天界の王宮(SF)

 序章「 天界での異変 」

 天界は光の国である。生命の発祥の根源であり、その光の元は神の栄光から出来ている。
 或る日、神が眠りについている間があった。神の眠りは深く、300億年ぶりの眠りであった。丁度、神の第1王子は貴族(大天使長)達と、神の王宮の泉の周りで談笑をしていた時であった。

 王宮に大天使長で最も美しいとされていたルシファーが私兵を用いて強襲を仕掛けてきた。その数は天使長10,000余りである。
 王都の王宮を守衛していた神の第5王子は、その気配を感じ取っていて、神の近衛師団である大天使長5,000で応戦した。
 王子達は「 何事か? 」としきりに大天使長達と叫び合い、第5王子の伝令を聴きつけ、ルシファーの反逆を初めて知った。

 王宮は包囲仕掛けられたかに見えた。しかし、槍の無双であった神の第3王子と、剣と盾の達人であり神の第4王子が直ぐに王宮から大天使長数100を従えてルシファーの囲いを突破し、ルシファーを討ち取ろうとした。
 ルシファーの兵はそのまま散り散りに逃げ、神の怒りを畏れて顔を隠した。しかし、全知全能、万物創造、森羅万象、不老不死、悠久無限の神はこれを既に予知していて、反乱に参加したルシファーと天使長達を堕天させ地獄へと堕とした。

 神は短い眠りから覚めて、第1王子、第2王子を天界に残して、自ら残りの4王子を連れてルシファー討伐に赴く事を決意した。
 神は平静で静かであったが、天界の住人たちは烈火の如く、怒り、ルシファーを糾弾して、戦いの準備を進めた。

 ルシファーは地獄で美しかった姿が醜く変貌して、もがき苦しみ、一緒に堕天した天使長と共に、地獄の悪魔達を服従させ、自らをサターンと名乗った。
 無限の大宇宙∞を巻き込み、天界と地獄での壮絶な闘いの幕が上がった。

 

 第1章「 出陣 」

 神は無限∞の大宇宙∞と天界の創造主であり、全てを統べる者である。
 神からの勅命が、4人の王子に下った。第3王子マテリア、第4王子バトリス、第5王子スペーシタイム、第6王子ギルシトである。

 王宮に6名の王子が円卓を囲み、打合せを兼ね黄金の意匠椅子に腰かけている。会話は無くそれぞれに目配せをして、ほんの一瞬でそれぞれに席から姿を消した。部屋は金色の輝きから白色の天界の輝きに戻った。

 大宇宙∞の一部の飛び飛びの銀河やら惑星が、神の威光に逆らってサターン側に組みして、暗黒に堕ちた。それらに再び、神の栄光を取り戻さなければ成らない。
 それぞれの4王子に、総参謀総長が付けられた。第3王子にはウリエル大天使長、第4王子にはガブリエル大天使長、第5王子にはラファエル大天使長、第6王子にはミカエル大天使長。
 ウリエル大天使長は攻撃力が強く、狡猾であるが頼りに成る。ガブリエル大天使長は神の王女であり、気品が高く気高い。ラファエル大天使長は知的で才能に長け、戦術に優れている。ミカエル大天使長は優しく厳格で、慈愛に満ちていた。

 第1王子と第2王子は天界に残り、サターンの襲撃に備える事とした。天界の王宮には、大天使長が数多残り、守りを固めた。

 先ずは、第6王子が出陣して戦闘をせずに、各星系を周り神の教えを再び広める事とした。ギルシトは装備を一切持たずに、守りの大天使長達と共に、各星系に自ら降りて神の教えを説いて回った。
 ギルシトの旅は過酷であり、困難を極めた。ミカエルの優しさの元、各星系の知的生物達に時に石に座り、時に木陰で立ちながら、時に祭壇に立ちながら星系の人々に神の教えを説き、人々の改心を待った。

 地獄へと出陣をしたのは、第3王子マテリアと第4王子バトリスである。2人の王子は、サターンを天界に向かわせない為に、地獄に総攻撃を掛けた。
 第3王子は物質の支配者であり、第4王子は戦いの神と呼ばれていた。2王子は、大宇宙∞の至る所に存在する地獄への扉を包囲し、そこから地獄への侵入を図った。
 第3王子は腕力に優れて、槍の無双であり、物理的攻撃力に長けた。第4王子は剣盾技に優れて第3王子に劣らず無双で、共にサターンと互角に戦える者である。

 第5王子スペーシタイムは、大宇宙∞の制圧に向かった。神の近衛師団の大隊長であり、神からの信任が1番厚く、忠誠心に厚い。
 神の近衛師団は、全て大天使長で構成されていて、その守りはどんな嵐でも動じず、一切として引かず、一切として後退をしない、天界随一の剣技と神力の持ち主で選抜されている果敢な者達の集まりである。
 その守りの堅さたるや、ダイヤモンドをも粉々にする破壊力であり、鋼鉄の壁を一瞬にして融かし、神に近付く不埒者を灰塵にする程であった。

 今、天界の王宮から出陣した4王子が、無限∞の大宇宙∞と地獄でそれぞれの役割を果たし、出陣をしたところであった。

 第2章「 閃光 」

 大宇宙∞のある場所には、地獄へと繋がる道がある。空間的、時間的、物質的に歪んでいて普段は、そこと大宇宙∞を行き来する事が出来ないでいる。
 しかし、サターンが地獄の王と成ってからは、その歪みを超えて、悪魔達が地獄から宇宙空間へと出て来るものがあった。そうして、無限の大宇宙∞のごく一部の銀河や惑星が悪に染まって行った。

 今、神の第3王子マテリアの大天使長達と、闇の大王ゼウスは幾千の銀河を挟んで対峙していた。マテリアの大天使長達は、既に数十という数を失っていた。マテリアの周りは光で満ち、ゼウスの周りは闇で霞んでいた。
 マテリアが大天使長達の後方から進み、ゼウスの正面の空間に出でた。ゼウスはマテリアのゆうに数十倍の闇で、マテリアの光を掻き消そうとした。マテリアが神の名を唱えると、一瞬、ゼウスの闇が揺らぎ、銀河の輝きが倍増して闇を光で小さく包み込んで行った。

 「 どけ、ゼウス。サターンに組みする積りか? 」
マテリアが余裕綽々とゼウスに近付いて行きながら言い放った。そして、槍が光を放ち出すと周りの銀河全てが震えるように光輝き笑うように膨らんで更に闇を小さくした。
 「 それは、このゼウスに言っているのか? 」
ゼウスは体の周りの闇を大きくして、光輝く銀河達を鎮めた。ゼウスは暗闇の中、高笑いをして、宇宙空間に重低音の振動を起こすと、マテリアの正面に実体化して現れた。その姿は黒色の衣を纏っていて、だが美しい姿をした青年の出で立ちである。

 永らく2人は向かい合っていて、それから、闇が消え去って数多くの銀河の輝きが戻った。ゼウスは神の威光を畏れたのか、神の意向に従ったのか、大宇宙∞のどこぞの闇へと再び溶け込んで行った。
 マテリアは近くの大天使長達に、ゼウスを刺激しないように指示し、地獄の扉を再び包囲する事を促した。

 悪魔に堕ちた星系は、それぞれに神の名乗りを上げて、自らの独立性と正当性を主張して真実の『 神 』を軽んじて、星系に住んでいる生命自らが神との名乗りを上げて行った。

 本来の信仰が薄れて行き、『 神 』の栄光と威光を忘れて、サターンに属した者達は神力を剥奪され、神の創造物から唯の動く動物へと成り、大地を彷徨って財産の奪い合い、生命の奪い合いを始めた。
 これがいわゆる堕天使であり、悪の思想の支配下で、動物自らが神を名乗り合い小さな惑星上で覇権を争い合い、土地の略奪と、僅かばかりの食料を取り合っての紛争が絶えなかった。
 高度文明や低知能生物など、さまざまな形でこの優劣を競い合い、暴力により自らを神と認めさせようと目論み、服従と収益拡大を図っていった。

 それは思想を他民族や他星人に押し付ける思想的暴力であり、本来あった『 神 』の栄光と威光に反するもので、呪術の発達により他人を呪い、神を名乗った動物達の思想に反する個人や民族を迫害して、神を名乗る動物を神であると認めさせる為の言論統制や思想の統制が行われていった。
 人権というより、生きるという権利さえも奪い、神の創造物である知的動物を奴隷として扱うまでと成って行った。

 言うまでも無く、『 神 』は天界におられて万物森羅万象を創造されている。地上に動物として生きていて神と名乗る者はまやかしであり、目先の利益を利用して神の威光という名目の下に暴利を貪り、他者の持ち物の剥奪を試みている者達である。
 唯、『 神 』はその意志の伝達方法の1つとして『 神の子 』を地上に遣わし、神の御意志を生命に伝達し、『 神 』の奇跡を生命に直接目撃をさせる代弁者とする事はある。
 また、『 神 』自らも何らかの方法を持って地上に降臨する事があるのかも知れない。

 個々の宗教における『 神 』の定義はまちまちで、それらの矛盾を指摘するときりがない。その矛盾の解釈は、過去に残された文献や建物で知る事ができ、その断片的な記録が現代まで受け継がれてきていて、神代の時代の生命が如何に『 神 』と触れていたのかを知り得る欠片と成っている。

 これは物語であり、伝説であり、記録である。当時の人々がどのように『 神 』を感じていたかは現代人には知る事が出来ない。
 この物語は宗教では無く、一切として宗教と関係が無いものである。物語は時として伝説として後世に残り、後世で真実として語られる事が多々ある。その物語の真偽が問題ではなく、『 神 』と呼べるものの定義が合っていて、理に叶い、科学からかけ離れていて神秘性があり、その存在に魂に宿っているかである。
 『 神 』は人の目に見えるものでは無く、森羅万象の自然現象から感じ取るものである。俗に言われる『 神の具現化 』とは、『 神 』から遣わされた『 神の子 』であり、『 神 』の意志を伝える役割を持って地上界に存在して、生物の目に見る事が出来ると思われる。
 これらを証して、人は『 神 』の奇跡を感じるものである。科学と感性とは、相反するものであり、それらを両立させて『 神 』を紐解く事は、難しい問題である。科学的に証明できるものは『 神 』と呼べるものではないと思われるからです。

 物語をお楽しみ下さい。これは真偽を問うものでは無く、『 神 』の謎を紐解くものです。

 天界の王宮では、神が実体化した姿の美しい青年から壮年の間の若者が、神の玉座に座っていた。この神は、神の具現化したものであり、神のごく小さな1部分である。
 それでも神の具現化は初めての事であり、天界の王宮から『 光 』の様な輝き、明るさが、どことなく神の存在から迸り、天界の王宮の周りを光源として、天界の隅々までをも明るくしていた。
 その光は、光源と書いたが発生場所が無く、影も無く、ただ生命の魂の泉であるような明るさで、温かさを感じるものであり、恒星からの光とは一線を引くものである。
 何が違うのかというと、天界の光は光源が無く随所に明るく、そこに住む住人の輪郭を無くすほどの神の栄光から出来る光である。

 神の化身は柔らかい衣の様なものを纏い、第1王子と第2王子に指示を与えている。同じように大天使長達にも。
 一方で、第5王子は、先に出て行った第6王子の様子をミカエル大天使長から随時聴いていて、その行方と安否の様子を伺い、大宇宙∞に向けて天界の大天使長達で構成された近衛師団で、『 具現化した神 』を護衛して出陣する支度をしていた。

 一方で、大宇宙∞の地獄への通路を包囲していた、大天使長達に異変が起こった。比較的大きな銀河に存在する奈落への入り口付近にいた大天使長達の身体が、地獄からの熱風で溶け出して苦しみだした。
 地獄の通路の中から、悪魔の腕が2本出てきた。その腕が通路を広げるように通路の出口を掴むと、何か腐臭をともなう物体が宇宙空間に現れた。大天使長達は慌てて、剣技と神力でそれに攻撃を加えたが間に合わず、地獄の熱風とその悪魔の触手で身体を巻き取られて息絶えた。

 直ぐに、そこに数100の大天使長と、神の第4王子バトリスが瞬間移動で姿を現した。

「 久しいな、バトリス。永らく逢う事がなかったな 」
悪魔が話しかけてきた。
「 久しいがおぞましい姿に変わり果てたな、ルシファーの第1子 」
バトリスは、無表情でそれに答えた。
バトリスは返答の代わりに、素早い剣技で神力を込めた一閃をその悪魔に与えた。悪魔は神の業火に包まれて、炎の中「 天界に帰りたかった 」と言い消えていった。

 地獄の門は閉じ、再び空間に静寂が訪れた。

 第3章 「 迎撃 」

 地獄は暗黒の地である。『 神 』の栄光と威光から見放された地であり、『 神 』すらも目を反らす程であった。光も一切として届かずに、ただ、冷たく、熱く、恐怖に支配されていた。
 今、サターンはここで力を蓄えていた。『 神 』から神力を剥奪されていて、唯の腕力と磨いた剣技に頼るだけの生き物から暗黒の魔術を覚えてその習熟を行っていた。
 悪魔達はサターンの暗黒の魔術に恐怖し、従い、知識を持たないその脳で、大宇宙∞の温かさに焦がれていた。
 サターンの第2子が、堕天使である者達と悪魔を纏め上げてある銀河に存在する通り道からの大宇宙∞への進出を今、図っていた。その数、400万体である。
 そうして、大宇宙∞の時空が破られると、その銀河はたちまち暗黒に堕ちた。これをサターンの第2子は、暗黒銀河と称してサターンの国と命名した。

