のUFOからは、また光のレーザーが、次々にそれら悪魔を蒸発させるように、あちらこちらの方角に放たれている。

 大勢は、1時間で決した。UFOに向かって飛び立って行った悪魔全てが蒸発して大気と化していた。
 宮殿に一人残された悪魔王はうろたえた。誰も、息子達が帰って来ず、大きな広間の椅子に腰かけてイラついている。そこに、200枚の羽を持つ天使が、瞬間移動してきた。
 部屋中が、眩い光で包まれた。悪魔王は、椅子から立ち上がって、大きなソードを構えた。
 200枚の羽を持った天使は、宙に浮いている。悪魔王は、戦慄して体が硬直した。悪魔王は右手にソード、左手に盾を構えて、覚悟して突撃してきた。だが、1歩足を踏み出す毎に、足がどんどん重くなり、向かい風が無いのに前に進めなくなった。

「大天使ミカエルの神殿を破壊した罪で、悪魔王、お前には沢山の罪状が天界でついている。悪いが、始末させてもらう」

 天使は無表情である。
 悪魔王は、渾身の力を込めてソードを振り回しているが、天使まで10メートルはあり、届かない。
 天使が右手を悪魔王に向けて光の矢を放った瞬間、悪魔王の体は蒸発して無くなっていた。

 原住民である、悪魔に成り掛けの者は、武器を捨て投降してきた。上空のUFOに平服して、口々に『 神、大天使ミカエルよ。裏切ってすまなかった 』と言っている。
 1億機のUFOが、光輝いたと思ったら、悪魔に成り掛けていた原住民は、元の姿に戻っていた。

 将軍は、大天使ラファエルに、惑星の浄化が完了した事を報告した。赤色だった惑星は、青色と緑色の元の惑星に戻っていた。

 惑星の原住民は、神への忠誠の証として、三つ目が五つ目に全ての原住民がなっていた。

第18章
聖痕

 地球上のヨーロッパ地方のある国では、黄金色UFOが残して行った黄金のクロスの分析が進められていた。
 クロスの精密検査に入っていた。検査を進める内に解ってきたのが、ある一定周期で、クロスの光の色が周期的に微妙に変化するのだ。
 その周期は、地球時間で約3秒。このクロスは、星の様に瞬いている。研究者は、そう上司に報告していた。
 光の3原色。赤色、黄色、青色の間を1周期約3秒で行き来している。虹の様に、中間の色も取るのである。地球上で、特殊加工を施している、キャラクターのカードは、カードの表を見る角度を変えると、その文様が変わる。
 しかし、このクロスは、一方向固定カメラでどの方向から撮影されていても、同じ周期で変色をする。

 クロスに光を当ててみたり、真っ暗な部屋に置いてみても、それは変わらない。要するに、外部からの環境の変化を受け付けない。
 ある意味で、妖艶な光を放っているのだ。
 ある日、研究者が密閉された部屋を防弾ガラス越しに、コーヒーを飲みながらクロスを眺めていた。すると突然に、真っ暗な部屋に置かれた光を放つクロスが、強烈な光を放ち部屋全体を明るく照らした。
 研究者は、手に持っていたコーヒーカップを溢して、目の前の計器を見た。計器の数字、針が、目まぐるしく変動して動いている。放射線だけはゼロPPMである。研究者は、慌てて警報のスイッチを押して、部屋から飛び出して、寝ている他の研究者を起こしに行った。時計の針は、零時01分23秒近くを指していた。

 研究者が、皆、部屋に集まってくると、クロスは眠りから目覚めて、七色の光で、まるで全方向灯台が回転している様に、光度が真夏の正午の太陽と同じくらいに光輝いていた。
 計器を見てみると、部屋の温度は3000度を超えていて、クロスの置き台の鋼鉄が融けている。しかし、クロスに装飾されている宝石は、クロスの光を受けて、更に輝きを増していた。
 研究所は、深夜にも関わらずパニックに陥っていた。部屋の壁の合金の表面が溶けて、流れ落ちている。
 丁度、300秒(5分)が過ぎた零時5分1秒に、クロスの放熱が止んだ。
 翌朝。何が起こったか、研究者達が分析していると、クロスの温度は、部屋の温度が15℃にも関わらず、35.7℃に保たれている。
 研究者達の議論による結論では、このクロスは恒温であるとの結論であった。部屋の温度を上げても、下げても、常にクロスの温度は35.7℃を保つ。
 当初は、伝熱速度論だとか、何か断熱効果を施されているとの意見が圧倒的であった。その中にあって、1人の研究者が「 これは生物だ 」と唱える者があった。

 アメリカ大陸で産まれた大きく元気な赤ん坊ジーファーは、大病院の新生児室にいた。ガラス窓の外から、両親が見守っている。愛らしい眼を閉じたその姿に、両親は見惚れていた。
 両親が見飽きるまで、消灯時間まで眺めてから帰宅した。新生児室傍には、看護師が絶えずつきっきりで何か異常がないか、見守っている。看護師同士で話をしていて、新生児から目を離した瞬間、看護師の待機している部屋の机の椅子が皆、1ミリのずれも無く揃って机に納まっていた。机の上のノートや、医療器具は、きちんと整頓されている。
「あら? 誰か机の上、片付けてくれた?」
 一人の看護師が言った。他の看護師は、首を振る。1時間程経った。すると、今度は、机の上の物がばらばらに乱れていて、椅子が皆、倒れていた。
 看護師長が、それを見て、看護師皆を、整理整頓が出来ていないと叱った。看護師達は、お互いに、「あなたでしょ?」と言い合っていたが、誰も思い当たりがしない。

 ジーファーの眼が開く時期が来た。ここの病院は、白人、黒人、黄人の赤ん坊が、差別がなくいた。ジーファーの眼が開いた事を聴いた父は、病院で待つ婦人の元へ仕事を切り上げてきた。
 ジーファーは、眼が丸く愛らしい顔立ちだった。瞳の色は茶色であった。しかし、次に父が病院を訪れた時には、両親とも気付かなかったが、黒色がかっていたり、蒼色がかっていたりした。

 女の赤ん坊ジーファーには、聖痕(スティグマ)があった。それは痣の様なもので、天使となったジーファーが悪魔に傷つけられた箇所と同じ場所である。
 聖痕は、1センチ程の円形に炎で覆われているものであった。両親は、それを痛く気にしていた。この娘が、大人になった時に、この痣を気にしないかと。