 『 神 』の第5王子スペーシタイムが天界の王宮から、『 神 』の勅命を受けて出陣した。暗黒銀河の周りの銀河に住む異星人達と、暗黒銀河とで交戦中との知らせが天界に齎された。
 その少し時間軸の前に、スペーシタイムは大天使長ラファエルと共に、天界の王宮の神殿の中の気高い玉座の前で、『 神 』の前で右膝を共に付き、頭を下げて言葉を待った。
 お言葉は次のものであった。
「 ラファエル大天使長。私は第5王子と後方から遅れて行くこととする。それは、サターンとの一戦を控えているからであり、この未熟な第5王子にサターンを打ち破る神力を授ける為である。
 他の王子達はそれぞれ、剣技に優れ、優しさに優れている者もいる。しかし、この者程、大宇宙∞を統べるに適した器量を持ち合わせた者はいない。ラファエル大天使長には、判っている事と思うが 』

 ラファエル大天使長は、唯、頷いたのみであった。
 光輝く神殿の広い空間の中、玉座に座る神の化身は神々しく、また、気高く気品に満ち溢れている。続けて神の化身が言った。
「 それぞれの王子には役割があり、それぞれの実力は伯仲している。しかし、時間と空間を自在に操るこの王子は、無欲であり、清廉潔白であり、思慮深く、素朴であり、私に一切の疑念を持った事が無い。
 私の魂は無限であり、衰えることは無い。力も、体力も、知識も、全て。だから、この第5王子は、時間と空間を超越出来る特技があり、神である私と共に永劫の時間を共に出来る唯一の存在である 」
 ラファエル大天使長は再び、深く頷いた。
 スペーシタイムは何も反論をせずに、『 神 』の言葉を聴いて頷いた。ラファエル大天使長は、それで器の片鱗を第5王子に見た。

 ラファエル大天使長は、純白の甲冑を纏い、左腰に鞘に納まったソードを付け、左手に神力を高めて放出する器を持ち、先に立ち上がり、暗黒銀河を迎撃する為に多くの大天使長を連れて天界から大宇宙∞に出現した。
 暗黒銀河から10憶光年離れた所で、宇宙空間で陣形を整えた。ラファエル大天使長は中央で、右に大天使長5万、左に大天使長5万を配置して、少し離れた位置にそれぞれ大天使長1万を随所に配置した。

 暗黒銀河にいるサターンの第2子は、それを暗黒魔術で感知して、周りの銀河からの異星人の攻撃を一蹴してから、堕天使と悪魔の数200万体で暗黒銀河から出てきた。
 悪魔達は自分勝手に我先にと、ラファエル大天使長の陣に攻撃を仕掛けて来ようとしていて纏まりが無く、四方を銀河に囲まれた広い宇宙空間で対峙した。

 戦端は悪魔達から仕掛けてきた。ラファエルが中央にいる10万の大天使長の前面から多くの悪魔達が襲い掛かってきた。ラファエル大天使長と10万の大天使長はこれを正面で受けて、剣技で押し返した。
 ラファエル大天使長の両翼の部隊が、悪魔達を前面に押し返して行くと、ラファエル大天使長が神力を集中させて、宇宙空間に雷を発生させると、それは瞬く間に悪魔達が密集している広範囲に広がっていき、悪魔達の身体を燃やし尽くした。

 サターンの第2子と堕天使達が、ラファエル大天使長達から見て露わに成った。堕天使達が慌てふためいて、暗黒の魔術を駆使して、攻撃を仕掛けてきたが、ラファエル大天使長と10万の大天使長は動じず、まるでバリアに守られている様に魔術が届かなかった。
 ラファエル大天使長が離れて待機させていた大天使長達の部隊は、微動だにしていない。ラファエル大天使長が次に神力を集中させて、堕天使達の上に光の球を発生させると、その光球から光の線が幾つも無数に堕天使達に降り注ぎ、堕天使達は蒸発をして消えて行った。

 後に残ったのは、サターンの第2子と数100の堕天使達のみであった。
 サターンの第2子は、これを見て、暗黒銀河に逃げようとした。そこにある大天使長が、サターンの第2子に一騎打ちを申し出た。第2子は、逃げようとしていた身体を反転させて、その大天使長を見た。
 大天使長はラファエル大天使長と同じ色の純白の甲冑に身を包み、佇んでいた。女性の大天使長であった。第2子は、これは好機と見て、暗黒呪文を唱えてから、一気にその大天使長までの間を詰めてきた。
 大天使長は剣を鞘から抜くと同時に、鞘に剣を納めた。するとサターンの第2子は体に亀裂が入り、業火に焼かれて灰と成って行った。

 残った堕天使達は、慌てふためいて暗黒銀河に散り散りに逃げて行き、隠れた。
 ラファエル大天使長は、そのままその暗黒銀河を包囲する様に、その女性の大天使長に命じた。

 周りの銀河が暗黒から、光を取り戻した。同時に、使いの者をそれぞれの銀河に出し、救援が来た事を告げた。

 第4章 「 慈愛 」

 先に大宇宙∞に出撃した第6王子ギルシトは、穏やかな気質である。暗黒に染まったある惑星があった。そこに大天使長ミカエルと数100名の大天使長と降り立った。
 ギルシトは、着けてきたソードを地に置き、甲冑を全て脱ぎ白い衣を纏った。その装備を大天使長ミカエルが拾い上げた。ミカエルは彼が必ずそのようにするだろうと予知していて、何も言わなかった。

 ギルシトと大天使長達が降臨した大地に恒星からの光が降り注いだ。暗黒惑星の雲が飛散していき光が差し込んできたのだ。その光が次第に大きく成っていくと、周りにいた異星人達の姿が見えてきた。
 異星人達は何事かと距離を取ってギルシトと大天使長達と取り囲んでいた。大天使長達は大きな羽を羽ばたかせて異星人達の襲撃に備えていた。
 今正に、異星人達がギルシト達を襲って来ようとした瞬間、ギルシトは少し大きな丘の石の上に立ち、天に右手を掲げた。すると、空高くの雲が一斉に遠のき、晴天の雲1つ無い空へと変わって惑星に夜明けが訪れた。

 大天使長達の純白の甲冑は光を受けて乱反射し、まるで丘の上だけ晴天の雪山の様に純白の輝きで染まった。
 異星人達は丘の石の上に立つ白い衣に身を纏った者が良く見えた。彼からテレパシーで伝わってくるものは「 優しさ 」「 いたわり 」「 慈愛 」であった。
 異星人達の心は、悪に冒されたものから純粋な水の様な透明な澄んだ少年・青年のものに変わっていった。
 異星人達は武器をそのまま掌から落とし、丘の麓に歩いて行きギルシトを近くで一目見ようとした。彼からは何か異国の言葉で「 優しさ 」が伝わってくる。心が平穏に成るのだ。

 石の上に立つ白い衣のものは、掲げた右手を動かした。大天使長達が皆、跪くと、それに合わせて異星人達も皆、両膝を付き平伏した。
 惑星は夜明けから、晴天の空の中にあり、暖かみが増し、地面から草木が生えてきて、小鳥が空を鳴きながら飛び、虹が大空に架かった。
 ミカエル大天使長が立ち上がり、異星人達の言葉で語りかけた。ミカエル大天使長は若い出で立ちの女性で、装飾の素晴らしい純白の甲冑に身を包んでいる。
「 此の方は、神の王子にして天界からこの地を救いに来たものです。貴方がたは今、暗黒のサターンの統治から救われました。
 清い心を持って、正しく誠実に生きなさい。決して、悪の心に染まってはいけません。神の御心は常に世界の平穏です。わかりますか? 」

 暗黒で見えなかった周りの景色が露わに成って来た。草原の大地には花が生い茂り、遠くの大地には緑色の山々の山脈が連なる。山脈の手前には湖があり、光を受けて水面がキラキラと緩やかな小さな波で鏡のように大空を映していた。
 草原には動物達がいて、鹿に似た群れが大地の草木の葉を食べている。

 ギルシトは、石の上からゆっくりと大地に降り立ち、大天使長達が道を開ける中を通り過ぎて平伏する異星人達の中に入って行った。
 汚れに濁った異星人達が目を上げると、その目はギルシトを捉えた。彼は異星人1人1人の頭に手を置き、テレパシーで「 神のご加護を 」と呟いて行った。そうして、そこにいる異星人達の全ての者の心が安静に成ると、再び、丘の石に登った。
 彼は石の上から、異星人達の言葉で優しく語りだした。

 「 神の御意志は、皆の者との闘いを望まぬ。神は完全無欠の存在であり、あなたたちの御心を癒すだろう。悪しき心を持たずに、善き心を持ちなさい。心を常に平静でいなさい。決して、争いを行ってはいけません。他人を思い遣りなさい 」

 大天使長達は、既に大天使長ミカエルと共に大空を羽で飛んでいた。その意志が、その惑星全体に伝わると、惑星は森林の緑と水の青と土の茶の色豊かな惑星へと戻っていた。
 異星人達の喜びに溢れる歓声が、惑星上に木魂していた。

 それが、その異星人達の惑星だけでは無く、近くの星系にも伝播して行き、大きな銀河の隅々まで行き渡ると、銀河は輝きを取り戻して宇宙空間に佇んでいた。
 ギルシトがこの星系はもう大丈夫だと感じると、ソードも甲冑も装備しないで、大天使長達と、次の銀河の惑星へと目指し、空へと昇って行った。
 異星人達は、しきりに「 神の王子が来られた 」と口にして、彼が昇天をして行くのを見守っていた。

 第5章 「 危機 」

 時間と空間と物質の歪みの間で、大宇宙∞と天界と地獄は存在していた。その存在自体はそれぞれに無限の空間的広がりに近い。
 天界は神の存在する所、地獄は神の見放した所、大宇宙∞は神秘的で魅惑的で驚異的な所であるとすると、人には解釈がし易いのかもしれない。だが、それらを人に簡単に理解する事は決して出来ない。
 人は魂を身体に『 神 』から与えられて、生命として地球上に存在している。その存在は輪郭を持ち、しかし、時に感覚として人は存在している。5感というものである。

 人は自分自身というものをどの様に感じているのだろうか? 例えば視るという行為で、景色を知覚して自分の立ち位置を確認出来る。又は、触るという感覚でも、自分を確認する事が出来る。
 視る事は光が自分の周りの景色を運んできて、又は身体の部位を確認出来る。鏡を見る事で、自分の姿形でさえ認識を出来る事もある。
 触るという事も、同様に自分の存在を教えてくれる。物に触ったり、自分自身の身体に触る事で、自己認識を出来る事がある。
 空気は人が常に触れているものである。空気がもし無くて、人が存在出来る状態に居たら、恐らく肌の感覚でさえ無くなり、不安で堪らないのではないか。

 人と人の関係も同じである。誰かの存在は、音や匂いや、そしてその人の醸し出す雰囲気でも感じる事が出来る。これは5感の中に入ると思われる。だが、第6感かも知れない。遠くの肉親が今、どうしているか等を、夢想して思い描く事が出来る能力を人は持ち合わせている。
 自我とは、人のどこに存在しているか、自分自身では認識出来ない。物に触れている時には指先であったり、考えに耽っている時には脳であったり。それは、身体に宿る魂によるものであるに違いない。

 大天使長ガブリエルと第4王子バトリスは、奈落の入口にいた。大天使長ガブリエルが神力を増大させて奈落の扉を宇宙空間に開いた。冷気が宇宙空間に流れ出して来た。同時に、引力のようなもので、奈落の穴の中に堕ちて行きそうな感覚を感じた。
 バトリスがその穴の中に1番に入り、大天使長達が続いた。大天使長ガブリエルが神力の続く限り、奈落の扉を開けていて、大天使長1000余りが中に入った所で、大天使長ガブリエル自身も、その中に入って行き、奈落への扉が閉じた。

 大天使長達が地獄へと入って行く事は、初めての事であった。バトリスと大天使長ガブリエルと大天使長1000余りは地獄の中に密集していた。暗く、寒く、空間の広がりが判らないくらい広い。
 やはり悪魔達が、疎らに地獄の空を飛んでいる。
 そこに大きな体の悪魔が現れた。その悪魔は、低い声で大天使長ガブリエル達に尋ねてきた。「 何者だ? 見慣れない顔だな? 」
大天使長ガブリエルは、それに対してこう答えた。
「 ここにサターンという者がいるな? どこにいるか? 」

大天使長ガブリエルが女性だと悪魔は知ると、大きな悪魔はその太い腕を大きく動かし、
「 それは知らぬことよ。 お前は天使か。 ならば捕まえてくれよう 」
と言い、大天使長ガブリエルを大きな掌で捕まえようとした。
 すると、大天使長ガブリエルの身体から一気に光が迸り、地獄の辺り一面を明るくして、大きな悪魔はその場で灰塵と化して消えて無くなった。
 バトリスが、あちらの方向からサターンの気配がすると感じると、バトリスを先頭にし、大天使長ガブリエルを後方にして、密集をして地獄の空を飛んで向かった。

 一方で、天界の王宮では、神の具現化した化身と第5王子スペーシタイムが天界から進軍する瞬間であった。神の化身が進軍の合図を出すと、神と神の近衛師団達は大宇宙∞の宇宙空間に出現した。その数は、無数で数え切れない程の数である。
 神は進軍に当たり、この後起こり得る事を全て想定して予知して、出撃した。神の化身が出撃してから、どれくらいの時が経っただろうか。
 第1王子と第2王子が、天界の王宮で寛いでいると、天界に異変が生じた。神の栄光の光に暗黒の魔術を掛けてくる気配がしたのだ。
 第1王子が、その気配を感じ取って、近くの大天使長達に指示を出した。暗黒魔術で天界の扉を開こうとする者がいた。
サターンが天界に急襲を仕掛けてきた。悪魔達をともない。

 第2王子が大天使長達と神力を集中させて、大宇宙∞の宇宙空間の、サターンの近距離に出現した。サターンは地獄で力を蓄えて、身体を膨大な大きさに変化させていた。
 悪魔達が散り散りに第2王子の部隊に攻撃を仕掛けてきた。第2王子は、10万の大天使長を伴って出撃して、巧みな防御で悪魔達を粉々に粉砕した。
 後に残ったサターンは、それを知ると、地獄の扉を開き、奈落の底へと帰って行った。

 天界は『 神 』の栄光と威光に満ちて、光輝いていた。神の威光は天界の隅々までも照らして、その存在を知らしていた。

 第6章 『 威光 』

 天界では、『 神 』の威光に逆らって、天界の扉をこじ開けようとした者の攻撃から幾時が経っていた。
 そこは光の永久の空間であり、暖かく、心の休まる所である。生命の息吹を感じさせる。眩しい光の中、神殿が存在していた。神殿は白を基調とした、黄金色、白銀色、を織り交ぜられていた幻想的装飾で彩られ、また随所に壮大な壁画が色鮮やかに施されている。
 天使達の憩いの場であった。

 空間的に宙を浮いている状態のその神殿には、女性の天使達が集っていた。女性の天使達は神殿の中で衣に身を包み、その上を幼い天使達が浮遊して飛んでいた。
 女性の天使達の心には一切の穢れが無く、また、純粋に神の淑女であった。それらの天使達が一同に会していたのには訳があった。
 1人の女性の大天使長が、戦況をつぶさに説明をしていたのだ。だが、その話は本題では無く、『 神 』のご様子である。

 実体化し具現化した『 神 』の化身が闘いに出られてからもう暫く経ち、天使達がその不在を心配していた事である。
 天界に光が失われないかという心配である。大天使長は天使達の不安に応える様に、言い放った。
「 正しく、神は戦いに赴かれた。しかし、天界には光と栄光は失われる事はないでしょう。我々の創造主である方は、今も天界におられるから 」
 女性の大天使長は装飾兼備な足元まで届く衣を着て、冷静沈着である。
「 それは何故ですか? 神は戦闘に赴かれたではないですか? 何れ、天界の光が失われてしまうのではないでしょうか 」
天使が尋ね返した。

 大天使長は、口の先まで出かけた言葉を飲み込んで、更に沈黙を保った。この天使達に天界の全てを理解する事が出来ないだろうという考えで。実際に、大天使長自らも、天界の成り立ちや理や果てまでも知り得ていない。
 天界の存在している時が、何時からであり、どこの座標に存在し、天界の空間が何で満たされているか等の事実は、『 神 』とごく少数の王族が知り得ているのみである。
 だからこそ、天界の住人でさえ完璧な者は存在しておらず、唯、『 神 』のみが絶対無比な完璧な存在であるのである。
 天使達の存在していた過去を遡ってみても、天界は既に存在していて、天使達の魂が有限だが永久に近い時間を存在している事でも、天界の成り立ちに天使達が疑問を持ちだした。

 大天使長はその不安は十分に理解していたが、この天使達が『 神 』への疑問を持たないかを心配していた。
 天使達の存在意義、天界の存在意義、そして『 神 』に対しての一片の疑問でも生じたら、この天界に留まる事が難しくなるのではないかとの心配である。
 天使達の住む天界は確実に存在していて、今、天使達を包み込んでいる。そして光輝き天使達の存在を包み込んでいる。それに対して、異論を唱える者は、自らの存在を否定して、『 神 』に対しての異論を唱える事に成らないかとの不安である。
 それがこの騒乱で浮き彫りに成り、天使達の純粋な心と魂に遺恨を残した。

 『 神 』の威光と栄光は、無限の大宇宙∞までも及び、それらを全て創造されている。時間、空間、物質とそれらの相関関係までも。

 一方、天界の王宮にいて、戦況を伺っている者達がいた。『 神 』の第1王子と第2王子と大天使長達である。
 普段から、『 神 』のために設けた玉座の主は何時も不在であった。現在も不在である。しかし、王宮の者達は全て知っていた。『 神 』の威光と栄光が、天界に留まっていて、また無限の大宇宙∞までも見渡していることを。
 だからこそ、彼等は存在しているのであり、今も彼等は光輝いていて、天界も永久の光を失っていないことを。

 天界の光の輝きは、決して掠れる事も薄れる事も無く、無限の空間の中、無数の天界の住人達を光の中に包み込んでいた。

 第7章 『 苦難 』

 ある暗黒銀河の中に、まだ暗黒に染まっていない恒星を回る惑星があった。そこは、緑豊かな海の存在する鮮やかな惑星であった。
 朝日が昇る頃、第6王子ギルシトと大天使長ミカエルと大天使長達が、惑星の大陸の海の近くの海岸線の砂浜に降り立った。海は朝日を受けて橙色と黄金色に染まっていて静かであり、碧色と白色の混ざった空が、夜明けの宇宙空間の暗さの中に微かに星を見せていた。
 砂浜は磯の匂いと潮の匂いがしていて、遠くに草木の少し生えた干潟が見える。干潟には鳥の群れが大空を飛び、ひっきりなしに波長の高い短い鳴き声が反響をしていた。

 ギルシトは、穏やかにゆっくりと砂浜に座り、朝日が昇り辺りが明るくなるのを待った。さざ波が海岸線で砕ける音が、耳元で聞こえていた。纏っている衣は純白の白いものだけで、腰の部分をベルトの様な太い紐で結わっていたのみである。
 大天使長達は、大きな身体に色とりどりの甲冑を身に着けて、ただ、ギルシトを見守っていた。昇りかけた朝日に照らされて、虹色の反射光で辺りを染めていた。
「 いい惑星だなここは、ミカエル 」
そう彼が言うと、大天使長ミカエルも、
「 そうですね 」
とだけ答えた。
 彼は考えに耽っている様であった。

 朝日が昇り切って、目前の景色を鮮明にしてくると、ギルシトは徐に立ち上がり言った。
「 皆の者は、これより立ち去って、周りの星系の民を救いに行ってくれ。私はここに残り、神の教えを説くことにする 」
 大天使長達は仰天して、それに異論を唱えようとした。しかし、大天使長ミカエルは、右手を真横に差し出してそれを制し、ただ頷いた。
「 皆の者は、この暗黒銀河を美しい銀河に戻した後に、私を迎えに来てくれ。私はこの惑星で1人、惑星の民衆達と語らいあってみたい 」
 大天使長達が尚、反発して王子の意見に反対をしようとしたが、大天使長ミカエルはそれに賛成の意を示した。

 日差しが少し強く成ると、辺りから動物の気配がしてきた。遠くの海面では魚達が飛び跳ねて、イルカの様な群れが背びれを出して泳いでいる。
 南国では無く、寒冷の地帯でも無い。空気は薄っすらと湿り、海面は青く、よく見ると水は透明で透けて魚影が見えた。
「 皆の者は、私の意見に賛成してくれるか? 」
大天使長達は動揺をしていた。そこに、大天使長ミカエルが、
「 では、私、ミカエルだけがおともを致しましょう 」
と言い、軽く会釈をした。

 大天使長ミカエルが、他の大天使長達に指示を出して、この暗黒銀河を輝く銀河に戻すように指示を出すと、大天使長達はすぐさま飛び立ち、大空でそれぞれの方角に飛散をして行った。
 大天使長ミカエルは、ギルシトに近くで見守る事を告げてから姿を隠した。
 ギルシトはそれを見てから砂浜の砂を掃うため、衣類を軽く叩き落とすと、平原の方に向かって歩き出した。遠くか、近くか、人の住む街を求めて。

 ギルシトが3日3晩、歩みを楽しむと、海岸の近くに1つの集落があった。その間、彼は1滴の水も口にしなかった。
 村人が、遠くから歩いてくる彼を見付けると、のんびりと近くまで近付いてくるのを立ってまっていた。村人は、畑仕事をしている最中であった。海岸から少しせり上がった所に位置するこの村落は、50人くらいの村であり、のんびりとした気質の村人が住んでいた。
 村人が数人集まって、彼が近付いてくるのを待っていると、心に語り掛けてくる何かを感じた。それは、愛情であり、優しさであり、慈愛であった。
 彼が村人の所まで来ると、村人は彼が遠くから旅をしてきた事を悟ると、熟して瑞々しいトマトの様な果物か野菜を、彼に差し出した。彼は快くそれを受け取り、そのまま口に運ぶと、村人から笑顔がこぼれた。

 ギルシトが村に案内をされると、村の長が質素な家から出てきて、彼を迎えた。村の長は、彼にこう告げた。
「 この辺りは、戦乱が酷く、今も戦いの最中だが、この村だけは都市からだいぶん離れていて安全です。この村は、領主様の領内にありますが、他国と領主様が戦争をしていて、若い者が数名、兵士として領主様を守る為に戦いに行っています。
 見慣れない恰好をした客人は、御ゆるりとして行って下さい 」

 ギルシトは、もてなされたお礼に、自らを労働力として、畑仕事を手伝う事を申し出た。村の長はそれを快く快諾した。
 数週間後、領主の騎士が3名、噂を聴きつけて村を訪ねてきた。ギルシトが畑仕事をすると、果実や野菜がよく実り、とても味が良いとの評判が立っていた。それに不思議な事が起こるという。
 騎士は、彼が畑で働いているのを見掛けると、不思議と親愛の情が心の中に湧いてきた。見ると気高い姿をしている。騎士が馬の様な動物から地に降りて、彼に話しかけてきた。
「 あなたはどこのどなたですか? 」
ギルシトはそれを聞き、素直に答えた。
「 神の縁者のものです 」
騎士はその言葉を聞くと、最初はいぶかしげていたが、次第に怒り出して、彼を3人の騎士で捕まえて、領主の城に連れて行く事にした。

 彼は落ち着いていた。何れ、この様な事が起こり得ると判っていたからである。ギルシトは領主の城に連れていかれて、領主の前に出された。  領主が彼を見ると、恒星の日差しが一段と強く成り、彼の身体の周りを明るく照らし出した。領主はそれを見て、騎士3人に彼の事を尋ねると、領主は正しく彼は神の縁者であると騎士3人を?責して、自らギルシトの手を取り、謝った。
 彼からは、優しさ、慈愛、親愛の情が、領主の心に流れ込んできた。

 ギルシトは言った。 「 私は、神の縁者でありますが、気にする事はありません。今、この暗黒の世の中が晴れるのを、私は直して、待っているのです。それが何年、何十年になるかはわかりません。それまで、私は神の御意志を自らの行動を持って伝えて行きます 」
 そう言うと、彼は立ち上がった。すると、天地が揺れるが如くに、大地が揺れ動いた。
 領主はそれでまた、彼を信用した。

 ギルシトは、村までの帰り道の徒歩の途中、夜空を見上げた。天は半分、暗黒に染まり、半分が星々の輝きを放っていた。

 第8章 『 殊勲 』

 天界から無限の大宇宙∞に出撃した『 神 』の近衛師団大隊は、10万の大天使長の部隊の50個から成っていた。中心に『 神 』がおられて、先頭に第5王子スペーシタイムがいた。
 『 神 』の近衛師団は煌めきと閃光を放ちながら、6個の暗黒銀河から成る大きなサターン派に属する銀河団に向かっていた。そこは邪銀河団と呼ばれていて、邪神を元々、信仰している銀河団であった。サターンと呼応するように、この邪銀河団は『 神 』を裏切り、その王を名乗っていた邪王は異星人を纏め上げて地獄側に属した。

 スペーシタイムが邪銀河団と1億光年の所に差し掛かると、近衛師団の右前方から突如、邪王の異星人達が襲い掛かって来た。10万の大天使長を纏め上げる大天使長は突如の事で、崩れかけたかに見えた。そして直ぐに、近衛師団左方から大規模な集団の悪魔達が急襲を仕掛けて来た。