 ジーファーと母親の退院の日が来た。
 2人を迎えに、夫が車で病院に迎えに来ると、母親が赤ん坊を抱いて、病院の中で待っていた。何故か、夫が病院のロビーに入って来ると、場が華やいでいる。赤ん坊達が、喜々として笑い声を上げている。
 それで、自分の娘を見てみると、他の子と何所か違い、光って見えるのだ。夫は不思議に感じつつも、我が子可愛さの為かと思い、気に留めなかった。
 後部座席のチャイルドシートに座らせられた赤ん坊は、車の中で不思議な発音の言語を既に話していた。
「ガ ブ リ エ ル。ガ ブ リ エ ル。わがしゅさま」
 それは、両親の会話とラジオの音声で、搔き消されていた。

第19章
反乱

 黄金色のUFOと99隻のUFOの中は、不満で溢れ返っていた。だが、それを表に出すと天使に聴かれてしまう。表向きは、平穏を装っていた。何しろ、自分達は人質の身なのだから。
 司令官は、何度も天使とテレパシーで話し合っていたが、埒があかない。せめて、学者や医師だけでも地球に帰して欲しいと願っても。司令官達は、歳相応である。自分達は宇宙∞のどこぞで死んでも、もういいと考えていた。地球を救えたのだから。
 だから、司令官達は、自分達の命と引き換えに、皆を地球に帰してくれる交渉を、再度、大天使ラファエルと話し合いたいと切に願っていた。

 仲介役の天使も困っている様だ。何十度目かの天使への訴えで、漸く願いが聞き入れられた。
 そこで、代表者10人を、再度、大天使ラファエルの元に飛ばしてくれた。そこは、広大な明るい空間の中で、上級天使らしき羽を数百枚背中に生やしている巨大UFOの中であった。
 艦艇は、豪華な造りでは無く、効率を重視した造りをしている。最早、科学の範疇を超えていて、シンプルアートな造りをしている。いつもの天使が、案内役で、天使達が道を開けている。

 暫く歩くと、金属で出来ている様な扉があった。10人の代表者がその扉に触れると、天界の中に居た。今度は、巨人では無く、柔らかい物腰の七色の巨大な龍がいた。
「大天使ラファエル様ですか?」
司令官がそう尋ねると、龍は頷いた。七色の龍は、優雅に羽を羽ばたかせている。
 10人の代表者の脳に、直接、大天使ラファエルが問いただしてきた。
「約束は、守れと言うのだな?」
初めから、地球に帰してもらう交渉にきた事を知っている。10人は、その音にならない声で、その大龍が、大天使ラファエルだと判った。前回の作戦の失敗で、ラファエルを人質全員が恨んだが、漸くラファエルの真の姿が解った。

 「今度の戦いを最後に、地球に帰して下さい」
司令官が龍に申し出た。司令官は、申し出を断られたら、自殺をして大天使に抗議する積りであった。
 龍は、少し考え込んでいた。神も悩むものかと、10人はその堅い無表情の真意を探っている。
「次の戦いは、辛い戦いになるぞ」
大天使は嘘を言わない。10人は、どんな戦いなのであろうかと考えていた。相手は、あの歪な惑星よりも強いようである。
「失敗したら、どうする?」
龍が再び問うて来た。龍は切れ長の目で人間を見下ろしている。
「その時は、大天使様の好きなようにして下さい」
司令官は慎重に答えた。司令官は、全権を託されてきたのだ。次の戦いで、地球に帰る為の死闘をする積もりでいた。
「その覚悟があるのならいい」
 大龍は姿を人間に近い、羽を背中に沢山蓄えた形に変えた。それで、10人はUFOの中に戻された。
 10人は、全人質にその交渉結果を素直に伝えた。地球に帰れるか、全滅するか、奴隷になるかだ。

 100隻のUFOは、緑色一色の惑星上にいた。どうやら、海の無い惑星の様である。一同は拍子抜けした。てっきり、あの歪な惑星に連れて行かれると考えていたからだ。
 この惑星は、過去に戦闘を経験した惑星に似ている。とても強い悪魔がいるようには思えない。
 一同は、それでも気を引き締めて、戦闘の準備をした。気合は十分である。軍人約300万人全員で戦闘に臨む事にしていた。約200万人の学者と医師達は、UFOで待つ事になった。戦闘の足手まといになるからである。
 全員の戦闘の心の準備が整った瞬間に、惑星に約300万人の軍人が飛ばされた。戦闘は開始されるかに見えた。しかし、いくら待っても敵が現れない。
 その内に、各所で銃声や爆発音が響いた。悪魔の羽を2枚背中に生やした軍人が、人間を襲い始めた。味方のはずの見知った顔である。
「何をしているんだ?」
司令官が、攻撃を止める様に叫んだ。その瞬間。司令官の体を背中から胸にかけて銃弾が貫通した。司令官は、そのまま倒れ込んで動かなくなった。
 1万人の軍人の反乱である。この惑星には、悪魔はいなかった。原始惑星の1つで、空を鳥以外が飛んでいない。

 血みどろの戦いが始まった。背中に黒い蝙蝠の羽を生やしている、仲間であり、友人である者との戦い。
 戦火は、最初、惑星の1ヶ所で始まったが、その内に、惑星の各所に広がって行った。海の無い惑星で、森林だけの惑星である。
 戦闘員の体を青色の光が包んでいない。動けば、呼吸も苦しくなるし、汗もかく。腹が減って物を食べたくなり、喉が渇く。
 上空のUFOにいる学者と医師達は、呆気に取られている。何が起こったのかさえ判らない。

 惑星上の戦闘員達は、疑心暗鬼であった。何が何だか解らないのである。何時の間にか、敵がいないのに、仲間が次々に死んで行くのだ。
 そして、混乱に陥った戦闘員達は、散り散りに惑星の各所に逃げて行った。
 最後の悪魔に変わってしまった仲間の1匹を倒すまでの、永久的な戦いである。
 上空のUFOの中にいる人々は、天使に助けを求めても、どうにもならなかった。戦闘が終わるまで、何も出来ないのだ。
 悪魔に変わった人間は姑息で、悪魔の羽を隠して仲間に近付いて行っては、ナイフで後ろからその仲間を殺して行った。
 その姑息な悪魔の戦闘方法への対処法が、散り散りになった人間の中で共有され始めて、合い言葉や、秘密の暗号が開発されていった。
 悪魔は、悪魔側で、またその上を行く騙し戦術を考えて、人間を殺していった。終りの無い戦いが、この緑の惑星上で始められた。