 「 気にするな、進め 」
『 神 』は申された。スペーシタイムがそのまま前進していると、邪王が邪王の王子達を先頭に立てて突如、悪魔数100万を引き連れて出現した。
 スペーシタイムに邪王の王子達が次々に襲い掛かって来た。スペーシタイムは剣技と神力で応じ、邪王の王子を1体また1体と倒して行くが、彼が瞬きをする瞬間に時間を過去に10秒戻されて邪王の王子達は生き返って行く。
 スペーシタイムは時間を速めて邪王の王子達を倒した時間軸に戻そうとするが、邪王は暗黒魔術で邪王の王子達を鼓舞して、時間を動かす戦いと成っていた。悪魔達も次々に彼を目掛けて襲い掛かってきていた。

 スローモーションの様に動く時間の流れの中で、スペーシタイムの剣技と神力、邪王の暗黒魔術と数の勝負と成って行った所で、戦況が一変した。
 突如現れたラファエル大天使長が、左舷後方から邪王の兵の塊に神力の雷を落とした。ラファエル大天使長は巨大な巨人の姿に成り、神力の器を左手に掲げて、大きなソードから光を迸らせていた。
 その直後、第3王子マテリアが大天使長達を伴い、宇宙空間に出現した。スペーシタイムの右舷からは、ウリエル大天使長がスピアを持ち現れて、軽く邪王の王子達をからかいながら、邪王の動きを牽制していた。

 悪魔達は散り散りに逃げて行った。邪王がスペーシタイムに一騎打ちを申し込んできたので、彼は応じた。
 邪王の王子達が1体ずつ、スペーシタイムの正面から襲い掛かって来た。1体倒すと、また1体が襲い掛かって来た。それが49回繰り返されると、最後には邪王自らが暗黒魔術を駆使してスペーシタイムと対峙していた。邪王は、邪王の王子達を使い、彼の体力を削ぎ、最後に彼を討ち取ろうと狙っていた。

 スペーシタイムの剣技と時間を操る神力と、邪王の時間を戻す暗黒魔術で宇宙空間の時間の流れがスローモーションで流れて行った。彼が邪王に剣技で傷を負わせると、邪王は時間を少し戻して傷を癒し、彼に攻撃を加える隙を伺っていた。
 それが永らく続くと、邪王の体力の限界が来て、スペーシタイムの光を伴った剣が邪王を捉えると、邪王は鳴き声と共に消えてなくなった。
 すると、6つの暗黒銀河団が、周りの銀河と同じような輝きを取り戻して行き、そこをラファエル大天使長の10万の大天使長とウリエル大天使長の大天使長達が包囲した。戦況は既に決まり、戦いは終わっていた。

 スペーシタイムとマテリアが、宇宙空間の中、光輝く『 神 』の玉座の前に膝を付き、頭を下げた。すると『 神 』はゆっくりと玉座から立ち上がり、スペーシタイムに金色に輝く剣を渡し、マテリアに7色に輝く神力の器を授けた。
「 2人とも見事な闘いぶりであった。これらを授ける 」
『 神 』はそう言い、また宇宙空間に浮いている玉座に座り、神々しい煌めきの光を放って堂々と座り、正面を見据えて大宇宙∞の彼方を眺めた。

 邪銀河団では、ラファエル大天使長とウリエル大天使長の大天使長達が、勝どきを上げていた。

 第9章 『 神秘 』

 自然界では、全ての事象が自然に動いて、静止していて、本能のままに動いている様に思われる。宗教的な考え方では無く、仮に地球という惑星のある土地の地面の上で、椅子に腰を掛けていると、または立ち上がり佇んでいるとその様に思われる。
 椅子に腰を降ろして、朝から晩まで1日中、世界の動きを静かに観ていると解る事も存在している。日が昇り、景色の移ろいと共に、日が沈んでいく。その間、目の前を人が通り過ぎ声を掛けて行き、鳥が空を鳴いて飛び、蝶が花の周りを舞い、風で流されながら上下左右して飛んでいく。
 地面を見ると、蟻が沢山いてその体の大きさでは考えられないくらいに歩きは止まりを繰り返して、複雑な動きで餌を探して歩いている。

 動物の世界は、食物連鎖で出来ている。この考え方は、強い者、弱い者がいて、ライオンの様な肉食動物が草食動物を捕食するが、何れライオンも歳を取り老いて、または疾患を患い倒れて朽ちて行く。その腐食した身体を、虫が食べて、肉食動物の身体は微生物にでさえ分解されていく。
 その虫を鳥が食べ、ネズミが食べて、それをエナジーとして小型動物は生を繋ぐ。または、大型動物はやがて土に返り、草木の栄養素と成り、草原を作り、木々に木の実を実らせる。

 動物には老いというものが必ず存在している。どんなに俊敏で頑丈で強健な動物も老いには勝てない。宗教的な考え方では無く、これは自然の摂理なのである。
 病魔に置かされても人は身体を弱らせる。病魔とは即ち、弱者であるはずの微生物のウイルスや菌類であり、これらは殺菌をすると直ぐに滅する程に弱い生物だが、一度、人の体内に侵入すると猛威を振るい、病に至らしめる。
 人は、器官を発達させた動物であり、そのどれもが大きな役割を果たしていて、1つでも欠損をすると健康を害するものである。それを支えているのは免疫や細胞治癒であるが、結局は魂の強さであると言える。

 これは自然の摂理の様に思えて、全ては『 神 』が為している事象であると思われる。『 神 』は目に見えないものであり、大宇宙∞を含めた自然界の全ての事象、時間、空間、物質、魂でさえも、全てを動かしていて、これは調べであるように思われる。
 人は『 神 』の存在を疑い、子供心にその真偽を肯定したり、否定したりして生きている。自我が発達してくると、科学と経済と学問と欲望に人の頭は支配されて、その存在すら否定する。
 では、自然界の現象は何に起因するものかというと、宇宙物理学、化学、工学、生物学、心理学、環境学、等を上げて色々と吟味する。
 この宇宙の始まりは135億年前のビッグバンであり、そこから今が存在するという考え方で説明を付ける。これは科学的に見た人が地球という惑星に存在している現在から考えた考察であり、正しいのか間違っているのかを証明する手段を持ち合わせていない。

 人は何故、知性ある動物として生きているのか? これは魂も含めて永遠の議題である。卵子に精子が計り知れない確率でウイルスの様に侵入して、それで受精して人を形作っていく。
 他の生物との違いは何か? 人は白人、黒人、黄色人、皆平等であり、交配もできる。比較をしたら問題視されるが、犬同士も猫同士も交配できる。では、何故、何何科の生物同士は、自然交配できないのか? 哺乳類でも、鳥類でも、違う種類の動物は、完全に一線を挟んで存在している。
 人は『 神 』が造られた生物である。これは紛れもない事実である。その知性は他の過去の動物を遥かに超えていて、進化をし続けている。1万年前の人と現代人の知性は雲泥の差である。
 人に期待されている事は何か? 恐らく、地球で与えられた使命が存在しているはずである。唯、闇雲に生きる事が、人が存在している理由では無いはずである。恐らく、『 神 』が創造された意義を持っているはずである。

 大宇宙∞の中に存在している小さな地球とその自然環境。もし、これらの動きを妨げる様な事をしたら、異常気象や環境破壊が起こり、地球規模での自然界からのしっぺ返しを受ける。
 人が為す仕事は、自然界の中では環境破壊に当たるが、人間界では偉業とされる事がある。都市部を開拓して近代都市に仕上げたり、反対に自然との調和を行い建物の建築の規制を行っていたり。
 今では、人は環境破壊のしっぺ返しを受けて、環境の保護・健全化の考え方に人の考えは移ってきている。世界規模での共通認識として、自然環境があっての人の営みという考え方が漸く出て来た所です。

 地球規模で見ると、欧州は既にその考え方が進んでいて、アジアは遅れていて、アメリカ大陸では関せずとの考え方が取られている。  大枠で見るとその様な流れなのです。しかし、細部を見るとまだまだ、自然と人の調和が取れておらず、地球上で今、起こっている全ての事象の細部には目が届いていない。
 宗教とは関係が無い。しかし、宗教とは人が自然現象から影響を受けて発展してきたものである。私は、宗教と言うものを一方で否定しているが、やはり一方で『 神 』の存在を信じ込んでいる。その存在の大きさは、この小さな地球規模ではおさまらず、恐らく大宇宙∞規模のもので、科学を学んだ者でさえもその真偽を確定出来ない程の存在であるはずだ。

 『 神 』という想像も出来ないくらい巨大な何かの掌の中で、人は細々と、しかし、地球規模ではセンセーショナルな行動をしている様に、人は思えるのだろう。大宇宙∞規模ではそれを、ほんの些細な事であると『 神々 』は鼻であしらっている様に思えてならない。
 「 森を見ずして木を見る、枝葉を見る 」という言葉がありますが、「 大宇宙を見ずして地球を見る 」事を、人類は今、行っているのではないでしょうか。

 この物語の真偽は、太古の遥か昔のいにしえの時間を超越した話として、読者の方々には大宇宙∞の神秘の物語としてお読み頂きたいと思います。

 第10章 『 静動 』

 ギルシトの降り立った惑星は、平穏であった。日々、日が昇ると温暖な気候で、森林は青々と深く、川は清流で飲み水としても使用できる程の水に汚れが無く、海は透明で海産物の宝庫であった。
 領主ジャスティスの領内では、日差しが強くなる前に住民は皆、それぞれの仕事を始めて、日が暮れる前にそれぞれの家路についた。領主は領民思いで、馬の様な動物に乗り、騎士10名程を従え領内を毎日のように周り、領民に声を掛けては慕われていた。

 ギルシトがこの惑星に降り立ってから1年が過ぎようとしていた。領主は偶に彼の住んでいる質素な造りの海岸沿いの家を訪問しては、村人と談笑をして食事を振舞われて夕方頃に城に帰って行った。
 彼は『 神 』の教えを説くのでは無く、『 神 』の成している世界での事象を皆に話して聞かせていた。
 少し長身である彼は普通の人と同じように振舞い、痩せた身体からは想像も付かない様な仕事ぶりで、農作業をしたり、山に入り木の実等の山の幸を集めてきたり、船に乗り魚介類を採って来ては近隣の村々に配って生活をしていた。

 そのような生活が続いていた矢先、領主ジャスティスの領内で噂が立ちだした。領国の隣の大きな国が、領主の国が豊かに成っているのを不満に思い、国境付近で兵の衝突が起こっているという。
 領主の騎士団は甲冑を『 銀白色 』で統一していて、領国だけでなく、近隣の国々までも「 聖騎士団 」と尊敬されていて敬われていた。領国の旗印は白地の布に、中央付近に複雑なエンブレムを施している。

 或る日、領主が遠方の視察に数十名の騎士達と出掛けて夜半に城に戻っていると、国境付近の空が燃える様な色をしていた。
「 何事か? 」
ジャスティスが騎士の1人に尋ねた。騎士は直ぐに城に伝令に向かい、事の詳細を聞きに走った。彼等は城に急いで帰って行っている途中で、先程、城に馬の様な動物に乗り走って行った者が帰ってきて、ジャスティスの前に来て言った。
「 隣国の2国が同時に国境を侵して、領内を荒らしながら城に向けて進軍しております。ジャスティス様におかれましては、直ちに城にお戻り下さい 」

 ジャスティスは激怒をしながらも冷静で、直ちに騎士達に指示を出して、急いで城に戻った。彼は戦いの装束に着がえると、重鎮達を前に言った、朝焼けが領内を明るくしている時間帯である。
「 他国からの領内への卑劣な愚行は許されない。直ちに、進軍して領内の民を守る事にする 」
彼がそう言うと、皆が歓声を上げて城内の広場を出て行き、馬の様な動物に乗り国境付近に向かって隊列を整えて進軍した。

 日が丁度、南中する頃、ジャスティスの軍は森の道から出て、広い平原に颯爽と整列をし始めた。遠く4キロメートル先には、茶色の旗の兵団と、黒色の旗の兵団がそれぞれ距離を置いて、馬の様な動物に乗り、待ち構えていた。
 馬の様な動物は興奮して鳴き声を上げて、地響きを立てている。ジャスティスの騎士団が森から全て出てきて隊列を整えると、森を背にして陣を張ったジャスティスが先頭に出てきて、4キロメートル先の茶色の旗の兵団と黒色の旗の兵団の様子を伺った。
 その先には開けた平原がずっと続いている。ジャスティスが連れて来た騎士は3000余りであり、相手は明らかに10000騎はいる。

 ジャスティスの所に、5名の騎士長が来て申し出た。
「 ジャスティス様。この戦いは不利です。ここはいったん、兵を引き、城で体制を立て直しましょう 」
しかし、彼はその意見を聞かなかった。相手の陣地の前に差し出されている人質を見たからである。人質達は白い衣が、所々、血の色で染まっていた。
 ジャスティスが右手を突き上げて、振り下ろした。銀白色の騎士1000騎が突撃をした。すると、茶色の旗の兵団と、黒色の旗の兵団も、突撃をしてきた。
 中間の2キロメートル地点で、両軍は激突した。1時間も絶つと、銀白色の騎士団で生存している者は1人もいなく成っていた。

 5名の騎士長が、ジャスティスが次に突撃の合図を出す前に、彼を後方に誘導して森の道に入り撤退をして行った。相手の兵団はそれを知り全軍で突撃をしてきていた。
 ジャスティスの騎士団が城に戻ると直ぐに、城門を閉ざして、籠城をした。彼はかつての3名の騎士を呼び、言った。
「 ギルシト殿の所に行き、彼を領国から逃がして護衛をしてくれ 」
3名の騎士は敬礼をすると、直ぐに馬の様な動物に乗り、海岸沿いの村まで走った。

 それから2日目の夜に、ギルシトのいる村に騎士3名が到着すると、ギルシトは机に向かい椅子に座っていた。
 ギルシトは逃げる様に指示を出す3名の騎士に対して、落ち着いていた。
「 領主様から、あなたを領国から逃がし、護衛をする任を仰せつかりました。直ぐに支度を整えて下さい 」
騎士の1名が言った。ギルシトはそれを聞き頷いたが、逃げる事を否定してこう申し出た。
「 私を領主殿の城までお連れ下さい。 必ず、皆様の力に成るはずです 」
3名の騎士達は困惑して困り果てた。領主の命令を聞いて彼を領国から逃がす事が使命なのに、彼からは城に連れて行く様に言われたからである。

 騎士1名が領主の意見を聞きに、城に戻ると、2名の騎士は彼の意見を尊重して、城までギルシトを案内し護衛をする事にした。

 既に、夜は更けていて肌寒く、満点の夜空が星々の輝きで溢れていた。

 第11章 『 降臨 』

 領主の城の城壁は、5メートル以上ある。城下町の近くの領民は皆、何も持たずに大きな城内に避難をしていた。周囲2キロメートルはある城は、城門の裏手は深い森林であり、人の入り込める余地は無い。
 今、寄せ手の隣国の2国の兵が、城門の前の大きな石で出来た橋の上で領主の騎士達と対峙し、双方が動けずにいた。城の城壁の前は大きな堀があり、城内に通じる通路はこの幅10メートル、長さ30メートル程の橋しか無い。
 領主の騎士は盾を前面に構えて、頑強に橋の道を塞いでいる。。

 領主ジャスティスは、城の最上階の部屋の椅子に腰を掛けている。城の広間には文官や婦人が集まって不安そうにしていた。既に、周りの親交のある領主達には援軍の要請をしていた。
 陽の光が弱く、周りの森林を暗くしている。城に続く1本通も森林で囲まれていて、寄せ手の兵も多くは詰めかけて来られないでいる。膠着状態が1週間程続いていた。城内では騎士達は冷静であり、近隣の領民達は不安を隠せないでいた。。

 1人の騎士が城の後方の森林から城に入ってきて、領主に面会を求めた。領主の部屋に騎士が通されると、数人の騎士達に武器を没収された。
「 そなたは、ギルシト殿を隣国に逃がしに行ったのではなかったか? 」
領主が騎士に尋ねた。騎士は片膝を付き、領主に事の顛末を説明した。
「 それでは、ギルシト殿は、この城に向かわれているというのか? 何故、そのようなことをなされたのか 」
領主は頭を悩ませた。騎士は、まもなく2人の騎士と共に、彼は城に到着するはずであると言い領主に謝り、申し開きをした。。

 領主は部屋を出て、空が見る事が出来るテラスに出て曇った空を見上げた。どんよりとした黒い雲で覆われている。
 ふと城門の方の空を見上げると、その暗い雲が晴れ上げっていて雲が城に向かって押し流されてきていた。すると、どんよりと暗い雲の切れ間から光が一斉に線の束と成って、まるで光のカーテンの様に城を照らした。
 その雲の上方から、大きな光る羽を持ち合わせている天使が数え切れない程、ゆっくりと降りて来た。領主は、何事かと思い上空を見ていると、今度は大きな身体をした大天使達が無数に空を飛び回っている。金色の金粉の様な光を迸らせている。
 寄せ手の兵士達は、その光景に恐れおののき「 神か? 天使か? 」を口々に言い、ざわついていた。
 そして天空の光が一段と大きく成り弾けた所で、大天使長ミカエルが純白の甲冑に身を包み、強大な身体で光を発散し、羽を大きく広げて降臨してきた。。

 城内の者達は、外で騎士達がざわついているのを、何事かと怯えているのみであった。大天使達が、光の矢を寄せ手の兵士達に放ち出した。それで、寄せ手の兵士達は次々に倒れて行った。
 大天使長ミカエルは宙に浮きながら静観をして見ていた。城の上の暗雲は既に晴れ渡り、青空が顔を出している。遠くから近付いてくる晴天が、城門の1キロメートル程の距離に来た時、寄せ手の兵士と城門と城内にいた者達皆の頭に、声が聞こえてきた。
「 止めなさい。 争いを続けるのは 」
見ると、ギルシトが騎士2名と寄せ手の兵士達が道を開ける所を、歩いて来ていた。彼は、武器を持たずに、騎士2人も武器を持っていなかった。。

 ギルシトの身体からは光気が発散されていて眩しい。寄せ手の兵士達も彼が何か特別な存在であるかの様に思えて、手を出せず、ただ見続けていた。
 大天使長ミカエルが大きな姿で森林の中に降り立つと、地面がグラリと揺れて人々が倒れそうになっていた。ギルシトが寄せ手の兵士と、城門を守る領主の騎士達の間の距離にまで来て止まった。そして、皆の者に言った。
「 邪悪な心を持って、争うことはなりません。今、この銀河は邪悪なものから解放されました。 戦いは止めて国に帰りなさい 」
 ギルシトが話し終わると、多くの大天使長達が光を伴って降臨してきて、彼を天空へと誘っていた。彼は、天空へと向かい宙に浮きだして、多くの天使達がそれに合わせて上空で乱舞していた。。

 ギルシトは昇天した。それに続いて大天使長ミカエルと大天使長達が続いて空高くへと昇っていった。この銀河での役割を終えたのである。
 残された者達は、ただ余りの突然の出来事に呆然としていた。
 寄せ手の兵士達は歩いて森林の道を引き上げて行き、騎士達はそれを呆然と見つめていた。天は雲1つない真っ青な晴天へと変わり、恒星が輝きを放っているのみであった。。

 領主ジャスティスは、それを見て、
「 神の王子が、天界に帰られた 」
と言い、その後に、直ぐに近くの騎士達に城の守りを固める様に細心の注意を払い指示を出した。
 近隣の領主の援軍が、近くまで来ていてそれを目の当たりにしていた。口々に、「 あの輝かしい光は何だ 」と言っていた。

 夜に成り、辺りが静かに成り、領主がテラスから夜空を見上げると、近年に例の無い程の輝く星々が満天の空に見る事が出来た。

 第12章 『 異星 』

 中心が透明な青色の、銀河の大きさを上回る星系があった。その星系は青色、黄金色、赤紫色などが入り混じった星系で、大宇宙∞の中でも一際、珍しい大きな星雲の様な地帯である。
 その星系は文明が高度に発展・発達していて、3人の王がそれぞれの空間に満たされた物質や惑星を支配していた。それぞれの異星人は3部族に分かれていて、3部族はお互いに尊重をし合ってその広大な星系を支配し、統治していた。
 それぞれの星間は、魂の移動で行われていて、近代的な最先端技術を余り持たず、生まれ持って授かっている神力により、星間を移動できて、宇宙船を必要としなかった。

 星系の3部族は、遥かな光年に渡る領土を保有していて、しかし、一切として争いごとを好まずに平穏に暮らしていた。
 そこに或る日、サターンの第3子なる者が、突如、悪魔達を引き連れて広大美創な惑星を次々と強奪し、暗黒の土地へと変えて行き、異星人達を奴隷として配下に組みして行った。
 異星人達は肉体から魂として抜け出して、悪魔達と壮絶な闘いを始めて行った。異星人達は物質としての肉体を持っていた。しかし、異星人達は霊体となり、半分実体で半分霊体である悪魔達と戦う術を持っていた。
 部族の3人の王は協力をし合い、宇宙空間で悪魔達に霊体での戦いを挑んでいった。

 3部族はそれぞれに首都である多くの惑星が密集した惑星群を持ち、それらを結ぶと丁度、宇宙空間の中に巨大な聖三角形を描いていた。
 部族の魂の霊体の塊は、大きなもので空間的に数光年にも及び、一度魂の共鳴が起きると宇宙空間に白色の生命の泉を産んだ。
 部族達は大宇宙∞の自然の中に生きていて、自然体で清廉潔白な純粋な生命であった。

 異星人達と悪魔達の戦いは長きに渡り、結局、3部族は悪魔達を打ち砕き、星雲を再び光輝く宇宙空間での煌めく星雲へと戻した。

 その少し前、バトリスと大天使長ガブリエルと大天使長達は、地獄でサターンと対峙していた。サターンは天界を急襲してから地獄に戻り、暗黒の魔術を駆使して更に身体を増幅させて巨大な姿に成っていた。
 地獄の中で、バトリスがサターンを目の前にすると、その暗黒の淵の中でその巨大さに圧倒されていた。彼は『 神 』の名を唱えて、右手に持ったソードと左手の盾を青白色に輝かせてサターンに突撃をして行った。
 バトリスの光を放つソードが、悪しき者の身体を貫いて必勝を確信した時、地獄が地響きを上げて大地の中から熱風が吹いてきて、彼の身体を吹き飛ばした。

 それを庇う様に、大天使長達が次々にバトリスの盾となるように彼の身体を囲み、溶岩の様な熱風でその身体を失っていった。大天使長ガブリエルが「 撤退 」の命令を直ぐに出して、地獄から宇宙空間に抜け出すと、そこには傷付いて瀕死のバトリスと大天使長数名と大天使長ガブリエルしか残っていなかった。
 そこは、異星人達の星雲であった。

 異星人の部族の3王が、傷付いた者達が聖なる者達であると視ると、それぞれの惑星群で手当てをしてくれた。バトリスは瀕死の重傷で、しきりに『 神 』の名前を唱えて許しを請うていた。
 緑豊かな惑星で、異星人達は天使の羽を持っていた。バトリスに付き添いで看病をしてくれる異星人が居た。その者は、白色に輝く異星人の女性で、大天使長ガブリエルはその淑女に彼の看病を任せて、部族の3王に事情を説明していた。
部族の3王の内の1人が申し出た。
「 かの傷付いた御人は、神の王子であられるか。では、私どもは貴方がたを歓迎致します。 ゆっくりとこの星雲にご滞在して下さい 」
 また、別の1人が申し出た。
「 今、この星雲は争いが終わり、平穏に成っています。永遠の平和はいつ訪れるのでしょうか? 」
 大天使長ガブリエルは答えた。
「 それは答えかねるが、天界は正しく神の王国である。貴方がたの知り得る事では無い。だが、生命が誕生して大地で産声を上げる理も、天界の謎であり神秘である 」

 バトリスに寄り添っている淑女は、光輝く身体を持っていた。それはこの惑星人特有のものでは無く、この淑女が彼の運命の相手であった。
 バトリスとその淑女は恋におちた。傷付いた身体をバトリスは神力で治していくが、その淑女は彼の看病を止めなかった。2人はいつの間にか、「永遠の時間を共にする」誓いを立てていた。
 戦いの神と天界で言われ、天界でも畏れられている彼には、似つかわしくない優しさを持つその淑女は、彼といる時だけは、はにかむ様に笑顔を見せた。
 バトリスはその星雲の紋章である「煌びやかな十字」みて、心を落ち着かせていた。
 やがて、2人は再会の約束を交わして、彼とその淑女は別れを惜しみながら握った手を放して、バトリスは大天使長ガブリエルと大天使長達と旅立っていった。

 淑女は、その約束を信じて、彼等が去っていくのを見守っていた。

 第13章 『 勅使 』

 今、『 神 』の近衛師団大隊は、無限の大宇宙∞の只中にいた。『 神 』の玉座には具現化した神がいて、その玉座から見て右の椅子には神の第5王子スペーシタイムがいてその横に大天使長ラファエル、左の椅子には第3王子マテリアがいてその横には大天使長ウリエルが座っていた。
 戦況報告の瞬間である。

 直ぐに、第6王子ギルシトと大天使長ミカエルと多くの大天使長達が現れた。『 神 』からの言葉はただ、「 ご苦労であった 」のみであり、ギルシトもその言葉を聞き、右膝を付いて頷いている顔に微笑と安堵が伺えた。

 続いて、第4王子バトリスと大天使長ガブリエルと少数の大天使長達が現れた。『 神 』は玉座から立ち上がり、右膝を付いて苦渋の顔をして見上げるバトリスの肩に手を差し伸べて軽く労いの言葉を掛けた。
 そして、彼には、炎と雷と光を発する剣と、どんな攻撃をも防ぎ跳ね返す空間の盾が授けられた。それをバトリスは有難く受け取った。

 ギルシトとバトリスは、それぞれ、スペーシタイムとマテリアの横の宇宙空間に設けられた椅子に腰かけた。それらの椅子はどれも彩色を豪華に施された巨大な銀河の様なもので、独創的なものであった。
 近衛師団大隊の大天使長達は皆、それぞれに不思議な特徴を有している豪華な鎧や甲冑を身に着けていて、共通する所は必ず純白色を基調としている所である。それが、10万の数で50個、宇宙空間で蒼然と佇んでいた。