第20章
三魂

 虹色のUFOの中の三人の小天使と、1万人の学者達は、比較的平和な時間を過ごしていた。勉強は許されないが、学ぶ事は許された。学者達にとっては最適の環境である。
 宇宙∞を理解する上で、今までの地球上の学問は、一切として必要が無い。『 百聞は一見に如かず 』で、科学を超越した神の力と云うものを体現出来ている。
 学者達は、地球上から選抜されてきた各方面の優秀な知識人たちで、それぞれが専門の知識を持っていても、彼等の脳の柔軟さや許容量、知識量や経験値から、眼で見た事実をそのまま受け入れて、理解すればいいだけである。

 一方で、3人の小天使には、少しの欲というか、天界への憧れが芽生えていた。天界で再会したジーファーに何があったのか、戦闘組で何があったのか知りたかった。
 自分達は一度死んで、神から再び魂を賜った者である。ジーファーと自分達の違いは何か? あそこまで羽が多く生える程の試練が、戦闘組であったのか?
 では、自分達に今、足りないものは何かを3人で議論した。議論の結果、得られた結論は、『 神への信仰 』『 本当の勇気 』『 忠誠心 』ではないだろうかとのものであった。
 3人は、元もとは軍人である。学者達ほど、宇宙∞への探求心だとか、未知のものへの興味は無い。しかし、小天使としての地位に甘んじている程、野心が無い訳でも無い。勿論、堕天する積りも無いし、人質としての立場をわきまえて、神に逆らうつもりも無い。
 どうやって、ジーファーの様に、天界に住む事が許されるのか? どうしたら、あの様に、大天使に認められ、大量の天使の羽を蓄え、超人的な能力を得られるのか? それが試練ならば、3人の小天使達は大天使ミカエルに頼んで、敢えて受けてみたいと考えていた。
 学者の1人は、既に大天使ミカエルへの忠誠心(真の敬愛の心)を見せて、一気に羽が多く生えて天界へと去っていった。

 3人の小天使は、天界に住む積りは毛頭無かった。それでいて、天使格になって、地球に帰還したいと考えている。地球には、彼等の帰りを待っている家族もいる。懐かしい田舎もある。残してきた名残惜しさがある。
 随分、図々しい話である。3人には、地球に残してきた妻も子供もいる。それが、3人の心残りで、足かせになっている。後ろ髪を引かれる。それが、3人の小天使とジーファーの違いであった。どうしても、地球に帰りたいという気持ちを消せないでいた。

 或る時。3人の小天使に天使が語り掛けてきた。

「 あなた方の思いは解っています。私が協力出来る事は1つです。大天使ミカエル様にお目通りさせてあげる事です。しかし、ミカエル様は、優しい慈愛の中にも、厳しさのある方。簡単には、あなた方の故国に帰してはくれないでしょう。何故なら、天界の秘密を知っているからです。あなた方の故国には、悪魔の思想を持つ者がまだ沢山います。それらの者達に、神の法を教える訳にはいかないのです 」

 ウローヒが天使に言葉を返した。
「私達が、今回の出来事を口外しない条件では駄目でしょうか? 決して口外は致しません。神の存在も、言い伝えていきます」
ウローヒはそう言って、地球に残してきた家族の事を想った。
 天使は考え込んでいる様だった。3人は、経験値が少ないとは言え、神から直接的に魂を頂いた者達である。無下にも扱えない。地球に帰って、今回の出来事を口外したならば、たちまち堕天して、神から地獄に堕とされる事も承知している。
 少し、間があってから、天使が答えた。

「 1つだけ方法があります。それは、現在、あなた方が別れ、戦闘を選んだ者達を救えたら、叶うでしょう。ですが、あなた方の誰かは必ず命を落とすことでしょう。それは、私にも予知出来ます。それでも宜しければ、大天使ミカエル様に話を通しましょう 」

 天使のテレパシーの声色は低く暗い。3人の小天使達は、学者達の命の保証と、何時か必ず故国に帰してくれる事を願い、誰が死ぬのか天使に尋ねた。

「 それはウローヒ、あなたもです 」

 天使は容赦が無い。ウローヒは、死を宣告されても戸惑わなかった。私は宇宙∞の、彼方で死ぬのか。そう宣告されても、もう覚悟は出来ていたからだ。
「では、誰が生き残るのですか?」
ウローヒは、天使に訴え掛ける様に尋ねた。

「 それを知れば、あなた方3人とも確実に全員死ぬでしょう。神の定めた運命に逆らおうとするからです。学者の半数も戦闘を選んだ者達を救いに行きますか? それとも、全員で救いに行きますか? そうすれば、神の心もお変わりになるかもしれません 」

 3人の小天使はそれを聞き、戦闘組が窮地に立っていることを悟った。それを聞いて、立ち上がらない訳にはいかない。人質に取られた者達は皆、友人の様なものだ。
 3人の小天使達は、
「いいでしょう。それで、彼等を救えるのなら。私達、3人の内、誰かは生き残って地球に帰れるのですね? では、何をすればいいか教えて下さい」

 天使は間髪を入れずに答えた。

「 あなた方には、囮になって頂きます。それで、悪魔達を誘い出し殲滅して下さい 」

酷な答えだ。やはり、神は血も涙も無いものなのかと思わせる言葉が帰ってきた。
「何故、囮にならなくてはならないのですか?」
イサウュシは天使に尋ねた。

「 あなた方には、悪魔の姿を見破る事ができますが、戦闘を選んだ者達にはそれが出来ません。彼等は、永久的な窮地に立たされています。それを救う為に、あなた方は自らの命を差し出すのです 」

 「では、私達が死ぬ事で、彼等は救われるのですね?」
バレクは天使に尋ねた。

「 それは、天命です。神が審判を下すことでしょう。戦闘を選んだ者達の元に行けば全て理解できます 」

 小天使3人は自らが死ぬ事を、それを聞き悟った。どうせ死ぬのなら、仲間の為になって死にたい。3人は、お互いに包容を交わして、涙を流した。
天使はそれを見て、微笑んだ。この3人なら、何とかしてくれると思ったのだ。

「 望みを捨てないで下さい。必ず、天命に従えば善い結果が得られるでしょう 」

 アフリカ人、ヨーロッパ人、アジア人の3人は、自分達の死期を知らされて、寧ろ清々しい気持ちでいた。自分達は一度死んだ身だ。神に与えられたこの命が再度、死んだところで何て事は無い。
戦闘組は、どうやら最悪の状況にいる様である。1万人の学者達を連れて行くべきか、連れて行かないべきか、3人で議論したが、連れて行かない事にした。
彼等には知られない様に、ひっそりと自分達の仕事を終え、幕を閉じたいと考えていた。3人は大天使ミカエルと大天使ガブリエルと大天使ラファエルに祈りを捧げて、来るべき時を待っていた。