 『 神 』は玉座に戻り振り向き座って申された。
「 地獄の最下層では、例えバトリスといえども神力を最大限に発揮する事は敵わないだろう。 バトリスには大変な苦労を掛けた。 時機、サターンは宇宙空間に自ら出てきて、暗黒の魔術を持って征服を企んでくる 」
 椅子に座る神の王子達と大天使長達は、続けて言葉を待った。
 『 神 』は申された。
「 無限の大宇宙∞のそこかしこに未だ暗黒に堕ちた星々が点在する。 それらに光を取り戻す事をギルシトに頼もう。 バトリスは大宇宙∞の悪魔達を滅するように 」
 バトリスとギルシトは椅子から直ぐに立ち上がり、それぞれ大天使長ガブリエルと大天使長ミカエルと多くの大天使長達を従えて、旅立っていった。

 残った近衛師団大隊は、無限の宇宙空間で神々しい輝きと煌めきを放って数100億光年の彼方までも、その光で照らしていた。

 一方、天界では、天使達が『 神 』の天界での存在を疑い始めていて、疑心暗鬼と成っていた。神力の小さな天使達では、『 神 』の存在を直に感じる事が難しく、その小さな神力では『 神 』の御心を知る事も出来ずに、その声を聴く事も出来なかった。
 第1王子と第2王子は、天界の王宮を多くの大天使長達で、守りを固めていて、文官の大天使長達を天界のあちこちに使いに出しては、天使達の不満の収拾に奔走していた。

 天界でも、『 神 』への不信という種が、一部の天使達の間で燻っていた。

 第14章 『 生命 』

 無限の大宇宙∞は何時から存在をしていたのか? 何故、存在をしているのか? どのような過程でできあがったのか? 形や構成物質や時間や空間とは何なのか? 生命はそこでどの様に誕生して、何故、進化を遂げて大宇宙∞の事を考えたり、種族を増やそうとしているのか?
 地球という惑星に微生物が発生して、進化を遂げて、遺伝子的に変化を遂げて、生物的に突然変異をして種族が分かれて、新しい何々科という種族が発生する。現在でも、学者達が動物の新種を発見したとニュースに成っているが、それは過去からいたものか、現在で突然変異をしたものかは不明である。

 生命を語る上で重要な事は、自己から見た他者と、他者から見た自己である。人という動物は風邪をひくとウイルスが原因で体内のウイルスを無くそうとあらゆる手段を取る。例えば風邪薬を飲んだり、睡眠による免疫の強化、等が上げられる。
 しかし、ウイルス側から見ると、人体という身体を宿主として種族の存続を図ろうとして、1人の人が風邪を治したら、また違う人の身体で風邪ウイルスが猛威を振るう。そして季節が過ぎる頃には風邪をひいている人はごく少数となり、細々と生命を存続させていく。または、何処か自然界の住処に戻り、翌年の繁殖期を待ち変異をして(同じ風邪は人は免疫で抗体が出来てひくことは無い)、風邪のウイルスの生命の最盛期を待つ。

 これはどの地球上の生命にも言える事であり、微生物、ウイルス、細菌、昆虫、魚類、貝類、甲殻類、両生類、爬虫類、哺乳類、そして哺乳類としての人にも当てはまる。繁殖の仕方は違えども、全ての種族が食物連鎖の中で自らの種族の繁殖を願って個体数を増やそうとする。
 一方で、その食物連鎖の中で、地球上では幾ら強者がいても、その種族が単独で地球上で存続する事は出来ない。人にとっても、地球上でこの先、数100億人という個体数の発展を遂げても、植物や動物や魚類等の、酸素を供給してくれる種族がいて、食料と成ってくれる種族がいて、タンパク質を分解してくれる種族がいてと、全てが食物連鎖の中に組み込まれている。

 どんな小さな環境変化でも、地球は脆いのである。絶滅危惧種という言葉をよく耳にする。これはシーラカンスの様に、1億年以上前の地球上環境から種族を繋いできた生命である。ニホンオオカミという狼の種族もいたが、乱獲により100年程前に絶滅をしている。
人はどうだろう? 人には知性と器用な体を『 神 』が与えられた。これにより、どんな窮地に立たされても、生命の絶滅の危機を乗り越えて来た。人類発祥の数十万年の期間の間に。これはたかだか数十万年の期間だが、されど数十万年の期間である。
人に成る前は、原人の時代があり、哺乳類の発生の時代があり、その人類の祖先は数憶年前まで遡れるはずである。遺伝子工学により、それを常識として現代人は受け入れている。

 では、人とは、生命とは何であろうか? 仕事もしたり、食料を得る為に動き回ったり、遊びを開発したり。睡眠をとったり、喜怒哀楽を持っていたり。
 これらは、人だけでは無く、他の動物にも見られる事である。例えば犬という動物である。犬は明らかに人の意図を汲んで動きを考えている。人の感情変化までも理解をして、人に接している。言葉もある程度理解している。
 日本式にいうと「お手」というと犬は座りながら右手を人に差し出し、「おかわり」と言うと犬は左手を人に差し出す。「待て」と言うと、犬は与えられた自らの食事でさえ、我慢をして待ち続ける。
 犬を人が叱ると、犬は悲しい表情をして涙さえ流す。褒めると尻尾を振り、喜んで庭を駆け回る。これが知性が無いと言い切れるのだろうか? 人権は無くとも、犬として生きる権利はあり、むやみに殺生をしてはいけないのではないだろうか。

 ウイルスは確かに、人に危害を加える。しかし、恐ろしい事に、ウイルスも集団的な役割が存在していて、人に警笛を加えている可能性がある。地球上の自然環境の破壊の警告である。人に自然環境破壊を考えさせる一端を担っている。
 自然環境とは、小さな地球上では巡り巡って人が人に危害を加えてくるのである。海洋汚染は、魚に寄生虫を多く住まわせて、食料としている人を漁業や食べる時に悩ませる。大気汚染は、人に気管支の障害や肌や内疾患という形で、危害を加えてくる。土壌汚染は、飲み水や植物の汚染や除染作業という問題を抱えさせる。

 生命の根源は、相互作用である食物連鎖は言うまでも無く、地球環境的に大きな相関性が存在している。
 これは何故かというと、生命の構成単位であるタンパク質に由来していると突き詰められる。タンパク質の元はアミノ酸であり、これらは自然界での生成物である。主に炭素や酸素や水素や窒素を構成成分としている。
 それらは地球上で循環されて、巡り巡って人だけでは無く、あらゆる地球上の生命に保持されて、体を構成する成分として、人や動物の体内に取り入れられて行く。

 生命の存在意義は、即ち、共存である。『 神 』が1滴の水を地球上に発生させて、それが雨となり地上に降り注いで海となり陸地があり、という伝説は、地球上のあちらこちらに存在している。
 もちろん、生命にもっとも必要なものは水であり、次に炭素や大気等である。これらの他に、地球上ではタンパク質を構成するあらゆる元素が必要であり、1つの種族では無くあらゆる種族が共存をしなければ、成り立たないものである。

 宗教の経典等は、古くて3000年前くらいに出来ています。それより前は自然信仰であり、口々に人から人へと拙い言葉で受け継がれてきたものです。
 大宇宙∞のそこかしこに、恐らく生命の息吹が存在していて、そこかしこで『 神 』について宗教という枠を超えて、語られていると思われます。地球上だけでは無く。
 それらは純粋なものもあり、俗世のものもあり、ひきこもごもであるでしょう。しかし、大宇宙∞を創造された『 神 』が存在しているか否かは定かではないとの思いも、また人にはあるのです。なぜなら自我は自分自身が持っていて、「俺は自由に動いていて、こんな凄い事ができるだろう」との驕りがあるからです。

 ここで、間違いがあると思います。人の考えは自分で行っているということがです。小さな地球上で、人と人が関係する時、人と自然が関係する時に、必ず思い通りの動きができていますか? という事実です。偶々、凄い事が出来たのではないか、偶々、人の限界があり1番になれたのではないか。年齢の衰えで必ず、朽ちて行くのではないか。
 これは、相対的な事であり、絶対的な存在が相対的な存在に影響を及ぼしているとの考えが理解出来ます。
 地球の寿命は相対的であり、地球環境、太陽系環境、銀河系の環境、大宇宙的な環境で、今後の人が思い描いている未来図通りに果たして行くのでしょうか? 不安を煽っているのでは無く、より真面目で健全な方法を、地球上に生きる人として取らなければ成らないのではないか。

 『 神 』は、それらを全て見越している、素晴らしく平等で親切で優しく厳しい、存在なのではないでしょうか。
 全知全能、神羅万象、万物創造、不老不死、悠久無限な存在であり、人というとてつもなく小さな生物には理解できない、とてつもなく巨大で偉大で広大で、目に見る事が出来ないが、感じることが出来る、その存在自体が在るから人が道を外さずに生きる意義を見失わない有難い存在であると思われる。

 第15章 『 聖愛 』

 生命の生きる根源は、遺伝的な愛情であると思われる。愛情は色々な形があると、兼ねてから語られている。人として生きるという事は、血縁や婚姻の近い者から遠い者へと、次第に愛情が薄れて行くものである。逆さに言えば、家族や婚姻関係により、愛情が芽生えると、それは遺伝子を超えて他の種族にも愛情が向くものである。
 例えば、家族という括りでは、愛犬や飼い猫、はたまた手塩を掛けて育てた家畜にも家族愛が芽生える。闘牛、乗馬、鳩、等色々と。
 人が人として生きるには、やはり誰かの愛情が必要である。それが、人が生きる原動力となっている。

 人類という大きな括りでは、これに地域差が存在している。干ばつの地域では、赤ん坊でさえ食べ物が無く苦しんでいるというのに、それを気にも留めない人々がいる。それがたったコップ1杯の牛乳で飢えを凌げるものであっても、小さな血縁という括りでの家族の愛情しか信じない人々にとってはどうでもいい事なのである。
 それどころか、そんな赤ん坊達の命を顧み視ずに、愛猫の世話を1日中する事も人は厭わない。しかし、これが正しい事なのか、間違っている事なのか、断定する手段が人の考えには無い。
 先程の愛情は遺伝子を超える事もあるからである。これが共感だとか、共鳴だとか、動物同士がお互いの感情を慮る遺伝子の現象だからである。
 愛情は遺伝子的な繋がりがあると、又は、そのフォルムにでさえ共感を生じる。それは、海や山に向けられたり、アニメキャラクターに向けられたり、花に向けられたりと様々である。

 愛猫を取るのか、飢餓に苦しむ血縁の遠い赤ん坊を取るのかは、その人の良識により選択される。愛猫を取るのも家族であるから当然の事であり、飢餓に苦しむ血縁の遠い人の赤ん坊に食糧を分け与えるのもごく当然の事である。
 その判断は、人としての遺伝子的な感情に委ねられるからである。遺伝子とは、地球上では太古の昔から受け継がれて来て、それが環境変異により分岐して今の哺乳類がいて、人が存在している。犬も猫も、元は同じ種族から分岐してきたものであるとの一般的な遺伝子的な解明が為されています。

 『 神 』は、生命を造り賜って、その全てを愛しているのかどうか? これは、よく耳にする事です。特に、人に至っては、『 神 』という形は違えども、何らかの方法で祈りを捧げる、又は信じることで、救われるとの信念を持っている人達が居ます。
 しかし、物質世界では、やはり人として生きるには食料が必要です。これは、人が肉体を持って生きる事を前提として、物質世界での存在が可能だからである。肉体を構成するのは細胞であり、その糧と成るのは食料だからです。1杯の牛乳で、人は命を半日繋げるとしても、それが得られない人もいるのです。
 天界に旅立つ時まで、やはり食料というものを人は必要としている事実は、否定できません。飢餓に苦しむ遠い血縁の赤ん坊を救う為に、自分が飲もうとしている1杯の牛乳を赤ん坊に差し出す事は勇気がいります。何故ならは、その1杯の牛乳を飲まなければ、自分自身の命も危ういからです。
 私財を差し出してその赤ん坊に1杯の牛乳を与える事は、将来的に自分が飢えた時に、その差し出した私財で失った金銭により後悔をして悔いるのではないかという考えが頭を過ぎるからです。
 我が子の為ならば差し出せる残り1杯の牛乳であっても、血縁の遠い赤ん坊にそれを与えるには躊躇いが生じるのが遺伝子です。

 『 神 』の命で、大宇宙∞の悪魔平定の勅命を受けた第4王子バトリスは、1人、異星の淑女の元を訪れていた。戦いの合間に立ち寄る事を、大天使長ガブリエルに了解を取っていた。
 異星の惑星の大陸にある色とりどりの花畑の中、バトリスと淑女は2人だけで歩いていた。淑女はおおらかな表情で彼を見上げていた。彼も戦いの合間の休息で、武器も何も持たずに金色の模様を施している純白の服に身を包んで、淑女を誘っていた。
 異星には、輝く星々が昼間でも幾重にも光を惑星に降り注ぎ、その輝度は天界の如くであり、しかし、熱くなく暖かみを感じるものであった。
 バトリスと淑女は永く抱き合い、時間を忘れて、幾日もの間、花の中に佇んでいた。そして、大天使長ガブリエルの迎えが来る時に、お互いに別れを惜しんで、バトリスは武具を纏い大宇宙∞の空間へと旅立って行った。

 第16章 『 真意 』

 真意とは時に、発せられた言葉の中に含まれない事がある。言葉の組み合わせは有限であり、思考は限りないからです。
 時に、人は言いたい事と反対、少し本質を反らして言葉を発します。相手との関係であったり、立場上の問題であったり、本心を言えなかったり。それが、人であると思います。
 「 あなたが間違っている 」「 いや、あなたが間違っている 」とのやり取りはよく耳にします。それは、中立的立場から見ても、必ず私情が入り込み、本来の正しい意見がどちらかなのかを特定する事ができません。
 立場の違いで、人は真実を作り出してしまうからです。

 集団と集団の見解でも、「 落とし込み点 」とか「 合意地点 」が必ず行われます。この見解を用いるのは、人が感情に支配されている不完全な生き物だからです。
 人は不完全な生き物です。それは誰もが知っている事実です。老若男女全ての人に言える事で、先に話した絶対的な存在は存在せず、相対的な比較により「 あの人は凄い 」「 あの人は頭が良い 」「 あの人は清廉潔白だ 」との評価が下されます。
 だから会議、ミーティングを人は必要としているのです。

 天界では、『 天界の王宮 』から神の第2王子が、天界に存在しているあちらこちらの神殿を回っていた。事態の収拾に努めていた。
 文官の大天使長達が、王宮に戻ってくるとある異変を第1王子、第2王子に報告をしていた。天界の各地で、天使達の不満が鬱積し、不満と成って大天使長達に向けられた。それは、戦時中の厳戒態勢の下、当然に起こることであった。
 全てを統べる『 神 』が大宇宙∞に戦いに赴かれて、久しく、『 神 』の不在を嘆いての事であった。

 或る神殿に辿り着いた第2王子は、天使達で満たされている壮大な光で満たされている神殿の中に入り、皆と同じ立ち位置から大声で皆に言い放った。
「 天使達。皆の不満は解るが、神は天界に未だおられる 」
1人の天使が前に進み出て彼に言った。
「 神は、戦闘に赴かれたのに、何故、そのような事が言えるのですか? 」
 天使は不安な面持ちで言っている。若い青年の天使で、真っ直ぐに第2王子の目を見つめている。第2王子は、直ぐに言いかけた言葉を飲み込んだ。
「 王子様でも、御答えに成る事ができないのでしょう? 」
また、1人の天使が追従して申し出た。

 第2王子が答えに詰まっている時に、光輝く神殿の外から更に光の強さを増した何かが神殿を包み込んだ。
 天使達が急いで神殿の外に出てみると、光の根源は解らないが、天使達の体の中に何か熱いものを感じて、光の光源が見えない程の眩しい限りなく巨大な存在が居た。
 天使達は、それがまがうことなき『 神 』である事を悟った。光の光源は、何か語り掛けてくるようでいて、神聖な何かを感じさせる存在であった。

 第2王子が片膝を付くと、天使達は余りの嬉しさに皆で背中の羽を広げてシンプルなドレスに身を包んだ格好で、皆で社交的な『 神 』を迎える踊りをし始めた。
 光源は揺らめきながらも、その光の強さを増し、天使達に慈しみを送ってきていた。『 神 』の存在は未だ、天界に存在していて、『 神 』の1部である化身が、大宇宙∞に戦闘に赴いた事を天使達は知った。

 天界は無限の輝きで、その最果てまでも光が届き、神の存在を天使達に伝えていった。天界は無限の『 神 』の光の国であり、そこでは生命は純真無垢で清廉潔白な心を持ち、一切の穢れを持たない者達が生活をしていた。

 第17章 『 命 』

 生命は何を目的に生きているかという課題を考えてみる。自分と他の人という考え方では、やはり自分を犠牲にして他人の事を慮る人は少ない。
 そういった時に、自分の身に病が降りかかってきて、何時の間にか健康を害していて、若い闊達な者達は、その人の人生の勲章を蔑み笑うものです。人が長く生きていると、どうしても身体的特徴が出来たり、身体に病を抱えるものです。もちろん、精神にもある独特の癖が生じます。
 それはその人が生きてきた環境、勉学、スポーツ、食べ物、睡眠、娯楽、等によって、身体的特徴や性格的特徴と成って、その人の人間性を形成します。

 生きるという目的は、人それぞれです。唯、生きるだけでは無く、家族の為に生きる、友人の為に生きる、子供達の為に生きる。これは、人の心の支えに成ります。苦境での踏ん張りに成ります。
 人間性を育てるものは、勉学だけに留まらずに、スポーツ、趣味と多々あります。人とは絶望する時もあれば希望を漲らせる時もあります。ここでも唯、人は本人でそれが希望に繋がるのか、絶望に繋がるのかを見極める能力を若い内に養わなければ成らないと考えます。

 人にはその人生での癖により、面倒見の良い信頼出来る人と、そうでない人がいます。もし前者ならば固い絆を結び、潔白な関係を築きたいと思うはずです。しかし、信頼できない人であると、裏切られ利用されてしまいます。信頼できる人を信頼できない人が貶めようとした時には、なかなか上手くいかずに、本来ならば信頼されている人は信頼するに当たるので、世の中に歪を生じさせます。世間が狂い、世が乱れるという事です。

 人間関係の範囲が広い人ほど、その観点からは危険を生じます。ちょっとした知り合いが何処で何を行っているかが判らないので、不信感が生まれると共に、遠い知り合いが本人の生活影響を与えてくる事があります。
 その対策としては、信頼できる人間関係を絞った付き合いをする事です。遠い知り合いは、所詮は他人と同じで利用される事があり、それが人生を狂わせる事になります。
 だから、清廉潔白でいて、間違った事をしてはいけないのです。

 しかし、不思議な事で、人は1度信じた人がいると、命を投げうってでも守ろうとする性質があります。この性質の人は、本当の聖人であると考えます。自分の損や身体的危険や金銭を顧みずに、助けてくれる事があるのです。これが、色々な意味での人の本質的優しさであると感じます。
 また、人は信じるに値する人間でなくては成りません。これは性格の良さ、人間性の豊かさ、異性関係の潔癖さ、真摯さ、健全さ、金銭的な清さ、等であると思います。

 私は1人で誰にも頼らずに自分で頑張る主義です。皆様は、SNSで知り合ったとか、道で1回会った人に、プライベートを教える事が出来る人、出来ない人がいるはずです。しかし、相手の素性も知らずにこれをすると危険が伴います。騙される可能性が否定できないからです。騙されるのもまた人生なのですが、それを糧に成長をして行かなければ成りません。
 騙されるというのは、金銭、純情、清廉、性格、財産、等を失う事を表します。人によっては、騙されている事に気付かない、若しくは騙される事を喜んでいる人もいます。これは一時の快楽を得られるからであり、しかし、一時の快楽は人を堕落させます。

 生きるという事は、危険を回避していく毎日です。これをしかし、深く考えだしたら人との関係も上手くいきません。
 それでも、人を信頼して、清廉潔白を貫く人達がいます。これが思慮というものです。自分が損をする事が解っていても、人を助ける「 優しさ 」です。間違った道に誘わない「清廉さ」です。

 結局、命とは最期に失われて行きます。徳のある偉い方が、「死を迎える事について」申されていました。所謂、「終活」というものです。
 「生」と「死」の間を人間は恐れます。生きている人間は「生」側に属していて、死ぬと「死」側に人は属します。考え方は至ってシンプルです。恐らく、その間での「苦しみ」を人は恐れているのです。
 では、人は「生」の側に居て、苦しみがないでしょうか? いえ、苦しみはあります。自ら「命」を断つ人がいますが、それをしてはいけません。「死」を迎える苦しみより、「生」での苦しみの方が余程、軽いからです。

 何故、「死」を恐れるのかというと、「死」は全てを失う事だからです。しかし、果たしてこれは真実でしょうか? 1番良いのは「精一杯悔いのない様に生きて老衰で死ぬ」事を待つ事だそうです。山あり、谷ありの人生を精一杯生きて、好きな人達に見守られて『 神 』の元に召される。だからこそ「死」を自ら選択してはいけないのです。
 人は「死」を目の前にして、「悔い」と「懺悔」を必ず行います。身体が弱った時にも、同じように。これが出来たら、恐らく『 神 』はその人の人生の「過ち」を許してくれて、人の「魂」は『 天界 』に召されるのでしょう。

 「生」と「死」。先ずは、人として生まれてきた以上、一生懸命に「生きる」事をしなければ成りません。その上で、歳を重ねて悔いなく精一杯に生きた後に、「死」を目前にした時に、自分自身の「死」を受け入れられるかです。
 偶に、人間は病を患います。最近では新型コロナウイルスの話題があります。ウイルスに身体が冒された時に、突然の事で、「まさか私が」と考えるはずです。
 稀に、事故に遭います。自動車事故、乗り物事故、スポーツでの事故、仕事での事故。これも大事故で身体に大きな怪我を負った時には、「まさか私が」と、人生の先が真っ暗に成ります。

 しかし、人は不老不死では無いので「いずれ死を認める」事をしなければ成りません。『 神 』に対して、いずれ来る自分自身の「死」を認めないと、恐らく『 天界 』に昇れないからです。
 その覚悟が出来るかは、如何に人生を「一生懸命生きてきた」かであると思います。「生」に対しては「真摯に最善の努力を続けて」、やはりどうしても人は「死」を迎えるのでそれを認める事が瞬間に出来るかです。
 自らの「魂」の行く先を見失う事が無いようにしなければならないという事です。自らの『 魂 』を『 神 』の元に召して頂くような「生」「人生」「死」でなければならないはずです。

 『 神 』と『 神 』の近衛師団の存在を感じ取った、大宇宙∞の各銀河や各星系を束ねる異星人の王達が次々に『 神 』の元に集って来ていた。
 或る王は、少数の部下と共に、或る王は、自ら1人のみで。それぞれに王たるに相応しい貫禄のある威風であり、壮大ないでたちをした者達であった。
 『 神 』の化身はこれらに、労いの言葉を掛けて助力を許された。

 第3王子マテリアと第5王子スペーシタイムは、大天使長ウリエルと大天使長ラファエルと共に、ルシフェルとの決戦の時が近い事を悟っていた。
 マテリアの部隊に所属している大天使長でひと際輝きを放っている大天使長が居た。この者は、どの大天使長よりも美しく、可憐であり、青年の大天使長であった。マテリアの親族であり、マテリアが全幅の信頼を置いていた。
 マテリアはその美しい大天使長に、第4王子バトリスの援軍に行く様に、申しつけた。

 サターンの子と一騎打ちを演じた女性の大天使長が居た。気丈夫でいて魅力的で、一切として自分を曲げない『 神 』の近衛師団の1個大隊長であった。この者は、先のサターンの子との大戦で、ラファエルが戦う横で一切として動じず、星々の椅子に腰を掛けて静観していて、サターンの子を打ち取った者である。
 気丈夫な女性大天使長は、先の戦いでラファエルの右舷を守り指揮をし、一切として星々の椅子から立たずに動じる事が無かった。

 無限∞の大宇宙∞は、今、1つに纏まりかけていた。

 第18章 『 尊大 』

 『 人権 』とは、人として当たり前に産まれてきて持っている権利である。この『 人権 』は、生きる権利、教育を受ける権利、仕事に就き働く権利、異性と結婚をする権利、自由な表現をする権利、自分の才能を育てる権利、等、様々と存在している。
 国は違えど、民主主義社会に世界が成ってからは、成りつつある過程で、人1人の命と権利は尊いものであり、どんな権力であってもそれを奪う事は出来ないものである。

 人の定義は、果たして遺伝子のみで出来るものであろうか? 地球上には様々な人種が存在している。白色、黒色、黄色、混血の人種である。身長の高さ、体重の違い、体格の違い、容姿の違い、髪の色の違い、年齢の違い。これらは、全て環境や産まれや育ちで、変化をしてくるものである。
 言うなれば、人は人生を生きる上で多々の経験を経て成長をする代わりに、失って行くものもあるのです。それは、容姿の綺麗さ、肌の張り、健康的な身体等で、人生を生きて行くと必ず、生まれ持った身体の何処かに傷を負ったり、病を病んだり、身体のどこかに事故などで欠損を生じるのです。これはその人の人生の中で起こった事であり、人として身体という循環器や細胞で出来た容姿を持ち得ている限り、仕方のない事です。

 一方で、人には回復力、復元力もある程度存在しています。傷や骨折等は栄養を摂取していると元には戻りませんが、復元をしようという作用が働きます。
 また、病に対しては抵抗力を示し、同じ病に掛からないように人は免疫力を働かせて抗体等を身体に蓄積させます。
 そのような人という人格を持った、同じ種族の人権を何故、否定する事ができるのでしょうか? いや、出来ません。
 やはり、他者を傷つける行為は否定されるべきであり、他者の人権や人格を否定する行為は非難されるべきであり、他者の正当な自由を奪う行為は非難されるべきです。