第21章
少女

 アメリカ大陸で産まれた女の子、ジーファーの話しである。
 ジーファーは、アフリカ系黒人移民の父とヨーロッパ系白人移民の母の、ハーフであった。
 ジーファーの父は、苦労して大学を卒業してから職を転々として、長女ジーファーが産まれた時には食品会社の衛生部門の管理職に就いていた。彼は大学時代から仕事と勉学に忙しく、瘠せ型長身の真面目な男であって、常に上昇志向だが仕事に馴染めず何時も貧困であった。
母は、ジーファーの父の大学時代の元友人で、彼女も瘠せ型長身だが、家は裕福で友人も多い所謂、大学のマドンナ的存在であった。付き合っている友人関係も白人関係者で富裕層が多く、ジーファーの父との接点はほとんど無かった。
母は、母の両親の躾が厳しく、同じ大学の同級生と云えども、男女交際が禁止されていた。その代わり、両親が決めたフィアンセが彼女の住む州から遠隔地の州に居て、ふた月に1度くらいの頻度で、逢瀬を繰り返していた。

 それが、何故、ジーファーの母と父が出会ったかと云うと、フィアンセの裏切り行為からであった。
 フィアンセは別の女性と結婚をしてしまった。相手の女性は、フィアンセの勤務先の上司の娘で、美人の上に高学歴な妖艶な女性で、遊び人の女性と知りながら、その妖艶な魅力に惑わされて相手の求婚を受けてしまったのだ。
 失意の中にあったジーファーの母の前に現れたのが、ジーファーの父であった。母の勤める会社ビルディングの近くに、父の勤める食品工場があって、会社のランチタイムに偶然の様に、或る混雑したアジア料理店で、テーブルを同席した事から交際が始まった。
 母の両親は、黒人との結婚を反対したが、母が自分の両親にジーファーを会わせた瞬間的に、両親はジーファーの父になる男を気に入った。物腰の落ち着き方、話し方とその内容、何よりその不思議な雰囲気を持つ男の瞳に魅せられてしまった。
 それで、数か月の交際の末、結婚を決めた2人は、新居を街の郊外にマンションの一室を購入し、結婚後一緒に暮らし始めた。
 ジーファーの母が、ジーファーを身籠ったのが、その5ヶ月後で、ジーファーは2人の結婚後15ヶ月後に産まれたことになる。

 ジーファーが生まれて、その自宅マンションに3人で帰ってきた当日の夜。ジーファーは何故か夜泣きをせずに静かであった。父が我が娘の寝顔を見飽きずにいて、夜中の零時5分前になって漸く、次の日の仕事に備えて寝床につく為に、ジーファーの部屋から電灯を消して出て行った。母は、ジーファーの赤ん坊用の寝台の横で、ベットで既に疲れの為に寝ている。
 夜中の零時0分01秒。ジーファーが突然に瞼を開けて、その黒蒼色の瞳を見せると、部屋中の床から光球がポツリポツリと浮かび上がってきて、天井を通り越して行った。それと同時に、部屋中の家具から小物類までが、静かにグルグルと部屋の宙を回っている。母はそれに気付かずに、静かな寝息を立てている。
 そして、深夜の1時0分01秒になると、家具が静かに元通りの場所に戻り、光球も無くなっていた。ジーファーは瞳を閉じると「キャハハ。キャハハ」と、赤子そのままの泣き声を上げて、その合間に必ず次の言葉を発していた。 「ミス ガブリエル。ミス ガブリエル。わがしゅさま」

 一方。ヨーロッパの或る国の秘密研究機関の一室。  学者達は、毎夜繰り返される現象を目で見て分析する為に、アメリカ大陸の或る州の時刻零時0分00秒(ヨーロッパの或る国の時刻、約朝7時0分00秒)を待っていた。
 その時刻になると、必ずある出来事がその国の研究所の1室で起こった。例の黄金のクロス(十字架)の温度変化が起こり、部屋で不思議な出来事が起こった。
 その部屋の鋼鉄の天井から黄金のクロスに向かい、光球の様な、光子の様な光が降り注ぐのだ。
そして、クロスの温度が、必ず1時間の間、摂氏75.3℃に上がり保たれて、1時間後に35.7℃に急激に戻る。
或る日、研究者の1人が、その鋼鉄で覆われた部屋に入った時に、持っていた煙草の箱を落として気付かずにそのままにしていた。すると、例によって、光が降り注ぐ時刻になると、クロスの回りを煙草の箱が、まるで恒星の周りを回る惑星の様に、楕円軌道を描きながら公転していた。
次の日から、研究者はあらゆる小物類をクロスを置いている実験室の床の上に置いておくと、クロスに光が降り注ぐ時間になると、全ての小物類がクロスの周りを公転し出した。
研究が進むにつれ、球形に近い金属物やプラスチック物類を置いていると、それらの球形物質は公転しつつ、自転もする事が解ってきた。

 このアメリカ大陸とヨーロッパ国の研究所を結ぶ情報は未だ、何も無かった。

 ジーファーが丁度、3歳の誕生日を迎えた時。
 ジーファーは、一人っ子であった。彼女の誕生日に、両親がケーキに3本のロウソクを立てて、それに火を灯した。ジーファーにそれを吹き消す様に誘うと、ケーキからジーファーまでの距離が1メートルはあるのに、ロウソクの火が風も無いのに自然と3本とも消えてしまった。
 不思議に両親が思って、もう一度、ロウソクの火を点け直すと、また自然と消えてしまうのだ。それを10回くらい繰り返した後で、両親は理解した。これはジーファーが、超能力で消しているのだと。
 両親は頭を抱えた。この事実をどう受け止めるべきか。勿論、他人には秘密にする積りだった。問題は、ジーファーが外でこの能力を見せてしまう事である。
 そうしたら、ジーファーは悪魔の子として、世間から迫害を受ける事であろう。このジーファーの3歳の誕生日から、この3人の家族の中に秘密が出来た。
 両親もジーファーに、家の外では決してこの超能力を見せる事が無いように言い聞かせていた。ジーファーは、その時からストレスを抱え込み、常に気を使って生きる事を強いられた。
 彼女の会話では、いつも「ガ・・・」と、「ガブリエル」と言いたいのに、それを抑制する癖がつき、幼児友達からは、「ガ女」とからかわれていた。
 ジーファーの3歳から5歳までの、辛い日々であった。

 