 では、『 人権 』とは何かと突き詰めて行きたいと考えます。人の権利とは何故、発生するかです。
 人はどんな価値観で評価されているのか。容姿なのか? 若さなのか? 体形なのか? 肌の色なのか? 学歴なのか? お金を沢山持っていることなのか? 社会的地位なのか? どこの国に属していることなのか? 性格的なことなのか?
 これらは何故か、人の印象を決めてしまいます。ですが、人は人格や生きるエネルギーや人としての優しさや思慮深さが、一番大切ではないでしょうか。
 端的に言えば、人は、より人らしくいなければならないという事です。人が獣のように乱暴で獰猛で思い遣りを持たない生き物ではいけないと考えます。
 どんなに体格の大きな人でも、どんなに体格の小さな人でも、他者を思い遣る心が一番に評価されるべきであり、それをもって人らしいとするべきなのではないでしょうか。

 職業、性別、年齢、教育、社会的地位などは関係ありません。人は、他人を思い遣り、相手の気持ちを察し、相手の立場に立って物事を考えて、人の為に尽くす事が出来るものです。
 だから、相手の人生の先々を慮り、欲求や欲望を抑えて、相手を正しい道に導かなくては成りません。瞬間的な欲望に任せて、人の人生の未来の希望を奪っては成らないのです。
 それを持って、人という動物が初めて、本当に人と呼べる存在に成るのです。地球上に存在している人は皆、不完全ですが、それに向けて努力を重ねていく事が必要です。

 『 神 』の第6王子ギルシトは、大天使長ミカエルと多くの大天使長達を従えて、大宇宙∞の各地を周り、『 神 』の理を説いて回っていた。
 ギルシトの光は薄れる事が無く、その閃光は各銀河を瞬く間の内に暗黒から解放をしていった。
 それはふとした瞬間であった。ギルシトがある惑星で小川の傍で身体を休めて、小川の水を飲んでいる時であった。彼の心に語り掛けてくる暗黒の声を聴いた。

 「 ギルシト。私を覚えているか? 」
ギルシトは直ぐに、辺りの景色が恒星からの光が閉ざされて、暗黒に堕ちて行くのを感じ取った。川のせせらぎの音は消え、花々の色が色褪せ、遠くの草原が霞んでいった。
 彼は、大天使長ミカエルの名を呼んだが、大天使長達は皆、返事を返してこない。彼は装備を装着していなかった。
 暗黒がギルシトを包み込もうとした時に、彼は『 神 』の名を唱えて心の灯を取り戻そうとした。彼は、サターンの存在が近くにいると感じていた。

 サターンの声は立て続けにギルシトの心に暗黒の言葉を投げかけてきた。それは「悪意」「暴力」「軽蔑」「したたか」「侮蔑」「不遜」等であり、ギルシトの心の清廉が濁りそうに成っていった。
 ギルシトは1人でそれに耐えて、『 神 』への忠誠、信念、愛情、を幾重にも思い出して、『 神 』の栄光を唱えた。
 それが永劫に続くかに思えた瞬間に、ギルシトの心が光を取り戻し、辺りの景色が鮮明に成って視界が開けて行った。ギルシトはサターンの誘惑に打ち勝った。

 昼の惑星の明かりが元に戻った時に、大天使長ミカエルが現れて、不覚に対してギルシトに謝罪をした。
 その後、ギルシトも元に、第3王子マテリアから遣わされた美しい青年の大天使長達が現れて、その者達は大地に跪き、ギルシトに頭を下げた。ギルシトは数万の大天使長に囲まれて、自分自身の役割を思い起こしていた。
 それは遠くに地平線が見える花々の咲き乱れる草原での出来事であった。

 第19章 『 決戦 』

 『 神 』の化身と『 神 』の近衛師団の元に、第3王子マテリアから第6王子ギルシトの下に使いに出していた天界で最も美しい青年の大天使長が戻ってきて、『 神 』にギルシトの功績を報告していた。
 『 神 』はそれを淡々と聞いてはいたが、喜ばしそうにしていた。労いの言葉を掛けられた青年の美しい大天使長は、マテリアの傍に坐した。
 『 神 』は申された。
「 サターンは直ぐに宇宙空間に出て来る。心して掛かれ 」

 その言葉が発せられたと同時に、近衛師団から遠く70億光年は離れた所に空間の歪みが突然に出現をした。邪悪な暗黒の何かが、宇宙空間の歪みに空間と時間の窪みを作り出し、そこから巨大な暗黒の手が這い出してきた。

 『 神 』の王子達と近衛師団は直ぐにそれに反応して、陣形を整えていった。
空間の歪みに対して前方左方に、近衛師団でも勇猛果敢な壮年の大天使長、前方左方手前にマテリア、その前方左方手前に天界で最も美しい大天使長、その隣にマテリアの子息、前方左手下方にウリエル大天使長、前方左手上方にガブリエル大天使長が並んだ。
『 神 』の化身は中央の奥最前列におられた。
空間の歪みに対して前方右方に、女性の気丈夫な大天使長、前方右方手前に大宇宙∞の平定に向かっていて突如戻って来たバトリス、その前方右手にラファエル大天使長、前方右方上方に惑星から戻って来たミカエル大天使長、前方右方下方に近衛師団1番の古老の大天使長、中央の奥最前列右方にスペーシタイムが居た。

 他の大天使長達は、それぞれ1個師団毎に、数光年ずつ離れた位置に『 神 』を護衛する様に、また、地獄から這い出て来たサターンを包囲する様に、密集して等間隔に宇宙空間で緊迫して陣形を整えていた。
 空間の歪みから這い出て来たサターンと数多の悪魔達は、散り散りに密集して近衛師団の包囲に対して対峙していた。

 戦端は、先ず、天界で最も美しい大天使長の「 光の矢 」で開かれた。大天使長達と悪魔達が広大な宇宙空間のそこかしこで戦闘を始めた。純白の甲冑に身を包んで剣技を振るう青白い閃光を放つ大天使長達の身体は、一切として悪魔達の攻撃を受け付けずに、悪魔達を次々になぎ倒していった。
 神力を集中させて大天使長達から放たれた「 光の矢 」や「 光輪 」や「 光線 」が悪魔達の身体を次々と貫いて行った。

 程なくして、時間の流れを感じさせない程、時が経った時に、宇宙空間には整然と隊列を整えた『 神 』の近衛師団と、サターンの姿があった。
 『 神 』もサターンも無表情で、遠く数十億光年離れた距離で、相手を遠視していた。サターンが前に空間中で進んできた。
 左方に陣取っていた勇猛果敢な大天使長が攻撃を仕掛けて行った。サターンはそれを防ぎ切ると、マテリアが「 物質の塊 」をサターンにぶつけて行った。
 右方からはバトリスが剣技で仕掛けて、ラファエル大天使長が光球からの光線でサターンに攻撃を加えて行った。
 サターンはそれでも進むことを止めずに、『 神 』の化身から「 神の雷 」をくらい、スペーシタイムからは「 光の剣 」を食らった。

 サターンはそれでも進む事を止めずに、巨大であった身体が元の大きさに戻って行った。『 神 』の玉座に前まで来たサターンは、抵抗をするでも無く、唯、『 神 』に許しの眼差しを送っていた。

 『 神 』は玉座からサターンを見下ろしていた。サターンは既に抵抗する積りも無く、玉座の前で蹲っていた。
「 ルシファー、久しいな 」
『 神 』の化身が申された。その言葉を聞き、サターンは醜いその顔を涙で濡らしていた。既に、大宇宙∞は、煌々とした光の共鳴を起こしていて、大宇宙∞に平穏が訪れている事を告げていた。
 『 神 』の化身が立て続けに申された。
「 天界と大宇宙∞の理は、愛、慈しみ、正義、優しさ、無欲、平等、謙虚、思い遣り にある。 ルシファーがした事は、私欲にまみれた自己勝手な行いであると理解しているか? 」
 ルシファーは目に涙を浮かべて、言った。
「 私は、『 神 』であるあなたが羨ましかったのです。 全知全能、万物創造、森羅万象、永久無限、不老不死、それらを全て超越している事が。 私が行った事は許されない事であると初めから判っていました。 申し訳ございません 」

 『 神 』は無表情でそれを聞いていた。『 神 』の王子達も大天使長達も、同じ様に。
少しの間があって『 神 』は申された。
「 ルシファーには地獄の王の座を与える。 これから、地獄の王を名乗るがいい。そして二度と、天界と大宇宙∞の平穏を乱す事が無い様に 」

 それを聞くと、ルシファーはそのまま、地獄の扉を開き、自らそこに戻って行った。
 『 神 』は4名の大天使長を呼び寄せ、大宇宙∞の平穏、治安の維持の任に当たる事を命じられた。
 そして、『 神 』と神の近衛師団は、天界への帰路に着いた。天界では、『 神 』の化身の帰りを心待ちにしている者達がいた。

 第20章 『 凱旋 』

 天界の光輝が最高潮に達して、天界の王宮の輪郭さえも描き消す程であった。  巨大な王宮の扉は開け放たれていて、門の右側には『 神 』の第1王子、門の左側には『 神 』の第2王子が純白の甲冑に身を包み、同じく純白で揃っている大天使長達が整列していた。
 光沢と贅沢な程の光の輝度が、王宮の周囲を包んでいた。それは紛れもない『 神 』の存在を現わしていた。

 先に、大天使長ミカエルと大天使長ラファエルが、王宮に到達していて、空席の玉座に対して頭を垂れて片膝で跪いていた。
 2名には『 神 』の御言葉が聞こえていて、労いの言葉とそれぞれに勲章が与えられていた。4名の大天使長には、それぞれに最高の大天使長としての名誉が与えられて、大宇宙∞を統べる者としての地位が与えられた。

 門で待つ2王子と大天使長達は、4王子の帰りを心待ちにしていた。大宇宙∞には第3王子マテリアと第4王子バトリス、そして大天使長ウリエルと大天使長ガブリエルと多くの大天使長を残して、残りの者達は天界の王宮に凱旋をしてきているのだ。
 第5王子スペーシタイムと第6王子ギルシトを先頭に、戦いに赴いていた大天使長の40個が整列して王宮の門を目指している。
 天界を満たしている生命の泉である雰囲気が躍動していて、凱旋している大天使長達の肌や鎧に当たり軽快な音を立てていた。

 門の外に到達して、門を潜ろうとしていたスペーシタイムとギルシトの目に、眩しい景色の中、第1王子と第2王子の姿が大歓声の中に見えた。2人の帰還した王子達は、第1王子と第2王子の目の前まで行くと、片膝を付いて左胸に右手を当てて跪いた。
 第1王子と第2王子は、跪いているギルシトとスペーシタイムの肩に手を置き、2名の無事を労っていた。大激戦であった戦いと、その功績を2王子達に称えていた。王子としての役割を2名は果たしてきたのだ。
 大天使長達は止めどなく門を潜り広い庭園を進むと、周りには若い男女の天使達や幼い純朴な子供の天使達が歓声を上げていた。皆、戦いの終わりを喜んでいるのであった。

 一方で、大宇宙∞では、第3王子マテリアが10個の大天使長達と警戒に当たっていた。マテリア所属の大天使長達は大宇宙∞の各地を周り、解放を各銀河、惑星へと伝令をして回っていた。
 第4王子バトリスは、異星に立ち寄りかの淑女を嫁に娶る祭礼を済ませてから、第3王子マテリアの了解を得て、一時、淑女を連れて天界に戻って行く事にした。
 マテリアはそのまま、天界での名誉を得た大天使長ウリエルと大天使長ガブリエルを従えて、空洞の警戒と、異星人の王達と未来に向けての話し合いを続けた。

 天界の庭園をゆっくりと歩くスペーシタイムとギルシトの足跡からは、光球が沢山発生して周りを囲む若い天使達を驚かせている。その光球はやがて、1つずつが生命と成って大宇宙∞へと旅立ち、銀河や惑星へと到達して生命の息吹と成って行った。
 やがて、2王子達は開け放たれた王宮の扉を通り過ぎると、そこは無限の光輝度が乱反射をしていて、進むに連れて目が慣れてくるとその遠く先に『 神 』の眩しい玉座が見えた。その時点で、2王子は玉座に対して一礼をすると、跪いて振り向いている大天使長ミカエルと大天使長ラファエルの間に同じ様に跪き、『 神 』の言葉を待った。

 優しい慈しみの旋律が、2王子の耳に聞こえてきた。何時の間にか、王宮は文官の大天使長達で満たされていて、音楽を奏でていた。
 純白色に黄金を施された王宮は、また純白色の甲冑を着た4名と、同じく純白色の衣を纏った文官の大天使長達がいた。
 その広大な空間の中、遅れて第4王子バトリスが淑女を伴って王宮の扉を潜った。そこで、王宮の空間に『 神 』の言葉が、響き渡った。
「 この戦いは、決して起こってはならないものであった。しかし、天界の住人に戦いの無益さを教える機会とも成った。平穏と平和こそが宝物である 」
 全てのその場の者達が、跪き、頭を垂れてその言葉を受け入れた。

 大宇宙∞の至る所の銀河の惑星では、野に草木や花々が咲き誇り、動物達が草原を駆け回り、天候は晴れては曇り雨が降り、そこに住む高等生物達の暮らしと生活に活気と困難を齎していた。
 その無限の調べは、天界の王宮からの影響力と動きで成り立っているものであった。

 『 天界の王宮(SF) 』 完