第22章
急襲

 アフリカ大陸が真夜中の時間。
 夜空から、1つの流れ星のような物体がアフリカ大陸の或る国の地上に、急激な速度で落ちてきた。それは、大気との摩擦熱で赤色に輝いて見えて、地上で夜中の時間を都市部で楽しんでいた民衆は、何事が起ったのかと思ってみていた。
 赤色に燃え上がる物体は、やがて地上1キロメートルくらいの所で停まり、「ブーン」と云う音を立てながらホバリング飛行をしている。
直径は3キロメートル程の古ぼけたUFOである。それを目にした住人は、またラファエル艦隊が人質を捕りにきたのかと思い、嫌な気分になっていた。それは、地球に4隻のUFOが初めてきてから6年後の事である。
国連は直ちに、その連絡を受けていた。レーダーにもその艦艇が映っていたから、直ぐに場所を特定出来た。

 国連の職員は、人質が帰ってきたものと思って、歓喜で沸き立っていた。  しかし、その後に入ってきた連絡によると、その1隻のUFOが地上にレーザー攻撃を仕掛けているというのだ。
 その国の都市部は、壊滅状態になり、連絡は途絶えた。  国連では、一体、何事かと思い、反撃に移るべきか、降服するべきか迷っていた。ラファエル艦隊なら、勝ち目はないので、皆が皆、降服を通達する意思を示すべきであるとの意見で纏まった。
 軍事行動を起こせば、必ず6年前の様に、散々な目に遭うからだ。既に、こういう事に対する対処法は、マニュアル化されていた。
直ぐに、降服を通達する派遣団をUFOの出現した国に送った。その間も、アフリカ大陸の都市部が蹂躙されているとの報告である。
使節団が当地に到着すると、見るも無残な惨状であった。使節団は驚愕して、憤った。使節団が、護衛の少数の軍人に囲まれて場所を移したUFOを追って、その国に到着すると、UFOから遠めに見ると鳥に見える群れが沢山出て来た。

 使節団は、その群がってくる鳥人間に、白旗を振っている。軍人達は、様子がおかしいと思い拳銃を構えた。50メートル程に近寄ってきたところで、堪らずに軍人達が拳銃でそれらを撃ち落としだした。使節団は、そのまま、黒い羽の鳥人間達に埋もれてしまった。
 国連本部では、皆、憤怒していた。
「約束が違うではないか」
ラファエル元帥は、人質を捕る約束で、地球の安全を担保してくれたはずである。直ぐに、会議が開かれた。アフリカ大陸の死者は、すでに1千万人に及んでいる。
 「ここまできたら、反撃するべきである」
そういった意見が多数であった。
直ちに、アフリカ諸国とヨーロッパ諸国から、空軍が出動していった。
現地に着くと、鳥人間達が何千万匹という群で、空を飛んでいる。戦闘機がそれを打ち落とそうとすると、鳥人間達は平気な振りで戦闘機のガラスにぶつかり、戦闘機と共に、墜落していった。
巨大UFOからは、レーザー攻撃で戦闘機を寸分違わず、墜落させていた。

 その報は、全世界に届き、TV中継もされている。世界中の人間が憤激した。各国から、援軍を送る事を決め、徹底抗戦をする姿勢で纏まった。
 だが、一部の科学者達は冷静で、「あれは神の軍隊ではないのではないか?」と疑問を投げかける者も多数いた。
徹底抗戦が3日、続いた時。アフリカ大陸の主要4ヶ国は壊滅状態で、各方面から人類の軍隊が包囲網を敷いていた。

 一方、ヨーロッパの或る国の、実験室の一室。
 ラファエル艦隊が残していった十字架が、物凄い光と熱を発していて、科学者達がエマージェンシーボタンを押していた。
 実験室の中の嵐が最高潮に達すると、クロスの或る周波数の波長が、音波なり電磁波なり光波なり(α、β、γ、X線、赤外線、紫外線他)、あらゆる計器を狂わせた。
 それがピークに達した時。地球を、レーダーに掛からない艦隊が包囲していた。地球は終わりかに思えた。

 国連本部の職員達が肩を落として椅子に腰かけていた時、コンピューターにハッキングで連絡が入った。

「 私は、ウリエル元帥と申します。貴国の緊急警告情報を受信して、友軍の援軍に参りました。貴国を攻撃している軍隊は神の軍隊に非ず。反乱を試みようとしている悪魔の軍隊です。直ちに駆除する為、友軍の軍隊を一時、撤退させていただけないだろうか? 」

 国連本部は、一喜一憂をした。ウリエルを信じる者、いぶかしげる者、非難する者、嘘つき呼ばわりする者。様々だ。
 しかし、アフリカ大陸でのUFOの攻撃が一時、止んだ。よって、取り敢えず、ウリエルなる者を信じてみようという意見になった。地球を包囲されている以上、もう手の打ちようが無いのだから。
 だから、国連の採択で軍を全て引いてみた。

 すると、鳥人間達は、全て自分達の乗ってきたUFOに引き上げて行った。
 そうすると、宇宙空間から、巨大なレーザーの様な光が、その古ぼけたUFOを貫くと、UFOは大破して、蒸発して無くなった。
 アフリカ大陸に平和が訪れた。夜半から朝になると、アフリカ大陸には、人間の死体と鳥人間の死体が残されていた。
 それで、世界中はウリエル元帥と名乗る者を少し信用した。

 世界中が、どういう事か説明を求めた。そう皆が考えると、1隻の大型UFOがヨーロッパのある国の上空に、瞬間的に現れた。
 ヨーロッパ中でその報が流れると、もう1戦あるのかと各国が身構えていると、国連本部にやはり天使がテレポーテーションしてきた。
 皆が激怒している中、その天使はテレパシーでこう言った。

「 先程、貴国を急襲したUFOは神の軍隊ではなく、悪魔の思想を持つ反乱軍です。援軍が間に合わずに申し訳ありません。神の御意志は、私達にも判り兼ねます。直ちに我々は引き上げますので、どうか神への信仰を失わないで下さい 」

 そうすると、天使のUFOと鳥人間の死体は全て消え失せていた。
 地球に平穏が戻った。

 アメリカ大陸のとある都市の郊外の家。両親のいない部屋で、ジーファーはTVを見ていた。鳥人間の飛ぶ姿、死体の映像をジーファーは睨みつけていた。
 ジーファーにだけ見えていた。1匹の鳥人間が、アフリカの森の中に逃げて入って行くのを。
 「ガブリエル様の命令。あの悪魔を見付けて、光の矢で貫くこと」
ジーファーが6歳の誕生日の次の日のことであった。ジーファーの聖痕が光輝いていた。ジーファーにだけは解っていた。あれが悪魔の仮の姿である事を。
 森に逃げ入って行った鳥人間は、身体の形を異形の蝙蝠の羽の生えた、悪魔に姿を変えていた。

第23章
旅戦

 地球のアメリカ大陸のとある州。
 ジーファー親子は、3人で旅行に出る準備をしていた。ジーファーの父の故郷であるアフリカに里帰りする旅である。伝染病等のワクチンは、病院で打って貰った。
 ジーファーの父は、故郷の国が悪魔のUFOに襲われた事を案じていた。しかし、エアメールにて、ジーファーの父の家族や親戚達が安全である報を受け取っていたので、里帰りして無事を祝う事になっていた。
 航空機は乗り継ぎで、20時間くらいかかり、そこから車で帰る事数時間。ジーファーの親戚の家に辿りついた。
 親戚の家は無傷であった。ジーファーの家族は大歓迎を受けて、夜通しお互いの生活の話しをしていた。

 一方で、ジーファーは部屋の隅で静かにしていた。瞳は黒蒼色で、普段無い青白い光を放っている。
 草原の中にある近くの森である。そこに悪魔が潜んでいる。ジーファーは遠視で、その姿を確認していた。
 悪魔は、ライオン等の肉食動物。シマ馬、鹿等の草食動物を捕食して、力を蓄えていた。アフリカ大陸に逃げた悪魔の個体は複数だが、この近くにいる悪魔の個体は1匹。距離にして4キロメートルの森の中である。

 少女ジーファーは、祖父に頼んで車を出して貰う術を考えていた。その方法は、
「野生の動物が見たいから、車で草原に連れて行って」
と云うものであった。
 祖父は大変に喜んで、ジーファーの頭を撫ぜながら、
「明日の朝から連れて行ってやるからな」
と答えていた。
 翌日。朝になると、ジーファーの父と母が眠りに就いている午前9:00に、ジーファーの祖父とジーファーの2人で、古ぼけたセダンの車で、草原に動物を観に出掛けて行った。勿論、いざという時に備えて、祖父は拳銃を携えている。

 ジーファーは、初めて見る野生動物達に、喜々として喜んでいた。祖父はそれに説明を加えて、現地人の知識の豊富さを見せている。
 祖父は、結婚式でアメリカ大陸に行ったきり、国外に出た事の無い男だ。ジーファーの父の黒色の肌と母の白人の肌の中間の肌をしていて、ジーファーの黒蒼色の瞳が、祖父にはとても愛らしかった。
 ジーファーの祖父は運転席にいて、ジーファーは助手席にいた。
 そして、ジーファーが尿意を催した事を申し出たので、ある木陰で車を祖父が停めた。ジーファーが、 「おじいちゃんはここにいて。見られるの恥ずかしいから」
とはにかみながら言うと、祖父はジーファーの頭を撫でて、用心して用を済ます事を告げた。それが午後の14:00であった。

 祖父が少し目を離していた瞬間。ジーファーは歩いて近くの森に入って行った。10分程、祖父がジーファーが車に帰って来るのをのんびり待っていたが、余りに帰りが遅いので、ジーファーの祖父が木陰に行ってみると、そこには誰もいなかった。
 祖父は慌てた。肉食動物にジーファーが食べられたとの考えが、頭を過ぎった。急いで辺りを見回して、車の中も確認してみるがいない。
 いよいよ、祖父は辺りを車で走らせてから、家に戻って、ジーファーの両親にジーファーが居なくなった事を告げた。両親はそれを聞き狂いそうな程に心配して、祖父を責め立てた。そして、車に乗り、自分達でジーファーを探しに行った。
 その時刻が夕方18:00で日が暮れかかっていた。

 ジーファーは暗い森の中を彷徨っていた。しかし、道を真っ直ぐに進んでいる。少女なので歩みは遅い。森の中には、動物が1匹もいなかった。全て、悪魔に捕食されていたからだ。
 森の中央部分の広く木々が薙ぎ倒されているスペースに、ジーファーが到達した。まだ6歳の少女である。息切れ、空腹、疲れは極限に達していた。

森の中央では、悪魔が寝ていた。
 少女が現れて、悪魔はまた空腹を満たす餌が迷い込んで来たと喜んで、大きな体躯を起こした。悪魔は体長が10メートルはある。黒い羽を20枚背中に生やしている。
 悪魔が少女を食らおうとして少女に近付いて来ると、身体が震え戦慄した。暗い森の中、少女の体が黄色に光輝いているのだ。
 悪魔は地球でレベルを少し上げていて、知能がついていた。テレパシーで少女に語り掛けてきた。
「お前、天使だな?」
 少女は、にっこりと微笑んだ。
「ガブリエル様。ガブリエル様。ガブリエル様」
と少女が呟くと、少女の失われていた体力が回復していく。それにつれて、ジーファーの光も取り戻されて行った。

 戦闘が開始された。
 悪魔が、そこら辺に転がっている倒木を、少女に投げつけてきた。少女は、それを避けようともせずに微動だにしない。倒木は、少女の目の前で宙に浮いて止まっている。
 ジーファーは右手を横に振ると、倒木は全て広間の両脇に吹き飛んでしまっていた。悪魔は、1歩後ずさりした。
 ジーファーは、更にガブリエルの名を唱えた。すると、ジーファーの体全体を包み込む様に、シールドの様なものが覆った。
 悪魔は毒液をジーファーに吐きかけてくるが、そのシールドで少女まで毒液が届かないでいた。少女が手を回転させると、少女の手から光の矢が放たれ、悪魔は頭から崩れる様に灰になって行った。
 戦いは決した。悪魔は、灰となり土と化した。

 翌朝。森の外に寝ている少女ジーファーを、両親が車から見て発見をした。
 両親は、ジーファーを抱き上げ、少女が目を開けると、涙を流して喜んだ。家に着くと、祖父も安心した様に、ジーファーに謝り、頭を撫でた。

 それから数日間、アフリカの親戚の家に滞在したジーファー家族は、国に帰って行った。ジーファーは、何故か、
「ウローヒ? イサウュシ? バレク?」
と、懐かしい名前を、航空機の中で唱えていた。

第24章
謁見

 虹色のUFOは、とある宇宙空間にあった。
 天使の導きで、これからある惑星に降り立つとの事であった。3人の小天使と1万人の学者達とのお別れの時間を作ってくれたのだ。
 惑星は地球と似た環境にある恒星1つ、惑星23個からなる星系であった。その中の惑星の1つに、大気が地球のそれと似ていて、且つ、重力も近い所に学者達と、小天使達を降ろしてくれた。
昼間でも、赤い月、緑色の月、青白い月が見て取れた。厳密には、それらは学者の話では月では無く、恒星の周りを公転している惑星で、極短い時間にのみ見る事が出来た。

 学者たちは、久々に空気を思い切り吸う事が出来て、喜んでいたが、小天使達は別れの時であると感じていた。
 余り、遠くに散らばらない様に、学者たちが密集して集まっている場所から、小天使3人はこっそりと抜け出した。天使の囁きの導きで。これから、大天使ミカエルに何度目かの謁見をするのだ。
 謁見の場所は、小天使達はてっきり天界であると考えていたが、どうやらこの惑星のどこかである様だ。3人の小天使達が天使の導きのまま、獣道の様な叢と森を抜けて行くと、巨大な存在感、重圧が身体に圧し掛かってくるのが判った。
 どうやら、大天使ミカエルが道の先にいる様である。
森を抜けて行くと、大理石の様な大きな神殿が、森のサークルの様な中庭にあった。小天使達は皆、足が鉛の様に重い。100段程の階段を1歩ずつ登っていくと、神殿の黄金色の扉があった。
扉はゆうに高さ30メートル、幅15メートルはあり、とても開けられそうに無い。小天使達が開けようと試みると、天使が「扉に触れるだけでよい」と、教えてくれた。
それで、3人の小天使が同時に扉に触れると、神殿の中の巨大な広間に出た。そこも、大理石の様な石造りの広間である。大理石は、七色の光沢のある物で、その広間には天井は無く、宙から光が煌々と降り注いでいた。
部屋の正面には、4つの椅子があり、何者かが座っている。近付いてみると、中央に大天使ミカエルと大天使ガブリエル。両脇に、大天使ウリエルと大天使ラファエルがいた。大天使ウリエルは初対面だが、直ぐに他の大天使と同格の者であると理解した。

 3人の小天使は、階段の高みに座る4大大天使に跪き、頭を下げた。天使がこっそりと、この神殿は、3人の為に大天使達が用意してくれたものであると告げた。
 大天使達は無表情である。用事は既に解っているのだ。
 大天使ラファエルが、先頭をきって言葉を発した。

「 あなた方の仲間の人質が反乱を起こした。それで、今、ある惑星であなた方の仲間と反乱を起こした悪魔との間で、10年間の間、同士討ちをしている所だ。あなた方の仲間達の心は荒み、疑心暗鬼に陥り、神と人を信頼出来なくなっている。それを3人で救えるか? 」

 大天使ラファエルは、怒った様子もなく淡々と話している。それぞれの4大大天使は輝きを放ち、無数の羽を優雅に微動させている。
 バレクが大天使ラファエルに尋ねた。
「10年間の戦いとは、おかしくないですか? 私達は、地球を出発して未だ1年間も宇宙を漂っていませんが」  他の2人も頷いている。
「地球時間と宇宙時間では、座標毎に全て時間の流れ方が異なるのです」
天使がそっと教えてくれた。
 イサウュシが尋ねた。
「では、地球に私達が帰り着いた時には、地球は何年経っているのでしょうか?」
 少し、上目使いである。それでは、地球に残してきた家族がどうなっているのか、判らないからである。
「1日の場合もあれば、100年経っていることもあります。それは、神のご意志次第なのです」
天使が更に教えてくれた。
 3人は死を覚悟した身である。もう、自分達の帰る場所は無いと心得ている。それには後悔は無い。せめて、家族がどうなったかを知りたい。
「安心して下さい。4人の小天使達の家族の身は、神のご加護があるでしょう。永い親類縁者の関係の中で、それは幸せに傾くはずです」
天使が更に答えてくれた。

 3人は大天使ミカエルと大天使ガブリエルを見上げた。2人は微笑を湛えていて、神々しい。それを見て、3人の小天使達は安心した。我々の命を差し出せば、1万人の学者達と、戦闘に赴いた者達の命を救えるかも知れないのだ。
 3人は、大天使ミカエルの命令を待った。戦闘に赴いた者達が同士討ちをしている惑星に行き、自分達が何をして、どんな行動を取り、どうやって仲間達を救って、そして死んでいけばよいかを。  大天使ウリエルは、その3人の覚悟を暫く見取っていて、心に一点の嘘も無い事を確認すると、大天使ミカエルと大天使ガブリエルの方を向いた。
 4大大天使の意見は一致した。
 天空から光り輝く空気の様なものがゆっくりと降りてきて、3人の小天使達を包み込んだ。それと同時に、3人の身体の内臓の辺りに、数千度を超えるかと思える熱量を感じた。
 3人の小天使達は、それぞれ羽を200枚背中に生やしている天使となっていた。身体中を、黄色の光が包み込んでいる。力が身体中に漲っている。

 「話は決まったな」
大天使ウリエルが椅子から立ち上がった。すると、物凄い地響きが惑星を揺らした。そして、そのまま姿を消してしまった。続いて、大天使ラファエルも姿を消した。
 残された大天使ミカエルと大天使ガブリエルが、美しい姿で3人の天使を見下ろしていた。

「 それでは、3人には、これから内戦の続いている惑星に行ってもらい、反乱を起こした仲間であり、悪魔である者達を浄化してきて貰います。決して、悪魔になってしまった仲間に同情をしてはいけません。そうしたら、必ず、あなた達全員、命を落とすことでしょう 」

 それだけ言うと、大天使ミカエルと大天使ガブリエルの姿は、消えてなくなった。
 案内役の天使が、
「それでは、3人にはご自由に仲間の元に戻って頂き、最後の別れを告げてきて下さい」
と言うと、3人は1万人の学者達の集まっている場所の中心にいた。

 彼等の降り立っている惑星の地点は、夜になっていた。3人は人間の形で、一人ひとりに挨拶を済ませていくと、1万人の学者達が虹色のUFOに戻った後も、惑星の地上にいて、虹色のUFOが何処かに飛び去って行くのを見送っていた。
 この惑星は、月が無い代わりに、青白色の惑星の様な近くの天体が、幾つか大きく見える。その後方に輝く数百光年先にある恒星の光が、満天の宙に輝いている静かな夜であった。

第25章
激戦

 緑色の惑星上空に、3人の天使がテレポーテーションしてきていた。何故か、戦闘組が窮地に立っている惑星の事を想っただけで、ここに来ていた。
 宇宙空間に近い惑星大気圏の外である。100隻のUFOが天使達の遠視で見えている。UFOからは彼等は見えていない。
 イサウュシ、バレク、ウローヒの3人で、それぞれ200枚の白い羽を背中に生やしている。それぞれの肌の色は、茶褐色、白色、黄白色、瞳の色は黒色、青色、茶色である。
 背中に太陽の熱を感じるが、それよりも3人の天使の方が高熱を発している。真空中でも、空気を必要としない体になっていた。血液も気圧の関係で沸騰はしない。
 ここからでも、惑星の戦況がつぶさに理解出来た。1万人であった悪魔と、299万人であった人間の比率が変わっている。悪魔が20万人、人間が50万人である。3天使は、このままでは人間が全滅してしまい、この惑星が悪魔の支配地になってしまうと感じた。

 悪魔の都市は2大都市が出来ていた。惑星の中の平原に1都市、森林の中に1都市。城壁を築き、人間をさらって来ては、拷問にかけていた。残された人間は、数千人から数万人の集団で、悪魔の襲撃に備えて木で柵を作り、簡易の家で生活をしている。
 3天使で相談した結果、ウローヒがそれぞれの人間の集落を回り、助けに来た旨を伝えていく事にした。バレクが平原の1都市を攻めて、イサウュシが森林の都市を攻めて、悪魔を殲滅する作戦であった。
 悪魔に同情をしてはいけないとの大天使の教えであったので、例え元が人間であっても、彼等を殲滅すること。
それが3人で決めたことであった。

 まず、バレクが瞬間移動で地上へと消えた。それと同時に、惑星の薄緑色の部分で、爆弾の赤い煙と光が飛び交う閃光が見えた。
 それを見たイサウュシが、ウローヒの肩に手を当てると姿を消した。今度は、惑星の深緑色の部分でキノコ雲の様な煙が上がり、空を黒煙が覆った。

 バレクが平原の上空で羽を広げて、光の矢を立て続けに悪魔の城壁に打ち込んでいると、
黒色の蝙蝠の羽をした悪魔達が空に群がってきた。地上からは、対空砲やらミサイルがバレクに向かって撃ち込まれてくる。
 その度に、バレクは位置座標を一瞬で変えて、再び城壁に光の矢を打ち込む。砲丸やらミサイルは、空を切っていく。辺り一面が、光の閃光と爆弾の黒煙で曇っていて視界が悪い。

 イサウュシは、森にゲリラの様に隠れている悪魔に手をやいていた。森のあちらこちらから、彼に向けて飛び道具が放たれてきて、それをバリアで防いでいる。防戦一方であった。
 この惑星には、悪魔王が2人いる。その2人を倒さなければならない。

 ウローヒはその間、人間の各集落を回っていた。疑心暗鬼にある人間から攻撃を受けても、ウローヒはそれを敢えて受けて、救援に着た事を告げて人間達を説得していった。
 ウローヒの体は傷だらけで、赤い血に染まっていた。
 この惑星で出来た人間達の集落は数百にのぼっている。それらを全て回って、人間達を安全な場所に誘おうとした。

 平原の城壁が、ほぼ瓦礫の塊となったところで、悪魔王が出て来た。体長は40メートルはあり、黒い羽を数百枚背中に生やしている。
 悪魔王は、黒い羽を羽ばたかせながら、空に飛び立って、バレクの正面で互いに睨み合った。悪魔王は、元は人間だが、異形の形をしている。
「バケモノめ!」
バレクが悪魔王を目の前にして、吐き捨てた。
 悪魔王は、憤激してバレクの目の前に空中で一気に踏み込んできて、大きな両腕の先にある掌で、バレクを捕まえた。バレクの体に、強い圧力がかかってきた。悪魔王は、バレクの20倍以上の体長である。
 バレクが気合いを入れると、悪魔王の掌とバレクの体の間に、空気の壁が出来た。更に、バレクが体の熱を上げると、悪魔王の掌が融けてきて、ひしゃげてきた。それで、悪魔王はバレクとの距離を取り直して、バレクに背中を見せて空を逃げ出した。
 「姑息な」
バレクがその後を追おうと神経を集中した時、バレクの体を悪魔達の槍が、方々から貫いた。バレクが「しまった」と考えた時、バレクは背中を見せている悪魔王に渾身の力を込めた光の矢を放った。悪魔王は蒸発してなくなった。
 それで、バレクは意識を失い、宙から地上へと落ちて行き、絶命した。地上に落ちたバレクの体を、悪魔達が何度も槍で串刺しにしていると、バレクの体から小さな光球が出てきて天空へと消えて行った。
 残された彼の体は、灰の様になり土に馴染んで、風に吹かれて散り散りに大地に飛んで行った。

 イサウュシは空中で防戦一方であったが、バリアを張りながら地上に降りて森の城壁を目指した。
 襲ってくる悪魔は、イサウュシの念動力で皆、跳ね飛ばされて行った。城壁の門に辿り着いたら、彼は門を叩き壊した。
 すると、城壁の中には異形の60メートルくらいの悪魔王がいた。悪魔王は咆哮を上げている。悪魔王には、やはり黒い羽が数百枚背中に生えている。
 戦車や、大きな石やらをイサウュシに投げ付けてきた悪魔王に対して、イサウュシは素早く動きそれらを避けて悪魔王の懐に飛び込んだ。彼は、一気に念動力で悪魔王を地面に叩きつけた。  悪魔王はそれで体全ての骨が折れた。
 しかし、城壁の中央にいたイサウュシに対して、悪魔達が人間の使う兵器で、ありったけの攻撃を加えてきた。
 煙が晴れた時には、イサウュシの体は羽が全て折れ、穴が体のそこら辺に開いていた。イサウュシは後方に倒れ込み絶命した。やはり、イサウュシの体から小さな光球が天空に去っていった。
 ここで、残された悪魔は、この惑星上で2万匹であった。

 ウローヒは、それを気配で知った。2人が死んでしまったことも。ウローヒは全ての人間達の集落を回ってから、覚悟を決めていた。ウローヒの運命は、人間達を守って、悪魔全てを駆除する事であった。
 それから10年後、最後の1匹の悪魔を倒し終えたウローヒは、光に包まれて天界へと去って行った。
 その時に、この惑星で残された人間は1万人程であった。残された痩せこけた人間達は、上空のUFOへと帰る事が許された。
 長い20年間の月日を待たされた100隻のUFOの人間達は、歓喜の瞬間を迎えた。大天使との約束が守られたのだ。
 100隻のUFOは、約200万人の人間達を乗せて、高速航行へと入っていった。